3-夢
「お父さんは?」
わたしはわたしと妹の腕を強く引く母に問いかけた。
母は――お父さん電話に出ない、でも大丈夫だから、とにかくここから離れないと、そう言って母はますます強く腕を引く。少し痛かった。
酷く暑い。真夏みたいだ。額に汗の粒が浮く。ハンカチ持ってくればよかった。
妹は涼しい顔をしている。目が合うと、
「これからさ、どうなるの?」
なんて聞いてくる。
これから……。
わたしは後ろを振り返る。
ああ、暑いわけだ。
高台から見下ろす街の景色が、赤い。真っ赤だ。
それに、家もビルも何だか知らない建物も、電柱も地面も砂浜も、しっちゃかめっちゃかだった。
ごちゃ混ぜ。
子供の頃のおもちゃ箱の中みたいに、何もかもが無造作に詰め込められている。
それが全部――赤い。
燃えているのか。
いや燃えているというより――溶けている。家もビルも何だか知らない建物も、電柱も地面も、みんなみんなグニャリと溶けて、溶けて蕩けて、熱そうだった。
「わからないよ、これからのことなんて」
母の急ぎ足とそれに引っ張られて痛む腕にイライラして、わたしは不機嫌な調子で言った。
妹はそれ以上何も言わず、ただ前を見て進む。
これから……これからのことなんて。
これからなんて、あるわけないじゃないか。
だって。
だって――太陽が落ちたんだよ。
みんなみんな死んじゃうんだよ。
これからなんて……もうないよ。
わたしは空を見上げた。紺色の空。でも黒じゃない。
丸い空の隅っこに。
半分だけの太陽が、淡く輝いていた。
なんだ……。
これからのこと、考えよう。
わたしは微笑んだ。