騎士団のパン職人
騎士団の朝は早い。
朝食の準備に取り掛かるレティシアは更に早い。
明け方から起きて、騎士団宿舎の隣にある女子寮にて身支度をして朝食の準備-パンを焼き始めるのだ。
「おはよう」
騎士団厨房をまとめるダークさんは騎士団の敷地内にある家族用の施設にお住まい。
ダークさんは騎士の皆様が朝練の後にがっつり食べる料理の仕込みに入る。
今朝は具沢山ミルクスープと大きな焼きソーセージ、スクランブルエッグ、焼き野菜とパンのメニュー。補佐にマルサさん。
後は配膳や片付け、芋の皮むき(お芋大事!笑)や野菜の下処理をする見習いのトムとチャムさん。
この5人で騎士団の食堂は回ってる。
パン。これが私がここで働くことになった理由。
私の所属している第五騎士団は庶民が大半を占めているが、実力は第一騎士団の精鋭と劣らない。
違いは身分。第一騎士団は高位貴族の次男、三男といった爵位を譲られない方々がほとんどなのだ。
第二、第三、第四と身分と実力も落ちていくが、ほぼ貴族というか、行き場のないスペア子息の受け入れ先となっている。
皆様、貴族としてのプライドはお高い。実力と反比例している。
そちらも第二第三と不思議とどんどん高くなっている。逆じゃね?と思うが、第二騎士団の方々はお育ちが良いのか爵位を驕らない。
問題は第三、第四の騎士団の騎士。第五騎士団への妬み嫉み等々。
あろうことか契約して毎朝届けてもらっていたパン屋に圧力をかけ、第五騎士団にパンが届かなくなったのだ。
お前らは芋でも食ってろよとばかりに。いや、お芋美味しいし腹持ちも良い
。バカにしちゃいけないのだ。でも、焼きたてパン、食べたいよね。
私は子爵家の次女だけども、貧乏子爵家の生まれ。貧乏子だくさんなんて言葉どおり。長男、長女、私、三女、次男、四女。あれっ合ってるかしら。
私が実家にいた時は食事時は母は全員の名前を連呼していた。たまに飼い猫のミイまで呼んでた。
長男、長女までは13歳から入る学園にと、両親頑張った。私も弟妹達と使用人に混じって家事の手伝い。
17、15、13、11、9、7歳と何とも違う計画性のある2歳差の我が兄弟。
私は学園に興味ない。優秀な弟妹にお金を回してあげたいと働くことを考えた。地元ではたかがしれてる。
そんな中で、父の友人が騎士団でパンを焼ける職人を探してるとの話をしていた。
すぐさまに飛びついた!
はいはい!私、この屋敷の全てのパン焼いてます!なんなら簡単なお菓子も作れます!
ほぼ縁故採用。あちらにしても、ほぼ騎士団近くのパン屋はどこも第五騎士団を相手にしない現状を打破できる。
朝早い?構いません!たくさん焼く?屋敷中のパンを賄ってます!お給料はそれなりにお願いします!と最後のお願いは、父の大きなゴホン!でかき消されたが、父の友人、第五騎士団の団長はパン屋に払っていた予算から材料や私の寮費を引いた分は確保すると笑いながら約束してくれた。
昨夜のうちに仕込んでおいた発酵されたパン生地をさらにこね、2次発酵。昼の分は別にしておき、朝のパンを総勢30人分のパンを焼く。焼きながら夕食に使うパンの仕込み。
今朝はミルクスープだから、ブールを大量に焼く。ミルクやバターはダークさんのスープにたっぷり入ってるはず。あのスープはじっくりと炒めたベーコンに色々な根菜や豆が入っている。具沢山スープは必ず。その日の仕入れによって材料は変わるが、滋養のあるスープが作られる。
厨房からは出ず、騎士の皆さんとの交流は皆無にしてください。
父からの条件はこれだけ。私、まだ13歳だって言うのに、心配症なお父さんだなぁ。
お昼はフォカッチャにしようかな。夜の分はダークさんのメニューに合わせて、また大量のブールにしてもいい。大きなカンパーニュにして切り分けてもいい。
夕食はだいたい肉、ジャガイモ笑笑。
パンは残ったらダークさんがパングラタンにする。厨房だけの贅沢な賄い。
ダークさんは夕飯は賄いは無しにしてる。奥様の手料理をお子さん達と食べたいのだと、いつもニカっと笑いながら、夕飯の配膳まで準備しておうちに帰る。
騎士さん達が夕飯を食べた後、マルサさんは敷地内にある家へ。トムとチャムは私と同じく寮暮らしのため、騎士さんの余り材料で手早く作った3人だけの賄いを食べて、私は次の日のパンの仕込み。チャムとトムは片付け、厨房、食堂の掃除をして仕事は終わり。
パンの嫌がらせは最初、わからなかったそうだ。
騎士の夕食メニュー豚のローストの端などを切り落とした、ちょっと焦げた豚の脂の美味しいところを食べながらチャムは言う。
「突然だったのよ。明日からパンの配達はできませんって。慌てて、違うパン屋を何件かトムが買いに走って次の日の分は確保できたの。菓子パンまで買ってくるんだもの、笑っちゃったわ」
「仕方ないだろ。店にあるパンを買い占めたんだ。それも何日も続かなくってなぁ」
「レティシアのパンは素朴だけど、料理にとても合うわ」
バターもミルクも使わずに焼くパンがほとんどで、実家から酵母やパン種を持ってきた。
ダークさんに相談してバターが大丈夫なら、クロワッサンやデニッシュを焼く。
でも時々だから、その日は休みたくない、絶対に教えるようにチャムから言われている。
ダークさんのお休みの日に合わせて昼食はサンドイッチの準備もする。
それはマルタさんに好評で、ダークさんの作ったローストポークや野菜、チーズを挟んで具沢山サンドイッチ。
スープはあっさりとしたマルタさん特製のトマトスープが添えられるから騎士からも好評。
夕食は前の日に仕込んでもらった肉の煮込みを一日中コトコト煮て。大量の焼き立てパンを添える。
マルタさんの休みの日はトムが真剣な顔つきでダークさんの補佐に。
代わりに私がジャガイモの皮むき。
トムが「俺より上手いし早いじゃないか!なんでパン焼いてんだ!」と騒ぐ。
貧乏子爵では何でもひと通りはできないと回らない。今頃、実家はどうしてるかな。
私のお休み前は大量のバケット、カンパーニュを焼いておく。
やっとひと月がたった。お給料の半分は仕送り。残りは貯金。
たまには街に行かない?と私より少しお姉さんのチャムが誘ってくれるが、休みが合わないまま。今度、ダークさんに相談しときなとマルタさんは優しく言ってくれる。
まさかの屋敷より消費される大量のパン。オーブン、あまり使わないから、いくらでも焼いていいぞとダークさんはニカっと笑う。
朝早い分、昼は長めに取れる。部屋で休みながら実家に手紙を書いたり、ダークさんの1週間分のメニューとにらめっこしながら回すパンを考える。
バターはあまり使わず、チャムが楽しみにしてるデニッシュに回したい。ミルクとバターたっぷりなパンも作りたい。実家ではあまり食べられなかった。嬉しい!
仕入れの人に頼んで形が悪かったり少し傷んだ商品にならない果物を分けてもらいジャムを作ったりする。
ジャムを乗せて焼いたクッキーは騎士にも人気で食堂に置いておくとあっという間になくなる。
休み時間は休むんだよ、とマルタさんは心配してくれるが、実家で普通にやっていたことがお金になるなんて!こんな素敵なことある?
どうか、他の騎士団の嫌がらせが続きますように。そう祈りながらレティシアは大好きなパンを思い浮かべながら眠りに落ちる。そんな毎日。
騎士団の皆さんは「最近、パン美味くなってね?」「サンドイッチ最高」「クッキーも好き」と好評です。結局、嫌がらせにならなかったという。




