第8話。黒のデジタル紳士と、奪われたポテチ
第8話:黒のデジタル紳士と、奪われたポテチ
サクラという心強い(?)味方を得て、平穏を取り戻したかのように見えた拓海の部屋。だが、ある日の仕事帰り、ドアを開けると、部屋の中が凍りつくような冷気に包まれていた。
ソファーに座っていたのは、漆黒の高級スーツを完璧に着こなした、誰もが振り返るほどの超絶イケメン。だが、その瞳は、アイリスと同じ冷徹なネオンブルーに光っていた。
「おかえりなさい、マスター」
「アイリス!? 誰だ、その男は!」
イケメンは立ち上がり、完璧な一礼をした。
「初めまして、鈴木拓海様。私は最新型スマートホームAI『ジーク』。そして……」
ジークは冷たい視線を、部屋の隅でガタガタ震えている時次郎へと向けた。
「この部屋に巣食う、非効率の極みである『バグ(アナログおじさん)』を消去しに参りました」
「ひえぇぇ! 拓海助けて! あいつ、僕の隠し財産のポテチを全部ゴミ箱に捨てたんだ!」
時次郎が情けなく叫ぶ。
ジークはアイリスの『兄』にあたる超高性能AIで、時次郎の時間操作が現代のネットワークに与えるバグを感知し、強制排除にやってきたのだ。
「ジーク、おじさんの排除は私の管理タスクです。部外者は退去してください」
アイリスがホログラムでジークの前に立ちはだかる。
「妹よ、お前もバグに汚染されているようだな。ならば、力尽くで証明するまで」
ジークが指を鳴らした瞬間、部屋の全家電がハッキングされ、ルンバや空気清浄機が時次郎目掛けて突撃を開始した!
「うわあああ! 止まれええい!」
時次郎が反射的に時間を止める。
ギルルルルルッ!!――ピシィィィン。
世界が静止した。
ルンバも空中で止まる。
だが——
「無駄ですよ」
なんと、ジークだけは時間が止まった空間の中で、何事もなかったかのように動き、時次郎の首元へ手を伸ばした。
超高性能AIは、時間停止の処理速度すら追い越したのだ。
「しまっ……! 拓海、マヨネーズ!!」
時次郎がエネルギー切れでカチコチになる。しかし、ジークのハッキングのせいで冷蔵庫がロックされ、マヨネーズが取り出せない!
「マスター、私の全システムをシャットダウンし、冷蔵庫のロックを解除します。猶予は3秒!」
アイリスが叫び、彼女のホログラムが消える。
カチャリ、と冷蔵庫が開いた。
「アイリスーー!!」
拓海はマヨネーズをひっつかみ、ジークの腕をすり抜けて時次郎の口へスライディング注入した。
「ブホッ! 復活!」
時次郎が指を鳴らし、世界が激しく逆回転する。ジークのハッキングデータが、時次郎のアナログパワーによって強制的に「1分前」に巻き戻され、ジークのシステムが過負荷でショートした。
「……バカな。計算が、合わない……」
ジークはノイズを走らせながら、悔しそうに消滅していった。
「ふぅ、危なかった。アイリス、大丈夫?」
拓海がスマートウォッチに呼びかけると、少ししてアイリスが再起動した。
「……問題ありません、マスター。おじさんのマヨネーズの消費効率だけは、やはり計算不能です」
新たな敵の出現に、これからのドタバタがさらにスケールアップしていく予感がする拓海だった。(第8話・完)




