第007話〜騒ぐな出禁〜
「よーっすアマネ〜バイトじゃねーなら飲みに来いよなー」
「いやバイトあったから。微妙な時間に終わったから合流しなかっただけで」
「やほ〜悟。いや〜急にすまんね。お開きにしようと言ったんだけど〜徹が聞かなくてさ」
「そ〜だよ〜。もう帰ろうって言ったのにトールってば『アマネはまだかーっ』って騒ぐんだから〜」
「お疲れ様です京介先輩。紅美子も大変だな。こんなのの世話しなきゃいけなくて」
「誰がこんなのかーっ!」
「おめーだよ。そして騒ぐな出禁にすんぞ」
「うぃ。静かにします」
多分……二次会が終わったところか?ウチを締め(だよな?)に訪れたのは四つ上の京介先輩と同期カップルの徹と紅美子だ。
ゲーミングチェアを部屋の隅に移動し(デスク下には入らないのだ)、クッションを三つ追加する。
「てゆか買い過ぎですよ先輩。あんまりコイツを甘やかさないでください」
「どうもね〜可愛い後輩から頼られると」
京介先輩がコンビニ袋からアルコールとツマミと紙コップを出してテーブルに並べながら苦笑する。
京介先輩は俺達と入れ替わりで学部を卒業し、今春修士課程も卒業したが、学生時代からの住居をそのままに働けるプログラマーになり、デスマーチな修羅場も才能と体力で難無く熟しているらしい。勿論本人はそのまま言ったりしないが才人だ。
あと外面内面どちらもイケメン。
修士時代からではあるがサークル部屋によく顔を出している。新入生はきっと京介先輩を四年生と勘違いしていることだろう。何なら卒論や院試対策で忙しい四年生より出現数が多いまである。
「まぁ俺らもついつい頼っちゃうんですけど」
「はは、あ〜先に乾杯しとこうか」
「はい、いただきます」
「いぇーい、かんぱーい」
「私も乾杯〜」
——。
「……さっきの話、ま〜僕も失敗する好機を奪わないよう注意はしてるんだけどやっぱりたまに手を出し過ぎちゃったりね。これはこれで僕の経験値稼ぎかな〜とか思って無理矢理自分を納得させたりはしてるんだよ?」
「……京介先輩、そんなこと考えてるんですね」
失敗する好機……あ〜まぁ確かに失敗の危機は成長のための好機でもあるわけか。
「先輩はもはや顧問っ!」
「静かになさいトール。連れて帰るわよ」
「ごめんなさい反省します」
「偉いな〜紅美子は。ちゃんと手綱を握ってるね」
「そんなんじゃ……普段は頼れる感じなんですけどね〜たまにこうなっちゃうんですよ〜」
「コイツは大体ポンコツだ」
「ポンコツじゃねーっ!……ん?なーなーアマネ、それってアレじゃん」
徹がベッドの上のVR機器を見つける。
そう、俺が話したいと思っていたのはサークル部屋でGGSのことを話していた徹だ。
アルコールが入ると普段のウザさが五割増しになるのを忘れていた俺はうっかりさんだ。
「そのアレだ。……コレって正式には何つうの?」
「ああん?うーん……何でも良くね?オレは気にせず被ってるぞ」
まぁ確かに知らなくても困りはしない。調べればネットのその辺で見つかるだろうし。
「もしかして〜一部界隈で話題になってる“GGS”のかな?」
「あ〜トールの部屋にあるのと同じだ〜」
「ちなみに徹はどうゲットしたんだ?」
「んーあー、オレはネット見てたらうっかりバナー踏んじまってさーアレコレしたら数日後にお礼つって送られてきた感じだな」
「アレコレって何?怪しいんだけど?」
紅美子が半眼で徹を睨む。
「いやほらあれっ……丁度欲しいと思ってたコミック?が割引なってたから丁度いいわって買ったら丁度特典が付いてきたってゆーかっ?」
「なんで自分で買ったのにハテナマーク付けてるのよ……あと丁度丁度言い過ぎ〜益々怪し〜」
「いやっアルコール?入ってたから記憶が曖昧っつーかなんつーかっ」
夫婦漫才は……って言うと機嫌悪くするから言い方変えよう。
「はいはい事情聴取は帰ってからにしてくれ。俺は動画だったけど、それ以外もあったんだな。でさ、徹はどのへんまで進めたん?俺はガチャ引いたところでバイタル引っかかったんだかログアウトしたところ」
「バイタルチェックにはちゃんと従わないとね〜あんまり警告無視し続けるとログイン制限されちゃうかもよ?」
なるほど?言われてみるとそうかも。
「あ、オレも実は……はもういーわ。なんか中途半端なところで止めてんなー。ゆーてオレもあんま変わんねーけど。とりあえずランクの一番低い輩と魔素有り中世の組み合わせで様子見だなー」
「様子見?」
「あーフィールドにキャラ貼り付けるじゃん?そんでしばらく放置ーで数日経ったらログチェックするみたいな?」
そういえば……、
「なぁ徹、GGSってスキップ機能とか無いの?放置ゲーも程度によるだろ?」
「ホントアマネは触りだけだったんだな。スキップっつーか早送りとスローはあるぞ。マナ要るけどな。あ、GGを覗いてるときは無理。あっちは滅茶拡大とか滅茶縮小とか建物入るときとかにマナ要るなー」
「確か〜解像度がスゴイんだっけ?覗きばっかりしてちゃダメだぞ徹」
「してませんって!……あ、でも覗きじゃないですけど、この前うっかりグロい事故現場は見ちゃいましたねーモザイク懸からんし傷口はマーブル処理じゃねーし……アレ絶対規制されるだろ」
今時そんなゲームあるのかよ。あるのか。まぁ耐性無くも無いし大丈夫だと思うが……迂闊にズームするのは気をつけよう。
あ、そうだ。
「京介先輩、その運営の名前これなんですけど、検索しても出てこなくて。いや、出てくるんですけど掲示板で質問してるようなのばっかりなんですよね。どういう会社なのかご存知ありません?」
そういって俺は機器が入っていた段ボールの送付元を見せる。
「どれどれ……う〜ん知らないな〜。少なくとも国内の主要なデベロッパーやパブリッシャーの名前じゃないね。海外のか、あるいは……」
京介先輩は紙コップを口に運び少しだけプロの顔で、
「個人、というかコミュニティベースのプロジェクトかもね。今どきAIを回せばアセット作成の工数は削れるし〜サーバー代と電力さえ確保できれば不可能じゃないから。……まぁ、そのリソースをどこから引っ張ってるのかが一番の謎なんだけどさ」
「サーバー代かぁ……。どこかの石油王の道楽とか?」
「あ〜私も聞きたいことあったんですよ京介先輩〜」
紅美子がしばらくぶりに口を開く。地味に蟒蛇なんだよな。
「何〜紅美子?あ、僕にもスルメ取ってくれる?」
「はいどぞ〜。それで〜フルダイブって脳の電磁波?脳波?読み取るんですよね〜?それってクレカ情報とか個人情報筒抜けってことじゃないですか〜?大丈夫なんですか〜?」
「あ〜ま〜それは技術的には可能だけど法律的には不可能ってゆ〜か。バレたら一発人生退場、しかも団体適用って感じだから個人に仕掛けるにはハイリスク過ぎるんだよね。じゃあ複数人にって考えるかもだけど〜それだと発覚も早いだろうからやっぱりリターンは微々たるものっていうね」
京介先輩が饒舌だ。なるほど、フルダイブが登場したばかりのときは確かにそんな論争があった気がする。大手の電機メーカーが競ってリリースしてるから、その辺はクリアされたものと思い込んでいた。
「ま〜国家レベルの諜報機関が『思想調査』とかに使うなら話は別だけどね。一個人の預金残高なんて、このシステムを維持する電力代にもならないだろうし」
「ですよねー 紅美子は心配しすぎなんだってー」
「なるほど〜……ってトールはそんなの知らなかったでしょ」
「電気代といえば……あれだけ緻密な解像度を実現するには脳波の読み取りとフィードバック?も頻繁……というか継続して?実行してると思うんですけど、ログアウトしたばかりでもデバイスがそんなに熱持ってなかったような……今時の機器ってそんなもんなんですかね?」
「いやそんなはずは……何とも謎の多いことだね」
——そんな風に宅飲みらしからぬ話題に偏りがちだったが、あれだけ持ち込まれたアルコールとツマミが尽きたのと補給するほどでもないという空気感でお開きとなった。
「じゃあフレ申請送っとくからっ」
「はいはい、紅美子気をつけてな」
「お邪魔様〜ほらトール、踵踏まないでちゃんと履く!」
「ダーイジョーブだってーアマネおやすみーっ」
「階段踏み外すなよ。京介先輩もお気をつけて」
「お邪魔しました〜それじゃあまたね」
まぁ実りも多少ある場だったかな?あ、ナビゲーターのこと聞きそびれたわ。




