第002話〜段ボール〜
「ふぁ……ぁ……ふゅ」
(眠)
さすがに夜更かしが過ぎたか。
大学の講義後サークルに顔出ししてからバイトを終えアパートに帰宅すると、今朝は無かった段ボール箱が式台にある。
(姉貴が来たのか)
大体こういう場合は姉か、たまに母親が実家からの差し入れを置いて行ってくれたパターンだ。米はついこの間届けて貰ったばかりだしこのサイズだと一体何だろうかと考えながら、まずは夕飯……というか晩飯だよなと冷凍ライスをレンジにセットし、荷物を片付けた後、お菜に肉と野菜を塩胡椒で炒める。
フライパンの後片付けだけ先に済ませ、温まった飯と肉野菜炒めと箸を水拭きしたテーブルに運び、両掌を合わせて、
(いただきます)
うん、美味い。
(ごちそうさまでした)
食器を洗い棚に戻して、さてと一息吐いて視線を下に向ける。
(中身は何だろうな)
と、段ボール箱のガムテープを剥がしながらようやく気づく。これ差し入れじゃなくて俺宛の配送物だわ。いや、差し入れかつ配送物の可能性も無くは無いが。脇に伝票が貼ってあるのを初め見つけられなかったのだ。てゆか、伝票って上面じゃなくてもいいのか?宛先が実家の住所になってるから姉か母親が持って来てくれたのは間違いなさそうだが、企業名っぽい横文字の差出人には覚えがないな。
段ボール箱を開梱し同梱されていた礼状を雑と検めると、そこには昨夜の同人動画購入への礼と特典として機器を贈る旨等が記載されていた。緩衝材を軽く除けると何かの機器が覗く。いや、それよりも、
「……んん?」
件の同人動画を購入したのは昨日の夜だ。実家にこれが届いたのは一体いつだ?対応が速いにも程がある。しかも、購入には俺自身が契約したクレカを使っていた。実家の住所とは紐付けされていない。
(陰謀論者の自覚はなかったが……これは入信を考えてしまうな)
息を吐いて吸って吐きながら段ボール箱を閉じてリビングへ。SNSで何かしら情報を拾えると良いんだが。
「う〜〜〜〜ん……」
短時間ではあるが検索した結果、安全性には問題ないようだ。一先ずは、だが。
どうやら中身は、規格が濫立しているために市場ではまだまだ価格が高止まりしているVR全没入用機器の類で、業界での評価は未知数ながらVRMMOSRPGをプレイできるらしい。
不自然——いや、人為的なら不自然なのが寧ろ自然なのか?——な程の着荷の早さや送付先に言及しているコメントは見つからなかった。
それはさておき、
(本商品より明らかに高価な特典って……)
と、俺も思ったし、SNSにも訝しむ者がいないでは無かったが、警戒心の薄いゲーム好きな若者や先の危機より目先の収益(あるいは承認欲求の円満具足)な動画配信者達が率先して実験台に上がっているようで、情報がぽつぽつ目に付いた。
(でもなぁ。明日も一限からだしなぁ。もう少し情報出揃ってからだな)
折角の高価な機器だが、もうしばらく寝かせとこ。
デスゲームに巻き込まれても何だし、な。
数日後。
ゲーム配信で有名なインフルエンサー達が挙って絶賛している事、そして機械系の検証動画配信者達が機器を分解調査し安全性にお墨付きを与えた事もあってかVRMMOSRPG『Grand Ground Summit』——通称GGSは急速に国内に浸透、そして海外へと浸出していった。体感的には前者の影響がウェイトを占めていたように思う。後者は高電流を流す機構は無い、くらいの事しか判明しなかったらしいし。あ、既存の基盤を使用していないとかは判明してたか。まぁ、分からないことが分かるのも大事だよな。
なお。
デジタル商品は無尽蔵としても、有形資産に対する世界規模の需要を平然と熟した供給力に注目した者はほとんどいなかった。
決して処理落ちしないサーバーはそこそこ話題になった。




