最弱パーティーの結成
翌日、エリスに連れられて街外れの古い教会を訪れた。
「ここに精神魔法使いが?」
「ええ。ちょっと変わった人ですけど、腕は確かです」
教会の扉を開けると、中は荒れ放題。埃まみれの椅子、倒れた燭台、破れた聖書。
「誰もいないじゃないか」
「シスター・マリア! いますか!?」
エリスが呼びかけると、奥から酒瓶を持った修道女が現れた。
年は30前後。美人だが、目の下に隈がある。明らかに二日酔いだ。
「あぁ? エリスか……今日は献金の日じゃねぇだろ」
「違います! 紹介したい人がいるんです」
マリアは俺を見て、眉をひそめた。
「新人冒険者? ガキの面倒見る趣味はねぇぞ」
『分析開始:シスター・マリア』
『本名:マリア・アッシュフォード
年齢:28歳
元Aランク冒険者、精神魔法特化
現状:アルコール依存症、自暴自棄』
「あんた、元冒険者なのか」
マリアの目が鋭くなった。
「……調べたのか?」
「いや、スキルで」
「ふん。【万能解析】ってやつか。噂は聞いたぜ」
彼女は酒瓶を飲み干して、椅子に座った。
「で、何の用だ」
「魔王討伐のパーティーに入ってほしい」
マリアは吹き出した。
「はっ! 魔王討伐だと? レベル1の小僧が? 正気か?」
「正気だ。俺には【万能解析】がある。魔王の倒し方も分かる」
「倒し方が分かったって、実力が伴わなきゃ意味ねぇだろ」
「だから、あんたが必要なんだ」
俺は真っ直ぐマリアを見た。
「精神魔法使いで、Aランクの実力者。魔王の弱点である精神攻撃を使える。あんた以上の適任者はいない」
マリアは黙り込んだ。
しばらくして、彼女は口を開いた。
「……私は、もう冒険者じゃない」
「なんで?」
「5年前、魔王討伐隊に参加した。仲間は全員死んだ。私だけ生き残った」
彼女の声には、深い後悔が滲んでいた。
「それ以来、戦えなくなった。仲間を見捨てて逃げた自分が許せなくてな」
『分析結果:PTSD、サバイバーズ・ギルト』
「逃げたんじゃなくて、生き残ったんだろ」
「同じことだ」
「違う」
俺は彼女の目を見て言った。
「あんたが生きてるから、次の挑戦ができる。あんたの経験があるから、俺たちは同じ失敗を避けられる」
「……綺麗事を」
「綺麗事じゃない。俺はあんたが必要だ。帰るために」
「帰る……?」
エリスが説明した。
「この人、召喚者なんです。元の世界に帰りたくて、魔王討伐でスキルを強化しようとしてるんです」
マリアは驚いた顔をした。
「召喚者が……帰ろうとしてる? 普通、諦めるもんだが」
「諦められるかよ。俺には帰る場所がある」
マリアは長い沈黙の後、ため息をついた。
「……一つだけ聞かせろ。本気で帰れると思ってるのか?」
「思ってる。確率は低いけど、ゼロじゃない。だから俺は賭ける」
彼女は立ち上がった。
「わかった。手伝ってやる」
「マジか!」
「ただし、条件がある」
「何だ?」
「魔王討伐が終わったら……お前が帰る時、私も連れてけ」
「え?」
マリアは自嘲気味に笑った。
「この世界、もう嫌なんだよ。仲間を失って、教会で酒浸り。こんな人生、意味がねぇ」
「でも、元の世界に行っても……」
「構わん。どうせここにいても同じだ。新しい世界で、やり直したい」
俺は【万能解析】で彼女の本心を探った。
『分析結果:本気度100%、希死念慮あり、新天地への希望わずかにあり』
「……わかった。帰れたら、連れてく」
「約束だぞ」
「ああ」
こうして、俺のパーティーが結成された。
メンバーは3人。
レベル1の解析特化、魔法学者の卵、そして自暴自棄の元Aランク冒険者。
どう考えても魔王討伐には不向きな、最弱パーティー。
でも、俺たちには目的がある。
帰ること。そしてやり直すこと。
「よし、準備を始めよう。1週間以内に魔王を倒す」
「無茶言うな」
「無茶でも何でもやる。俺たちには、時間がないんだ」
こうして、史上最速の魔王討伐計画が動き出した。
『帰還解析進捗:18%』
『魔王討伐成功率:現時点で12%』
まだ低い。でも、確実に上げていく。
絶対に、家に帰るために。




