第8章 : 「預言者たち」(第1部)
セザール:雷の預言者
隣接するビルの屋上の影から、不気味な人影が姿を現した。
その顔には見覚えがある。 この学園の、あの教室の教師たちだ。 そのうちの二人。
彼らは言葉を交わすことなく、俺に対する「処刑」を開始した。
一人が刀を抜き放つと、風が彼に味方するように吹き荒れた。 もう一人の女は後方に控え、数珠を手に持ち、剣士のために祈りを捧げている。震えるその手は、それが単なる形だけの儀式ではないことを物語っていた。
剣士は一階の高さから凄まじい速度で跳躍し、俺の命を奪うべく、その刃を振り下ろした。
(「予測制御」起動)
(掌から雷光が溢れ出す) (時が俺に味方するように流れるのが見えた) (時の道が結晶化し、次々と亀裂が走る)
(そして、その狭間に……) (青い瞳の幽霊が、静かにこちらを見つめていた)
俺はそれを無視した。今は戦いに集中すべき時だ。
俺は掌の電撃を攻撃者に放った。その衝撃波は凄まじく、男を庭の壁まで吹き飛ばした。間髪入れず、体勢の崩れた剣士に止めを刺すべく、第二撃を繰り出す。
(祈っていた女が手を止め、その拳を空に突き出した) (そして再び、祈り始めた)
刹那、時間と空間が引き延ばされた感覚に陥る。追いつこうとした剣士の姿が遠ざかっていく。空間そのもの、地面そのものが俺から離れていくのだ。
(あの女の仕業か? これが「力」なのか?)
考える暇はない。全神経を集中させる。 (俺の瞳が青く輝き) 庭中が電撃の閃光で満たされた。
光の弧が謎の剣士へと滑り込み、再び刀を握り直そうとしていた彼の指先に触れた。
(光の弧が、彼の食いしばった指を捉える)
指先の動き一つで、俺は電撃を介して自身の肉体を転送させた。 (瞬きする間もない一瞬)
俺の拳は、電撃を纏ったまま剣士の顎を撃ち抜いていた。 電撃を帯びた一撃はあまりにも強烈で、犠牲者は空高く、数階分の高さまで跳ね上げられた。
(記憶が奔流となって押し寄せる) (「雷の預言者」) (脳裏に言葉が響く。かつての、あの最後の決戦と共に)
(あの場所で、ジューンは死んだ) (俺は任務に失敗したのだ) (ゲオだけが生き残った)
(最期の吐息。諦念に満ちた、最後の言葉) (「すまない、ジューン……」)
戦闘の最中、戦士としての魂が呼び覚まされ、記憶が鮮明に晴れ渡った。 時間を無駄にはしない。 数百メートル上空、宙に舞う標的を見据える。
(一気に決着をつけてやる)
空と雲から放たれた静電気の光の弧が、犠牲者に触れた。指先にその感触が伝わる。 (焼けたオゾンの臭い、恐怖の臭い、近づく雨の気配、戦場に散る血の香り……) (初めて敵の骨を砕く、あの拳の痛み) (あの独特の痛み) (全身を駆け巡る、忘れられぬアドレナリン)
目を閉じ、俺は力を使って空中にいる彼を捉えた。 電圧を最大出力まで高め、電撃を解放する。周囲の世界が青と白の飽和した色で明滅した。
雷光の鎖が犠牲者の手を掴み、俺自身も光の速さで引き寄せられた。 (犠牲者の驚愕した顔が露わになる)
死への墜落の淵に繋がれた二人。だが、俺に恐怖はない。 相手は剣を構え防御姿勢をとった。俺の拳がそれと交差しようとした瞬間、俺は拳を止めた。彼が剣で俺を仕留めようとしていることを察知したからだ。
彼の表情が驚きに染まる。 (空中で、一秒にも満たない時間が経過する) (「予測制御」の力により、全てが静止していく) (動きは緩慢だが、正確。恐怖、決意、そして優雅ささえもがそこにはあった)
俺の拳は、刃の直前で止まった。(殴る必要などない) (俺の雷が、彼を貫けばいいだけのことだ)
雷の弧が彼の胸を打った。弱く、不十分な一撃。落下の勢いで俺たちは引き離され、敵は薄笑いを浮かべ、やがて高笑いへと変わった。
(行かせてやった。追う必要はない) (「空からは逃げられない……」)
敵は俺の小さな雷が「くすぐったい」だけだと思って嘲笑っていた。だが、彼は気づいていなかった。俺が空に掲げたもう一方の手に向かって、天が渦巻いていることに。
(俺の顔が照らされ、内に秘めた邪悪さが剥き出しになる) (敵が俺の手で滅ぼされていく様を見るのは、実に愉悦であった)
(「貴様を俺の前に跪かせ、慈悲を乞わせてやる。存分に楽しんだ後で、引導を渡してやろう」)
思考が溢れ出す。 (「雷の力に跪け」)
「ハハハハハ!」 自由落下の中、広がる距離の先から奴の笑い声が響く。
だがその瞬間、狂い狂った天の咆哮が轟いた。雷の龍の顎が剣士を飲み込み、遠くのビルの屋上へと叩きつけた。衝撃ですべてが吹き飛び、地鳴りは数千キロ先まで響き渡った。白く飽和した光が天と地を焼き尽くす。
(終わった)
遠くのビルの先端。俺の力が残した瓦礫と廃墟の中に、敵の姿は消えた。
(電撃が俺を空中に留まらせる) (真なる神の如く、俺は地上に浮遊していた) (安易に地面に足をつくことなどない)
勝利を確認するため、俺は舞い降りた。 だが、そこにはすでに先客がいた。
(地面から影のように、何者かが湧き出した)
一瞬、クリスタルかと思い「歓喜」したが、それはすぐさま「脅威」へと変わった。
(影の中から現れた存在) 紫の瞳を持つ少女が、俺とライバルの間に立ちはだかった。
「……これ以上進めば、死ぬわよ」 影の少女の声が風に乗り、響き渡った。
「黙れ! 邪魔をするなら、貴様ごと捻り潰してやる!」
俺の拳と力は、煙のように消え去る少女の影の中に虚しく消えた。 彼女は数メートル先に再び姿を現す。 電撃がパチパチと音を立てて弱まっていく。俺の攻撃が失敗した証拠だ。
(剣士が刀を地面に突き立てた) (金属が砕けたセラミックに擦れ、悲鳴を上げる)
崩壊した瓦礫の中から、刀を握りしめた剣士が姿を現した。
「……まだ、負けてはいない」
(顔や体に付着した瓦礫が、まるで解かれた髪のように滑り落ちる)
「電撃の少年を殺すこと。それが私に課せられた任務だ。失敗は許されない」
(土埃にまみれ、傷つき、焼けた顔が瓦礫の中から現れる) (服は穴だらけで、雷によって炭化している)
彼は構えを取り、二度目の対決を挑んできた。 (俺はこの僅かな隙を利用して、状況を把握することにした)
「俺に何を望んでいるんだ!」俺は声を荒らげて問うた。
「お前は目覚めてしまった。魂が覚醒したのだ。我ら教師に与えられた任務は、お前たちの魂を浄化し、永遠の眠りにつかせること。白く純粋な魂として、新たな転生へと向かわせるためだ。お前たちを縛り付ける罪から遠ざけてな」 教授は容赦なく刀を構えながら言った。
「無駄だ。お前たちにその力はない」俺は彼の避けられぬ運命を告げた。
「たとえ我らが敗れても、より強き者が我らに代わって現れる。いずれにせよ、お前は堕ちるのだ」
(「光と死の天使が、我が背後で祝福を与えている」) (「我が翼は、彼らの翼」) (「俺は祝福されている」) (「そして、貴様は呪われている」)
俺は注意深く観察した。風が強く吹き、次第に熱気は冷気へと変わっていく。再び、別の宇宙から風が吹いてきたかのようだ。
衝撃のあった場所には砕けた結晶が散らばっていた。思わずそれを踏みつけ、足元に目を落としたとき、そこに映る自分の顔が見えた。
(俺の青い瞳が強く輝いている) (「予測制御」が絶大な力を示している)
(反射の中に、クリスタルの鋭い瞳が見えた。その中に、彼女に対する俺の敗北が映し出されていた)
(「マザー・サターン」) (「ヴォフ・クローネンバーグ」)
(「何も忘れてなどいない。すべてはここに、俺の魂の中にある。他人の嘘に、そう簡単に騙されはしない。俺の真実の輝きを毒し、腐らせようとする奴らの言葉になど」)
(俺は彼女に……クリスタルに敗れた。自分の傲慢さゆえに。雷の力さえあれば、どんな敵も倒せるとうぬぼれていたからだ)
(だが、敵を倒すのは力ではない。それを使う者の「才能」なのだ)
(「今回は、傲慢さで負けたりはしない」) (「クリスタルが、あの世から俺に教えてくれた大きな教訓。それを今、受け取る」)
(風が逆風となって吹く) (刀の切っ先が俺に向けられ、その刃に俺の死の反射が映る)
風が吹き、その中に敵が滑り込んできた。彼の刀が光の弧を描き、俺の残像を掠める。
俺は奴の背後に現れたが、影の少女が俺の足を縛り上げた。 俺は雷を地面に放って縛りを解き、火花の舞いの中で少女を焼き払った。
刀の男の刃が、俺の脇腹を目掛けて死の弧を描く。一撃で俺を終わらせようとする、必殺の斬撃。
俺は目を見開いた。
(「予測制御」全出力解放)
(時間が完全に静止した。一瞬、近い未来がエコーや残像のように、混ざり合ったイメージとして示される)
刃が俺の学生服を掠める。
(完璧な、最小限の体捌き) (青く踊る瞳の閃光。時の流れの中で凍りついた刃) (肘を刀に叩きつける)
(時が再び動き出す)
刀は地面に叩きつけられ、その軌道は俺の放った打撃によって逸らされた。 (刀が地面で跳ねる) (剣士は体勢を立て直そうとするが、跳ね返った自分の刀に振り回される) (タイミングも、均衡も、すべてが崩れた)
俺の足が地面を掴み、しっかりと踏みしめる。俺の歩みに合わせて電撃が迸る。
姿勢を変え、腰を捻り、背中から全身の筋肉の繊維一つ一つに鞭を打つように力を伝える。血管の中を電撃が流れる。
(瞳が電撃で満たされる)
最後の防御として顔の前に掲げられた刀ごと、完璧な一撃が彼の顔面を粉砕した。
(まるで機関車のように。弾丸列車のように。獲物を塵も残さず踏み潰す獣のように)
剣士のシルエットは電撃の力に飲み込まれ、隣のビルの中へと消えていった。 (純粋な電気の猛進)
瓦礫が舞い上がる。 (一人……)俺は思った。
影の少女は電撃で焼かれながらも回復し、力を集中させていた。 次第に彼女の影が地面に渦巻き、そこから見慣れた人影が現れる。
影の中から現れたのは、深手を負い、戦闘不能となった刀の男だった。少女が影の力で彼を連れ戻したのだ。
そして二人目の人影。数珠を持ち、俺を時の澱に閉じ込めたあの女だ。
妨害しようとしたが、すでに遅かった。彼女の力は完成していた。真の影のように、その魔力は完遂されていたのだ。
影の少女に気を取られ、追撃が及ばなかった。 そして、数珠の女はその時間を利用して、剣士を「治癒」してしまった。
(治癒する女は、この「魂」の領域が提供する増幅されたサイオニック能力により、限定的な時間の操作を行い、肉体の特定の部位の状態を巻き戻して治療する) (闇の少女の魂は悪魔の領域に由来し、闇そのものを自在に操る)
「この者たちは確かに教師だ。だが、他のクラスを受け持っていた教師たちのはずだ」
苛立ちの中、俺は三人を相手にする覚悟を決めるしかなかった。仲間はいない。だが、それでも、ここにあるクリスタルの勝利への信念が俺にインスピレーションを与え、敗北などありえないことを教えてくれる。
剣士が三度、立ち上がった。数珠の女が彼を癒やしたのだ。 剣士には、微弱ながら「憤怒の予測」の兆候が見て取れた。
「……楽な戦いにはならないな。次から次へと助っ人が現れる」
「なぜ、こんなことをするんだ!」
「……教員会議はお前の『排除』を決定した」
「我らより上位の魂が、現在のお前の姿の中に罪深き存在を認めた。我らは決断を迫られたのだ」
「お前の魂は洗浄されなければならない」 「この領域で目覚めることは罪なのだ」 「お前の魂を、再び眠りにつかせてやる」
数珠の女の言葉が、研ぎ澄まされたナイフのように俺の上に降り注いだ。
刀の男は教師のスーツを脱ぎ捨て、胸を露わにした。電撃による火傷の痕はまだ残っている。治癒は完全ではなかったのだ。
(数珠の女の治癒にも限界があるのは明白だ)
刀を握る教授の赤い瞳と、露わになった胸が、戦闘を求めて輝いていた。 (彼らの辞書に「敗北」の二文字はないようだ)
(戦いは、まだ始まったばかりだ)
まず最初に、更新が大幅に遅れてしまったことを深くお詫び申し上げます。続きを待っていてくださった皆様、本当にお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
本当に、本当に、本当にごめんなさい!




