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Draniclドラニクル~異世界で出会った幼馴染は幼馴染だろうか~  作者: 如月いつか
第三章 いないはずの吸血鬼
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第九話 罪深き人々と罪なき少年

「吸血鬼について教えて欲しいだと?」


「そうそう。この世界の吸血鬼について知りたいんだ。」


レストラーは欠伸をしながら、眠そうな目で僕を見る。


「アタシも吸血鬼については詳しくは知らないな。そもそも、まだ生きていたとは思っていなかった。物語に出て来る魔物だという認識くらいしかない。それで、良ければ話してやるが。」


「この世界の物語!滅茶苦茶、興味があるよ、教えて、レストラー。」


僕の返答に、レストラーは口元をにやけさせる。

「覚えてる範囲だけだ」と前置きをしながら、レストラーは口を開く。


「この世界では、昔は魔王と勇者が周期的に生まれていた。

魔王は魔物の王であり、魔物を統括し人類に恐怖を振りまく存在。勇者は教会が選定した聖剣を持つ人物であり、魔王を討伐する使命を背負った人間だ。

世界中の物語のほとんどは、勇者とそれに関わる人物の話だ。


吸血鬼は、確か四代目の俊英の勇者の頃の四天王として、十代目の双剣の勇者周りでちょっと出た程度だったか。かなり強い魔物で人の言葉を理解し操るって話しだったか。」


この世界の物語、見てみたいな。面白そう。

ただ、魔物が人の言葉を理解するってどういうことなんだ。


「魔物が人の言葉を喋ることがあるの?見たことないけど。」


「偶にいるんだよ。魔物でありながら、人の言葉を話す奴が。そいつらはかなり強力な魔物だから。見つけたら直ぐに逃げろよ、竜崎。お前の世界の物語はどういったものなんだ?」


「え、僕の世界の物語。う~ん、一番読まれている本の内容は、冒頭の登場人物は裸の男女なんだ。やっちゃあいけないことをして、それを隠して神様に怒られる話から始まる。」


「はぁ?」と顔をしかめるレストラーに、僕は「難しい話なんだ」と笑って言った。


ダルシュタの街に来た僕らは、のどかな街中でそんな話をしながら歩いている。

日が高く、仕事が無ければひなたぼっこをしたくなる気持ちのいい日だ。


そんな街中で、すれ違う人々から視線を浴びながら一人歩く黒い大きな布を被った人物が歩く。

僕よりも小柄なその人物が、隣を通る瞬間ちらっと顔が見えた。


「師匠!」

と僕が肩を掴むと、その人物と目が合う。


小顔にきりっとした顔立ちとストレートの銀髪の髪。その特徴は僕の師匠、アリス・クールハーツの外見的な特徴と一致する。ただ、唯一違うのは瞳の色。師匠は銀色で、この女性は青色だ。

つまり、人違いだ。


「あ、すみません。人違いでした。」


僕が謝ると、女性は愛嬌のある笑みを浮かべる。

「大丈夫です!って、そちらの女性は。もしかして、レストラーさんじゃないですか?」

女性の視線は僕から隣にいるレストラーに動く。


「・・・アタシは確かにレストラーだが、お前は誰だ?」

僕の顔を伺いながら、レストラーは女性に質問する。


すると女性は、ぐいっとレストラーに距離を詰めて、両手でレストラーの手を包む。

「やっぱり!あ、申し訳ありません。」

軽く頭を下げて、女性は頭まで包んでいた外套を脱ぐ。綺麗な銀髪が露になる。

「私はシルヴィアって言います。」


元気のいい自己紹介と共にシルヴィアは微笑んだ。



***



細長い白い髪に力強い緑の目、髭を蓄えているがきちんと整えられている。皺のない服装を纏う領主は、気品を感じさせる笑みで僕らを出迎えた。


「ようこそ、おいで下さいました。私はダルシュタの領主、シュタインと申します。」


僕たちも挨拶を返し、国からの書簡を渡し終えると話は吸血鬼についてのものとなった。

領主は吸血鬼が領地に与えていた影響や討伐されたことに対しての効果や現在についてご機嫌に語ってくれた。あまり興味のない話だったけど、聞きやすく理解しやすいものだったのは、この領主の手腕だろう。


領主の話が終わるタイミングでお茶のお代りが注がれる。


「シュタインさん。僕らはこの街にいる吸血鬼討伐者をスカウトするために来ました。彼についてはシルヴィアから聞いています。この館にいると、彼をこちらに引き渡していただくことは、できないでしょうか?」


領主はカップを口元に運んで、皿に戻す。

「・・・シルヴィアというのは、正宗の付き人ですね。今朝がた、私どもが館から逃がしたのですが、帰って来られたので不思議に思っていたんです。あなた方と会っていたのですね。正直、正宗は国のために働ける精神性ではないと思いますが、・・・直接会ってみられた方が分かりやすいでしょう。彼らを、正宗が休んでいる客室まで案内してあげなさい。」


シルヴィアに目配せをしてから、領主は言った。

命令を受けたメイドの表情が一瞬だけ曇る。

だけど、領主はそれを咎めないことから察するに、正確に難がある人物なんだろうか。


俯くシルヴィアは何も言わない。


「ありがとうございます。」

そう言って、僕は立ち上がったが、レストラーには動く気配がない。


僕を見て、それからシルヴィアを見て、

「アタシはここでシルヴィアと一緒にいる。正宗と言う奴に会うのは、竜崎、お前ひとりでいいだろ。」


一応、仕事なのに、いい加減だな。

僕らの仕事には、国にとってプラスに働かくかを評価することもあるのに、会わないはないだろ。


「・・・わかった。僕一人で行きます。」


レストラーが動かない以上、僕が判断するしかない。


目配せをすると、メイドはドアを開き、部屋の外に出た。

少しの不安を感じながらも、部屋の外に出て付いて行く。


正宗はどんな人なのだろう。


「こちらが、正宗様の泊っている客室になります。」

客室の前でそう言って、案内をしてくれたメイドはそそくさと去った。


関わりたくないという雰囲気に僕は引き留めなかった。

ノックをすると、大きな声で返事がきた。


訪れた客室の中にいた男は、赤髪の大柄な男。

筋肉隆々の裸姿で寝ている彼の傍には数人の女性が同じような姿でシーツの中にいる。部屋の中には甘ったるいお香が焚いてあり、気分が悪くなりそうだ。敏感な鼻を持つレストラーを置いてきてよかった。


「僕は竜崎隆。バルハード王国から来た使者です。吸血鬼討伐の功績について、王国騎士団団長は非常に高く評価をしています。貴方に是非とも働いて欲しいと団長は申しております。正宗さん、貴方は王国で働く気はないですか?」


女を抱き寄せながら僕の話を聞いた後、正宗は口を大きく開け、嘲笑する。その笑い声は部屋中を響き渡り、女も合わせてクスクスと笑う


「急にガキが入って来たと思えば、王国に仕えろ、だって?冗談を言うなよ。口の利き方がなってない。それにな。俺を誘いたければ、その団長って奴が直接俺に会いに来るのが筋ってものじゃないのか?」

正宗は剣を取り出し、剣先を僕に向ける。

「随分と舐められたものだ、この正宗様を何だと思っている。いいか、教えてやるよ。俺はなぁ、全てを切り裂くチートを持っている。つまり、俺の手にかかれば敵はいない。その団長と言う奴に伝えろ。俺を敵に回したくなければ、俺に跪き頭を垂れろってな。」


また、正宗が笑う。それに同調して笑い声が響く。


僕は拳を握り締め、何とか感情が表に出ないように抑制する。

「・・・そうですか。ではそのように伝えておきます。」

言葉を捻り出し、部屋の外に出る。


向こう側では大声で楽し気に僕を罵倒する声がする。だけど、そんなことは気にならない。


深呼吸をして、僕は顔を揉んで表情を取り繕う。

レストラーのいるところに戻ろう。



***



冒険者ギルドに行き他に目ぼしい人物を確認した後、僕らは宿を取り、酒場に入った。

シルヴィアは隣席しているのがいつもと違うが、テーブルの上で囲んでいつものように食事する。


パンとステーキ肉。それから味の薄いスープ。

ロビンが作ってくれたものと比較して、懐かしみながら口にする。


「正宗は、いらないと思う。」


「・・・そうか。お前がそう思ったなら、それでいい。アタシは何も言わん。」


静かに食べ物を口に運びながら、レストラーはそう言った。

僕とレストラーの様子を見て、シルヴィアが口を開く。


「それですと、私はどうなるんでしょうか。正宗さんと一緒にお城で働かせていただけるって話でしたよね?」


領主の館に案内される道中、この街の現状を教えて貰う途中に、そういった話になったのだ。僕としては、正宗に従っているシルヴィアを一緒に連れ帰っても問題ない、と思っての発言だったのだが、その前提条件が崩れてしまった。

断りを入れるしかない。


僕が口を開こうとした瞬間、レストラーの目がシルヴィアを捉える。

「問題ない。お前は連れていく。」

ぶっきらぼうにレストラーは言った。


「・・・そうですか。それは良かった。いつ、正宗さんに犯されるかもって思ってドキドキしてたんです。あの人と離れられるみたいでよかった。」

シルヴィアは胸に手を置き、満面の笑みでレストラーに返事する。


僕がいない間に二人で話をしたのだろうか?


僕がレストラーを見ると、ニヤッと笑うだけで何も答えない。

男女の意識の差という奴なのだろう。僕は深く追及はしなかった。


静寂になった僕らのテーブル。

隣が近い店内では周りの話が耳に入る。


「うちの子供がうるせぇんだよ。」「なぁ、知っているか。また、吸血鬼が出たんだって。」「正宗って奴が女を買いあさってるらしい。」「ああ、そのことか。子供の仕業だよ。気にすんな。」「迷惑だよな。だけど、正直気の毒だよ。」「領主様は何で放置してるんだろうな。」


吸血鬼が、また、出た?


声をかけようと僕が顔をあげると、レストラーもシルヴィアも皿の上を空にしていた。

二人は目配せをして同時に立ち上がる。


「じゃあ、アタシたちは宿に戻る。お前はゆっくりでいいから。」

「ごちそうさまです。お先に失礼します。竜崎さん。」

そう言い残し、僕を取り残し、伝票を置いたまま、二人は酒場を後にする。


「空いた皿は持っていくよ。」と定員がレストラー達の皿を下げ、僕は元から一人だったように黙々と食事をすることになった。


スープは次第に冷め、味が落ちて来る。

だけど、僕は呆気にとられて、固まったまま動けなかった。


ようやくスプーンが動かせるまで、心が回復した。


しかし、スープにスプーンを下した瞬間。

「ここ空いてるじゃん。ワードここに座ろうよ。」

そう言って空いた席に腰を落とす人物。

クリーム色の白い髪が腰まで達している女性。濃い緑色と黒のドレスのような服を着た、耳のとんがった緑色の目をした彼女はツンとした表情で僕の前に座った。


その傍らにいる紺色と藍色の着物を着た男性が物腰柔らかそうに笑う。

「すいません。相席させてもらいますね。」


「ああ、はい。どうぞ。」


「ありがとうございます。ほら、イブキもお礼を言って。」

そういって、着物の男性も腰を下ろす。催促されたイブキは机に肘を置いて、そっぽを向く。

そんな態度のイブキを庇うように、男性は頭を下げた。


「すいません。年頃なんです。ああ、私はワードと言います。冒険者として駆け出したものの中々、実入りが厳しい毎日を送っております。お名前を伺ってもいいですか?」


「いいですよ。僕は竜崎です。竜崎隆。」


僕の言葉にワードは目を大きくして、手を叩く。そして、バンバンとイブキの背中を叩いて、それに顔をしかめる彼女に話しかける。


「やっぱり、そうですか。ほら、イブキ。私の言ったとおりだ。彼も転生者なんだよ。ああ、失礼。実は私どもも転生者なんです。」


笑みを浮かべるワードと反対に、イブキはぎろりと僕の顔を覗いた。

端正な顔立ちを崩すほどの顔に、胸がざわつく。


「ねぇ、私たちは冒険者ランクがDまであるけど、あんたは?」


「え、えっとCランクだけど。」


「・・・ふん。そんなことより、あなたって一人で冒険してるの?」


「レストラーって名前の獣人が連れにいるけど、どうして?」


イブキの顔は次第に赤くなる。

口を閉ざして震える息吹の隣で、堪えていた笑いを吹き出すようにワードが笑いだす。


「失礼しました。私たち、旅の仲間を探していましてね。貴方をスカウトしようと思っていたのです。申し訳ないのですが、イブキが耐えれそうにないので、今回はここで失礼します。また、誘いますのでその時はどうかよろしくお願いしますね、竜崎君。」


そう言って、ワードとイブキは席を立ち、去っていた。


急にきて、あっという間に去っていたな。


しばらくポカンとしていると、僕の席に彼らが頼んだであろうメニューが届く。


・・・嘘だろ。僕が厨房の方に首を向けると、残すなよと口パクで亭主が呟いた。



***



結局、僕は食べきることができなかった。

そこで、持ち帰ることで席を立つことを了承してもらうことにした。お金を多くとられることになったが、そこは仕方がないと割り切った。缶詰めになっても仕方がない


5人分の料理なども含めて僕の財布が大分軽くなったが、解放されて気分が良い。


残った料理を包んでもらった僕は、それを食べるために街の中を歩く。

少しでも消化して、お腹に隙間を作りたい。

朝ごはんにしてもいいが、そんな気分でもなかった。


歩いていると、街の外で倒れている少年がいた。

体はやせ細り、骨が浮いている。白い髪はギトギトして、赤い目が見開いて虚ろだった。上等そうな服に体とのアンバランスさを感じる。


僕が近づくと少年が起き上がる。

視線は僕の手に釘付けで、よだれを垂らしている。


「食べる?」

僕は包んでもらったものを差し出して、少年に聞いた。


しかし、少年は首を振る。

「僕はあなたから物を貰っても、返せるものがない。だから、それは受け取れない。」

しっかりとした口調で少年は言う。


「それを言ったのは誰?」

奥歯を噛みしめ、僕は彼の目線に合わせて、膝を折る。


「僕の尊敬する人。僕の父様の教え。」

泣きそうな目で、よだれを垂らしながら少年は答えた。


虐待かと思った。

だけど、彼が発した言葉に恐れはない。

ただ、その教えに従ったが故に彼はこんな状態に陥ったのか。彼の父親も彼がこんな状況になるのを予想してなかったのだろう。・・・悲しいことだ。


「お父さんから、他人が喜ぶことは、進んでやりなさいって言われてないかい?」


僕がそう言うと、少年は首がもげそうなほど頷く。


「そうか、君の父親は良い父親なんだね。なら、僕は今お腹いっぱいなんだ。君がこれを食べてくれると、すっごく嬉しい。食べてくれないかな?」


少年は少し考えて、恐る恐る手を伸ばして、僕の手から食べ物を受け取る。

そして、僕と手に持った食べ物を交互に見て、僕が頷くと嬉しいそうに頬張った。


口の中をいっぱいにしながら、合間合間で口呼吸をする。味の変化のたびに顔を変え、表情豊かに味を楽しむ。

上手そうに食べるな。こっちまでお腹が減ってくる。


そして、少年の手から食べ物がお腹に移動し終えた。

少年は満足そうに両手をお腹に置く。


「美味しかった?」と聞いた僕に、少年は「はい!」と返事をする。

僕は自然と笑みが零れた。


「じゃあ、さよなら」と踵を返した僕。


少年も同じように口を開く。

「ごめんなさい」


次の瞬間、少年はわけのわからないといった表情で両手を地面に組み伏される。


組み伏したのは僕なのだが、僕も驚いた。

視線の動き方と倒れた場所や時間から何かがあるだろうとは思っていた。ずっと警戒していた。だから、直ぐに反応で来た。

だけど、こうも簡単に御せるとは思ってなかった。子供だからか。


「どうして?」と叫ぶ少年の手には注射器が握られている。中身は空。

そんなもので、何をするつもりだったのか。


疑問に思っていると、ランタンを持った衛兵が駆けつけて来る。


「君、何をしているんだ。少年を放しなさい。」

衛兵は組み伏している僕を見て、そう叫んだ。


僕は立ち上がり、少年を解放する。


同じように立ち上がった少年を見て、衛兵はしまったという表情を浮かべた。


「ご飯、ありがとう。」

そう言って、少年は街の外の暗闇へと消える。


「申し訳ありません。彼だと、知らなくて。」

僕に近づくと衛兵は頭を下げた。


「いいですよ。少年を組み伏せたのは事実ですから。ただ、僕がこれからすることを黙っててくださいね。」


ドンッ。僕は衛兵のお腹を思いっきり殴った。

鳩尾辺りが凹み、衛兵は苦しそうな声を出す。


「これでお相子です。僕は少年を保護しに行きます。ああ、ただ虎の獣人から聞かれたら、こう言って下さい。吸血鬼を見つけたって。」


そう言い残し衛兵が頷いたのを見て、僕は少年を追って駆け出した。


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