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Draniclドラニクル~異世界で出会った幼馴染は幼馴染だろうか~  作者: 如月いつか
第二章 転移初日
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第五話 一人の王女

つい最近のことを思い出そうとしても、どうも引っ張り出ない。


僕はここまで、どうやって来たのか。どうしてここにいるのか。

誰かに連れてこられた気がするし、自分の意思だった気もする。


目の前にいる紅い髪少女は一人でぶつぶつ言いながら、木の棒を使って地面に文字を書いている。

公園の砂浜にいそうな行動をする少女。

だけど、服装はピンクリボンの髪色と同じ色のふわふわドレス。服装に似合わない行動のせいで、白く長い靴下に土汚れが付いている。


辺りを見渡すとところどころ枝が飛びぬけて伸びて、葉が散らかっているが草木や道はある程度整備されている。彫刻があったり、噴水があったりと、ドレスを着た少女がいるのも相まってどこかの金持ちの庭に見える。


身に覚えがない。

夢かと思って頬を思いっ切りつねった赤い熱が現実だと教えてくれた。まだ、痛い。


少女の他に人はいない。

おそるおそると少女に近づくが、こちらの動向に対して反応はない。


気づいていない様子だ。

隣に立ってみるが少女は動かない。

地面を覗いてみると、書いているのは数式だった。


「もっと早く魔法を出せるようにならないと。皆に迷惑かけちゃう。せめて、自分の身を自分で守らないと、いけないのに。こっちの式を修正しても、上手くいかない。どうして。あ、こっちで計算間違いしてる。だから、ここを修正して。」


魔法?計算?

言っている内容はわからないけど、話している言葉は理解できる。話が通じるかもという期待に胸を膨らませる。


トン。

不意に彼女の上体が僕にぶつかる。書くスペースが足りなくて移動した矢先に僕がいた。


少女は一瞬で振り返り、僕を認識すると、世界が終わったような顔をして開けた口を震わせた。

次の瞬間、目をカッと開き大きな声で叫んだ。鼓膜が震えるほどの泣き声が辺りに響く。

「ししし、侵入者ぁああああああああ?!!!うわあああああああああああんん」


!?僕は、驚いて二歩三歩後ろに下がる。

どうして?と疑問よりもやってしまった!と言う感情が先に来る。

女の子を泣かしてしまった。


もしかしたら、華やかなドレスを見ると過保護に育ったのかもしれない。そんな少女の傍らに知らない男が立っていたのだ、そりゃ不安で泣いてしまうだろう。

謝ろう。そう思い、少女が泣き止むのを待つ。


待っていると不自然さに気付く。

数秒、数十秒と時間が経っても誰も彼女のもとに来ない。親はどこかに出かけているのだろうか。


そして、数分が経った頃、ようやく少女は泣き止んだ。


「あの、その、ごめんね。」

「いや、私が悪い。泣いちゃ駄目なのに。泣いちゃ、駄目なのに。」


少女は嗚咽交じりに自己否定をする。

でも、一先ず言葉が通じることに安堵し、胸を撫でおろす。


「ええっと、大丈夫?」


無理やり、ゴシゴシと目を擦って顔を上に向ける。そうして一回、二回と大きく呼吸をして背筋を伸ばしたまま、僕と向き合う。

その両目は充血したままだ。


「大丈夫、じゃない!貴様、王城に忍び込んだ身であるにも関わらず、そのうえ私を愚弄するつもりか。どれ程馬鹿にするつもりだ!!」


「え?おうじょう?」


「そうだ!私はバルバード王国、王位継承者第一位オーロラ・バルバードである。私の首を取りに来たのだろう。持っていくがいい。だが、もし私の遺言を聞くのなら、我が臣民が亡命できるように取り計らってもらいたい。」


オーロラは腕を組んで胸を張って姿勢で僕を見る。

その顔は真っ青だ。触れてしまえば、倒れてしまいそうなほど体が震えている。


王城。皇位継承、ああ、王女か。

酷い勘違いをされているのだろう。どこから、説明したものか。


「僕の名前はリュウ。竜崎隆だ。ええっと、日本から来た高校生で、残念だけど君の遺言を聞くことはできない。」


オーロラは一粒の涙を落とす。

一度、目を閉じ、開いた瞳には力が宿っていた。その瞳が僕を睨みつける。


「“ファイア”」オーロラは呟いた。


伸ばしたオーロラの手元から野球ボールほどの大きさの火が飛んでくる。

身を捻って躱すと、落ちた地面に弾けて煤が広がる。

魔法?


「“ファイア”、“ファイア”」

オーロラは叫んで何度も同じ単語を繰り返す。

すると、先ほどと同じ火の玉ストレートが飛んでくる。

躱せない速度ではない。距離を取りながら、オーロラを中心に回る。


どういう原理なんだ。とりあえずは様子見か。


曲がったり、スピードに抑揚がついたり、途中から変化があったが、投球数が上がるにつれオーロラの顔色が悪くなる。

50回ほど火の玉を躱したところで、オーロラの足ががくんと落ちた。

オーロラは遠めからでも分かるほど、顔は白く、唇は紫色になってしまっている。胸を抑え苦しそうに蹲る。


先程の魔法の使い過ぎか?危ない状態じゃないのか?

そう思った瞬間、足はオーロラのもとに向かっていた。「大丈夫?」そう抱きかかえようとした瞬間。


ザッ。とオーロラは胸元から短剣を突き刺した。

ただ、力のない突きだった。

躱して、オーロラから短剣を取り上げると、オーロラは自称気味に笑う。


「殺すなら、早く殺せ。」

少女の発言とは俄かに信じられない発言に驚愕する。

「お父様は正しかった。私じゃ、何もできない。国民を守れず、城も守れず、自分の身体すら守れない。辱めたければ、辱め、奪いたければ、奪うがいいさ。もう私には何もできないのだから。」

僕を見ているようで遠くを見ている。死んだ目の少女は体の力を抜いた。


僕はオーロラを抱きかかえた。酷く軽い。

振り払われるかと思ったが、オーロラはされるがまま抵抗しなかった

・・・もう。全てを諦めてしまったのか。


「僕は君を殺さない。大丈夫だよ。君の敵はここにいない。だから、大丈夫だよ。」

こういった時に、上手く言えない。同じ言葉を繰り返す自分に苦笑いしてしまう。


少女の目が僕と合う。

そして、彼女は僕の首に手を回して、声をあげて泣いた。苦しいけど、力のない少女の手では僕は殺せない。


そうやって数分ほど動かずにいると、静かになってオーロラの体から力が抜けた。

目を瞑って、耳元では寝息が聞こえる。


姫様って大変なんだろうな。


「おや、オーロラ様は眠られましたか。」

!?

「ああ、失礼。先ほどから背後に立っておりましたが、やはりお気づきになっておられなかったようですね。私はジークフリートと申します。現在は王国騎士団の団長を務めております。お見知りおきを、竜崎殿。」

ジークフリートは僕の手からオーロラを譲り受けると、軽々と抱きかかえた。


長身で金髪に碧眼。端正な顔立ちで、黒い軍服には金色の刺繍が入っている。腰に刺さっている鞘は煌びやかな宝石が装飾されている。それとは対照に納めた剣の柄は黒色で遊びがない。視覚的に見える情報はその程度だ。

僕の背筋に冷汗が流れる。

怖い。人にこう思ったのは初めてだ。


「」

声を出そうと思っても出ない。


「喉が潰れていますね。治しますので、ついてきてください。それに、少しお話がしたいので。」

そう言って先に進むジークフリート。


お話ってなんだろう。僕は息を飲み、彼に追って城に入った。


***


連れてこられたのは天井が高い部屋だった。

窓から入る日光が心地よく。普段は応接間として使われているのだろうか?

いくつか並べられたふかふかの椅子に座る。その体面にジークフリートは座り、オーロラはソファの上でシーツをかけられ眠っている。


「どうです。違和感はないですか?」

「あ、あ。はい。大丈夫です。ありがとうございます。」


声を出し、発生の確認をする。いつもの自分の声だ。

魔法で治療もできるなんて、画期的だな。


「良かったです。最近、人間に対しての治療を習得しまして。ただ、この体でも使えるか、不安だったので。問題がなさそうで良かったです。」


冗談、なのかな。薄い笑顔が少し怖い。

ソファで寝ているオーロラも徐々に顔色が良くなっているし、凄腕なんだろうけど、不気味だな。


「・・・あの、さっきのお話ってなんですか?」

「ああ、急に竜崎が庭に現れたので、どうやったのかと思ったのですが、もう大丈夫です。貴方以外にも沢山いらっしゃるみたいなので、神が介入したのでしょう。最近は控えめだったのですがね。」

「ああ、そうですか。」


何を言っているのかわからない。でも、聞かれても答えられなかったから、納得しているようなら良かった。

神様が関係しているらしい。ここの人たちは神様が身近なんだな。


「あの、僕は日本って国から来て、どうすれば帰ることが出来ますか?」

「・・・日本と言う国家は、聞き覚えがありません。貴方の身なりもこの世界で見覚えがない。つまり、別の世界。貴方は元いた世界に帰りたいということですね?難しいですね。」


自分の服装、胸に大きなロゴが入った柔らかい素材の白いパーカーとデニム調の黒いスキニー。白のスニーカーは走り回ったせいで、かなり汚れている。


オーロラとジークフリートから見るとかなりおかしな恰好かもしれないな。

それにしても、元の世界に帰るのは難しいのか。困ったな。

ん、困った?

ああ、行動指針が定まらないからか。でも、難しいということは方法があるかもしれない。まずは、取っ掛かりを掴ればいい。


「教えてください。僕はどうすればいいですか?」

「残念ながら、今の私ではどうすることもできないです。神によって連れてこられたなら、教会が何か知っているかもしれない。聖都に行けば手がかりは得られる可能性がありますが。」


聖都か。異世界らしい響きだ。そこに行けば、確かに何かを知れそうな雰囲気がある。


「目的が定まったという顔、良い顔ですね。武器を貸してあげましょう。今の貴女では目的地に着くまでに死んでしまう。」

ジークフリートはそう言って、部屋を出て行き、いくつか服と武器を持ってきた。


上等そうなものだと遠慮したが、遠慮しなくていいと言われ、その中で一番安そうな黒の上着と剣を有難く貰った。羽織ると学ランを着ている気分になる。


出発の前にもう一度、感謝を述べるとジークフリートは笑った。

「好きでやっているんです。それにオーロラ様との戦いを静観した私からの謝罪でもあるんです。それでは竜崎、お元気で。」


そうして僕はジークフリートに見送られながら、城を後にした。


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