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第二話 vsトロール

「おえー」


川の畔で僕は四つん這いになって膝をつく。

服が水に濡れるが文句を言ってられない。

レストラーに抱きかかえられたまま運ばれて、具合が悪くなってしまった。


5日ほど野宿をしながら、運ばれていたけど無理がたたったのか。それとも、日に日に扱いが雑になってしまっている弊害か。

ずっと走っているのに元気だな、レストラー。


「結構、近づいたな。お前が吐き気を催さなければ、たどり着いていたぞ。軟弱もの。」

四つん這いになっている僕の腰に座って、レストラーはため息をついた。

あんなにも走っていたのに、当の本人はものともしていない。本当に人間なのか疑問になる。いや、人から進化したんだったか。

その辺りは、あの転移者に会った時にでも詳しい話を聞こう。


・・・街から大分離れ、森の奥深くまで来た。

受付嬢は、トロールがどうとか言ってたか。討伐依頼だろうか?それとも魔核目当てか?

あれだけの反感を買えば、出禁だろうな。ロビンに会えばわかるだろう。無理やり恩を売るつもりだが、協力を拒否される可能性だってある。そうなってしまえば、知らずじまいだ。

気になるな。

「結局、聞けなかったからな、依頼内容。わかる?レストラー。」


「・・・死体探しだ。」

腰が軽くなる。レストラーが立ち上がって砂利道を歩き始めている。

僕は急いで立ち上がって、隣に並ぶ。

「死体探し?誰の死体を探すの?」

川沿いを歩きながら、僕らは並んで進む。横顔を覗くと、あまり面白くなさそうな顔だ。

「多分、トロール討伐に行ったパーティだ。」

なぜ、討伐の任務なのか?パーティである理由は?

どれから聞こうかと悩んでいるとレストラーは話を続ける。


「冒険者ギルドには基本、EからAまでのランク制度を設けている。基本的にソロだと、自分のランク以下の依頼しか受けられない。トロールはAランク討伐対象だ。だが、あの建物の中にいた奴でAランクの冒険者はいない。群れのボスのロビンでさえ、まぁ、Bランクが関の山だろう。」

ロビンを群れのボスって。そこはレストラーの感覚なんだろう。

だけど、あの強そうな感じのロビンでもBランク止まりなのか。厳しい世界だな。

「ソロならって、パーティなら一つ上のランクの依頼も受けられるってこと?」

レストラーは軽く口角を上げて頷く。


「そうだ。討伐依頼を受けたのはBランクパーティだろうな。だけど、失敗した。幾日待っても帰って来ないパーティを見かねて、ギルド側がロビンに緊急依頼を出したんだろう。だが、ロビンはBランクだ。武器や魔力量をみるに討伐は出来ない。」


だから、死体探しか。

個々人のできることで依頼を割り振るのか。良いシステムだ。

確かにロビンは歴戦の勇士のような雰囲気がある。ロビンなら束になって倒せないトロールをかいくぐって死体の確認はできそうだな。それも涼しい顔をして。

「ギルド側が死体確認をする理由は?それも緊急依頼として。」


「いつトロールが街を襲うかわからないからな。依頼続行中は完了するまでは他の冒険者にその依頼を振れない。ギルド側は早めに依頼達成不可の確認をしたいんだよ。必要なら他の街に応援要請をしないといけないから。」

レストラーは馬鹿馬鹿しいと言いたげに、鼻を鳴らして笑った。


彼女の言を正しいとするならば、Bランクパーティの壊滅によって街の最高戦力を失った。

その事実確認のために次席のロビンを使う。

かなりのリスクを取っている。それならば、あのギルド内のひりつきも理解できる。彼らにはもう後がないのだ。


「なるほどね。ちなみに身元の確認ってギルド証だったりするの?」

「ああ、ギルド証が認識票になる。それは、知っているのか。」

どこの世界でも兵士の身元確認方法は一緒らしい。

独り頷く僕にとレストラーは少し驚いた表情を浮かべる。元の世界の話をすればするほど、こっちの世界との違いに混乱するらしい。余り娯楽として本がないからだろう。


やることはわかった。見つかればいいが。


***


「ん?誰かいる。」

川沿いを登っているとたき火に身を寄せる女がいた。近くにはテントが設置してある。

キャンプ中だろうか。


レストラーが僕を押しのけて前に出る。

「お前からロビンの匂いがする。どういう関係だ?」

軽く僕を押して、レストラーは一歩一歩ゆっくりと女の方へと歩み寄る。傍目には体のぶれなく、だけど微かに左右に体重の移動をしながら重心を移しながら進む。

得物を捉えた肉食獣みたいだ。


こっちに気付いた女は手に持つコップを震わす。いや、身体全体が揺れている。

「きゃーーーー!!!虎の獣人!食べられるーー!!!」

大きな声で女は叫んだ。

そして、そのまま泡を吹いて倒れた。


レストラーが後ろを振り向き、僕を見る。

そんな憐憫を浮かべた顔で僕を見ないで欲しい。

僕だってどういう状況か、わからないんだから。


僕とレストラーで倒れた女を囲んで見下ろす。

白目を向いている。包まった毛布の隙間から汚れた兵装が見て取れる。

探していたパーティの構成員かもな。

「取り敢えず、起こして見ないと。どうしようか。揺さぶったら起きるかな?」

僕は彼女の状態を起こす。


パンッ。


レストラーは女の頬を叩いた。

叩かれた部分が赤く染まる。

女は叩かれた衝撃で起きたのかうめき声をあげた。

「うっ。」

目が半開きとなって首をかくかくしている。現実と夢を行き来しながら女は、焦点を合わせようとする。


パンッ!


もう一度、レストラーは女を叩く。

見事に両方の頬が赤く染まる。

「いったいー!何するんですか!!」

二度叩かれたことで完全に意識が覚醒したらしい。元気のよく声を出した。

揺らめいていた焦点が定まって、僕らを認識する。


「きゃーーーー!??変態!!!」


パンッ!!


***


「私。Bランクパーティの“戦乙女の淑女”のススキノって言います。先ほどはすみませんでした。」

僕ら三人で焚火を囲っている中、ススキノは僕らに対して腰を九十度曲げて謝罪する。

彼女の両頬は赤く染まっている。見るからに痛々しい腫れをつけた本人は、僕の方を向いて「どうする」と言った表情を浮かべる。こいつサイコパスなんじゃないか。


「いいよ。気にしないで。それよりも聞きたいことがあるんだけど。いいかな。」

僕は熱を持った頬に手を添えて答えると、ススキノは体を小さくして頷いた。

「ここら辺りにロビンって言う冒険者が来たはずなんだ。もしかしたら君とすれ違ったんじゃないかな。僕たちは彼を追ってここまで来たんだ。もし知っていることがあったら、話して欲しい。」


ススキノは僕とレストラーを交互に見て、一度首を傾けて返事をする。

「あっ、はい。数時間ほど前に会いました。」

レストラーと一緒にいると色んな所で不審がられるな。


ちらっとレストラーを向くと、「こっちを見んな」と顔を押される。

戦争があったと聞いたが、この国は獣人との交流があまりないのかもしれない。


「ロビンさんは私たち“戦乙女の淑女”を探しに来たそうです。このテントとかも彼の物で、森の中で憔悴した私を拾って、疲れているだろうって。優しく、言って、下さって。私たちが、討伐に失敗したから。それで、謝ったら、心配するなって。・・・」


ススキノは涙を零しながら現状を喋った。しゃくりあげながら、でもこっちの質問に答えてくれた。


概ねレストラーの想定通りだった。

ススキノはトロール討伐依頼を受けたパーティメンバーで、ロビンはその状況を確認に来たらしい。ススキノに会ったロビンは、彼女を介抱した後、別のメンバーの捜索をしている。

ススキノによると、4人パーティで一人は既に他界しており、ロビンはこれから死んだセセラギのギルド証の回収と、シラギとキラルガの二人の捜索を行うらしい。


「それじゃあ、行こうか。レストラー。」

やることが明確になった。後は行動を起こすだけだ。

立ち上がって肩を叩く。欠伸をしていたレストラーは「やっとか」と反応し、伸びをしながら立ち上がった。


涙で腫らした目元を見開いてススキノは、ポカンとした。

「え、え、どこに行くつもりなんですか?この森にはトロールがいるんですよ。魔除けの魔石があるここにいた方がいいですよ。死にたいんですか!!」

喋りながら段々と言葉に力が籠っていく。手に持ったコップを投げ捨てながら立ち上がり、僕の手を引いた。


「死に、たいんですか?」

打って変わった震えた声でしがみつくようにススキノは言った。

その目ははっきりと僕を見ている。


ススキノに対して、言葉が出ない。力強く握る手を僕は振り払えない。

質問の答えは明確だ。「死にたくない。」

でも、それでは駄目だ。それだけはわかる。

彼女を説得できるほど、死ぬような目に遭った、仲間が死んだススキノを納得させる程の言葉に重みを僕は持っていない。何も言うことができない。


「邪魔だ。」


そう言ったとストラーは、ススキノの腕を掴んで地面に投げ捨てた。

「悪いが仕事なんだ。これ以上、お前の世話をするつもりはない。自分の不甲斐なさを他人に押し付けるのはいいが、竜崎を巻き込むようならお前を殺す。」


ススキノの表情が明確に変わる。怒りに染まる。

次の瞬間、倒れていたはずのススキノが飛び跳ねる。右手を固め、レストラーに飛び掛かる。

意表を突いた拳はレストラーの顔面に当たった。


そして、倒れた。


「満足か?」


倒れたススキノにレストラーは見下しながら言う。

「あっはっははは!!!」

ススキノは下を向いたまま狂ったように笑った。

「満足なわけないですよ。満足なわけないでしょ!!あなたたち獣人が戦争を仕掛けたせいで、街にいるAランク冒険者は皆、徴兵されたんですよ。戦争が終わったのに帰って来ない。全部、あなたたちのせいで。皆、みんな、死んだんだ!!」


レストラーは、口を開いて何かを言おうとして何も言わずに、口を噤んだ。

彼女は獣人類の姫だ。戦争について何かを知って言うのだろう。なんなら、当事者だ。

だけど、僕や彼女にとっては関係のない話だ。僕は戦争を体験せず、彼女は身近な人間をなくした怒りを抱いている。それに国同士のいざこざはもう終わった。蒸し返せば、終わりのない話になる。


何も言い返さないレストラーに見切りをつけ、ススキノは僕を睨みつけた。

「獣人を引き連れて、さぞ気分がいいでしょう!彼女がいれば、トロールなんて怖くないでしょう。あなたは、その獣人が戦っている影に隠れて、見ているだけでいいんですから。どうやって手懐けたんですか?真実の愛ってやつですか、手籠めにしたんでしょ!貴族連中が良く言ってましたよ。獣人類は旧人類とは具合が違うって。気持ちよかったですか?!?」

勢いよく発する声が掠れ始め、挟む呼吸が不足気味になっている。


彼女の怒りの矛先が僕に向かっているのか、レストラーに向かっているのか。

わからないけど、本人もわかってなさそうだし、何だか可哀そうだ。


僕はレストラーの腕を引く。

「行こう、レストラー。」

絞り出した声で、レストラーに声をかける。

レストラーは眉を動かし、ニヤリと笑った。「ああ」と同意して僕の後ろにつく。


「・・・怒っているのか、竜崎?」


怒っている?

いや、怒ってないよ。

変なことを言うな。僕が起こる部分なんてなかったじゃないか。

侮辱されていたのはレストラーだ。怒るなら君だろう。


オカシイな、思考だけ流れて返事ができない。


「どこに?」

レストラーは愉快そうに笑いながら投げかける。


ああ、さっきやることは明確になったじゃないか。

馬鹿だなぁ、レストラー。一つしかないじゃん。ギルドの依頼を果たせば、直ぐに帰れるんだ。なら、依頼を果たすように動かないと。

頭の中はスッキリとしている。


「トロールをぶっ殺す。」



***


あれがトロールか。デカいな。

緑色の巨体は4m近くあるだろう。横にも広く厚みがある。

遠くから見ればずんぐりむっくりに見えるが、近くで見るとその存在感は山が動いているようだ。


トロールに気付かれない距離で、僕とレストラーとススキノは足を止めた。


「本当に挑むんですか?」

ススキノは不安そうに僕を見た。


「え、普通に無理だろ。勝てないよ、あんなの。」

「一か月前にスライムに苦戦していた竜崎には、難しいだろうな。」

「やっぱりレストラーもそう思う?じゃあ、トロールに見つからないように、残りの二人を探そうよ。」


ススキノはポカンとした顔を左右に振って、正気を保つが、

「え、どういうことですか?あんなに格好よく啖呵を切って。あれ、あれー?」

と頭を抱えながら、難しい顔を浮かべる。

その光景を見てレストラーは愉快そうに笑う。笑って僕の腰のベルトを掴んで、放り投げる。


「・・・え?」


空中で。空に浮いている。あ、やばい。地面にぶつかる。死ぬかも?

ふんっ。

身を翻し、地面の上を滑って、木に当たって止まる。

心臓が今までにないぐらいに高鳴っている。


「おーい、竜崎。危ないぞー!」

十メートルほど離れた茂みからレストラーが叫ぶ。

上の方で大きな影が動く。顔をあげると、トロールの棍棒が振り上げられている。


木を蹴った瞬間、風圧を感じる。

ビューという音の横を通り過ぎ、身体を翻して立ち上がる。

木が折れ、他の木の枝を巻き込みながら倒れる。

倒した本人は気にすることなく、ゆっくりとこっちを向いた。


「伏せろ!」

咄嗟に聞こえたレストラーの指示に体が反応する。

轟音が頭上を越える。

静かになった後、僕の周りは更地になっていた。


当たったら死ぬな、確実に。

腕輪に魔力を込め、剣を取り出し両手で握る。だけど、緊張のせいか、怖気づいてしまってか、体が震えて言うことを聞いてくれない。一歩が出ない。


トロールが振りかぶった。即死の一撃がくる。

避けろ、避けろ、避けろ、避けろ。


ズドンッ。

ズシャ―、ゴッ、ブン。


運よく初撃は逸れた。

だが、振り落とされた次の瞬間、トロールは棍棒をテニスのラケットのように振った。躱せなかった僕は、ボールのように飛んだ。気づいた時には空中にいた。

枝にぶつかりながら、勢いは減衰し遠くまで数メートルほどの空中体験で地面に落ちる。


むせ、吐き出した空気は血の香りがする。体の力が抜ける箇所がある左手はもう駄目だな。

だけど、それだけだ。

元居た世界より、幾分か丈夫になっている。これが俗にいう異世界特典か。あるいはこの世界の標準か。全身に魔力を回すことで身体能力が向上し、身体構造もまた堅牢になっている。


僕がトロールを向くと、真っ黒な瞳と目が合った。

グォオオオォォォ。トロールが吠える。委縮してしまいそうになる。


「“アーススピア”」

地面に魔力を送り、それが形となって現れる。生み出せた一本の槍をトロール目掛けて投擲する。刺さったが深手にはならない。

少しの脱力感と実戦で使えた達成感が拮抗する。


トロールが振りかぶるが、距離がある。


「“アースニードル”」


ドスンという音が響く。トロールが距離を詰めるために一歩前に出た音だ。巨体ゆえに一歩が大きい。立った一歩で僕との距離は半分になった。そしてもう一歩、前に出る。


ドスンッ。


僕に攻撃が届く位置になる。

グォオオオォォォ。また、トロールが吠えた。鼓膜が破れそうだ。

だけど、今度は威嚇じゃない。それは悲痛の叫びだ。


僕は運がいい。

トロールの足が下りた場所は魔法で作った棘の部分だ。足を貫いている。

トロールはバランスを崩して倒れる。


攻撃のチャンスだ。

間髪入れず、剣に魔力を込め、振るう。が、切れたのは剣の長さの半分だけだ。半分だけ沈んで剣が止まる。

トロールの腕が伸びて来るのを躱し、距離を取る。

どんだけ、脂肪が厚いんだ。


距離を取ったことでトロールが、のそっと起き上がる。

先程と変わって中々、距離を詰めてこず、動かない。少し歩いたかと思えば、生えている木を掴んだ。それを引き抜いて、振りかぶる。がしかし、投げられた木は真下で弾み、地面に転がった。

知性があるらしい。


そこで師匠の言葉を思い出す。

「戦いを単純に力比べ、速さ比べと誤解してはいけません。その指標だけでは必ず勝てない相手が出てきます。そういった時は頭を使いなさい。自分にできることを考え、相手の弱点を探しなさい。そうすれば、きっと勝ち筋が見えてきます。」


僕は一度、目を閉じ、深呼吸をする。


目を開く。


「“アースボール”」

僕は魔法を使う。もう残りの魔力もわずかだ。最後にしよう。


「さぁ、運任せだ!僕とお前、どっちがついてるか、勝負しようぜ!!」

グォオオオォォォ。トロールは僕の声に反応するように吠えた。


トロールが棍棒を振り上げて僕に向かって走る。こちらは蛇行しながら焦点を定めさせないように動く。

かく乱しようとする僕に、トロールは迷わずに振り下す。次の瞬間、左側を何かが通った。

トロールの手から棍棒が消えている。投擲か?当たらなかったのは、幸いだ。

手ぶらになった敵に、僕は剣を強く握りしめる。


ゴン、と大きな音が立つ。

地面から新しい棍棒が生まれ、トロールの手に再び握られる。


僕が使うのと同じ属性の魔法。僕より錬成が早い。

使えるのか?そんな疑問が頭に生まれる時には、僕は真っすぐと走り出していた。


ニヤリとトロールは笑った。そして、大きく振りかぶり、即死の一振りを繰り出した。

僕は躱せなかった。先にここで躱すと決めていなければ、お前は僕より賢い。僕より強い。だけど、それでも僕が勝つ。


ここだ。

僕は足に全力で魔力を注ぎ、地面から体を浮かせ、後ろに飛んだ。


ドゴンッ!!!

重低音が響く。

振り下ろされた棍棒は、転がっている木を粉砕した。


「凄い威力だよ。まったく。」

空中で体をよじる。数十メートルは弾き飛ばされた。剣を下に向け落下に備える。

「さぁ、こっからが本番だぞ。」

高さか、恐怖か、興奮か、身体が震える。当たり前だ。だけど、これが冒険だ。自分をニヒルに笑ってみせる。これで戦いは終わる。尽きるのは僕の命か、はたまたトロールの命か。

「行くぞ、竜崎。」

震えを止める。もう、自由落下が始まる。運命の時間だ。


***


「今日は僕の運が少しだけ良かったみたい。」

トロールと戦っていた男は気の抜けた笑みを浮かべた。


きっと、この姿を見てトロールを倒したとは誰も信じない。

鍛え上げられた肉体はなく、人外じみた魔力量もない。身に着けた装備も特別なものはなく、歴戦の雄姿といった雰囲気もない。十人彼を見て思うのは、未熟者という評価だけだ。

だけど、彼は手にしたトロール討伐という実績を。


「まぁ、及第点だな。槍の投擲を頭にすれば、効果的だった。魔法で作っていたが、その辺に枝が落ちているんだ。周りのものを使うことだってできた。視野が狭い。それと相手を倒したにもかかわらず、距離を取った。そのまま攻め続ければ、もっと優位に立てた。反省点はあるが、お前のいかれた発想は評価してやる。よくやった、竜崎。」

虎の獣人レストラーは竜崎の頭を掴んで撫でる。

竜崎は照れたように笑った。


「やりましたね!竜崎さん。トロールを倒すなんて、びっくりです!先程の言葉は訂正します。竜崎さん申し訳ございませんでした。レストラーさんも申し訳ございませんでした。」

私は頭を下げる。

上手く笑えているだろうか、声は震えてないよね。心の中で唇を噛んで、顔をあげる。


「え、何が?」

竜崎はポカンとした顔で首を捻る。そして、同じ状態のまま数秒固まった。

その様子を見たレストラーは肩を震わせて笑う。

「アタシも気にしてない。もう過ぎたことだ。どうだ、こいつ面白いだろ。」

そう言ってレストラーは竜崎の首をホールドする。急な出来事に驚いたように竜崎は疑問を連呼する。


私は笑った。お腹が痛くなるほど、私は笑った。笑って、涙が出た。

「そう、ですね。面白いです。」

私は答える自分の思ったままに。


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