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彼の過去

銃声。砲撃音。

空が焼ける。大地が崩れる。

「──援護しろ! 奴らが回り込んできてる!」

叫ぶ声に応え、彼は無言で前に出る。

背中の仲間が、誰かが叫んでいた気がする。だが、耳鳴りがすべてを飲み込んでいた。




> 「っ──来るな、伏せろ!」

その瞬間だった。

視界が、白く染まった。

体が宙に浮いた。いや、吹き飛ばされたのだ。

自分の腕が、爆煙の向こうへ消えていくのが見えた。

「……あ、あぁ……」

声にならない叫びと共に、彼は地面に叩きつけられた。




> 焼けた匂い。血の味。

どこかが痛い。けれど、どこが痛いのかすら、もうわからなかった。





---


> 気づけば、天井があった。

灰色の金属板。機械音。

「生きていたか……幸運だな。もっとも、その半分だけだが」

聞こえたのは、無機質な声だった。

医師なのか、それとも技術者か。

「君は……戦力として回収された。失った部分は……補える」

自分の体を見た。

左腕は無かった。左目も見えなかった。

代わりにそこにあったのは、光を帯びた機械のパーツ。

接続部から冷たい金属の感触が全身を侵食していくような錯覚があった。




> 「拒否する選択肢は、最初から存在しない。安心しろ。君はまた、前線に立てる」

目の奥が熱い。

怒りか、悲しみか、戸惑いか。

どれでもなかった。

ただ、受け入れるしかなかった。




> 生き延びる。それが、ただ一つの命令だった。


> ――ガシャン。ギィィ……

左腕がはまる音。冷たい金属が、彼の皮膚と、骨と、神経に繋がっていく。

痛覚は、あるのかないのかわからなかった。

モニターの光が揺れている。

小さなノイズが耳を刺した。

「左腕、義肢接続完了。チェーンソー・ユニット、作動良好」

「義眼システム、視界補完。センサー範囲、正常」

何人もの“技術者”たちが彼を囲んでいたが、誰一人として彼の名前を呼ばなかった。




> 「さあ、起きろ。君には、役割がある」

無機質な合成音声のような声が、彼の右側から届いた。

一人の男──白衣を着た老人のような姿をした、だが瞳の光は生気を失い、何かに取り憑かれたような狂気を孕んでいた。

「我々のプロトタイプ第一号……。再び戦場に立てるぞ。さあ、“その力”を、証明してみせろ」

彼は応えなかった。

沈黙のまま、視線を前に向ける。

手を──いや、“機械の左腕”を見下ろした。




> ……動作確認。

……チェーンソー駆動、起動音正常。

……殺すための設計。




> 「君の感情? そんなものはもう不要だ」

男は笑った。機械を称賛するように、敬意すら込めて。

「人の弱さを捨て、力のみを求めた姿。……それが“兵器”だろう?」

返す言葉はなかった。




> 心が、何かを閉じた音がした。

そして、彼は立ち上がった。




> 左足からわずかに響く金属音。

義足ではない、だが骨格は調整されていた。

彼の半身はもう、確かに“人間”ではなくなっていた。




> 「プロトタイプ──出撃だ」

無機質な鉄の扉が開いた先に、次の戦場が待っていた。

そして、静かに彼の“人としての時間”は終わった。





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