裏切り者の協力者
金属の冷たい手術台。拘束は解かれ、彼は上体を起こす。
白髪を後ろで一つに結び、裸の上半身には接続跡と未完成のフレームがむき出しになっていた。アームユニットだけは仮接続済みで、脈動する蒼い光が細く瞬いている。
「……すまないな」
カラクリが背後のパネルを叩くと、壁面が割れ、重々しい音と共に隔壁が閉じる。
「手術は中断だ。だが、ちょうど良いテストが来た」
彼が目を向けると、サーボ音と共に通路奥のシャッターが跳ね上がる。そこから、機械音を引きずるようにして、二体の影が姿を現した。
一体は獣型ロボット――虎のような鋭い四肢と唸るエンジン音。
もう一体は女性型人造体――肌を模した人工皮膚に、無表情な仮面が貼り付いている。
「……にとりの差し金か」
「私の元上司だ。裏切ったのは私だが、彼女は執念深い。未完成の君を潰して、私の研究を止めるつもりだろうな」
彼は静かに立ち上がる。
アームのフレームが軋み、手の甲にナイフが滑り出す。鈍く光る刃――カラクリによる応急強化品だ。
「試作品だが、振動波を纏わせたナイフだ。内部構造を破壊できる」
「十分だよ」
静かに、彼は言った。
その瞳に揺れるのは、ただ一つの意思――戦うために蘇った者の、それだけの色。
「あと、一つオマケだ」
カラクリは機械アームで後方から一本の刀を放る。
白く鈍い光を帯びた刃――
「妖夢の刀を模してみた。霊圧変調波を再現できてはいないが、硬度と切れ味は本物に迫っている。ただし、耐久は保証できん」
彼は空中でそれを片手で受け取り、少しだけ笑った。
「……これが、あの剣。なるほど、重いな」
「面白いものが斬れるといいな」
獣型ロボが唸り声をあげて突進してくる。
その口腔部から高エネルギービームが放たれる。
彼は躊躇なくアームを広げた。
ビームはその回転装甲に吸収され、アームの中心に青白い光が凝縮していく。
「=/……撃ち返していいんだよな」
轟音と共に、彼のアームから圧縮されたビームが放たれた。
獣型ロボの腹部を貫き、内蔵ジェルがぶしゅりと吹き出す。
動きが鈍ったところを、一閃。
「ちっ……血じゃないのが残念だな=)」
笑いとも溜め息ともつかぬ声を漏らす。
振動ナイフが機械の骨を断ち、白刃が人工筋肉を裂く。
女性型のロボが彼の背後を取るように跳躍――
だが、その動きは彼のセンサーにすでに映っていた。
「そっちは利き手じゃないが……ま、いいか」
振り返りざまに振るわれた模造妖夢刀が、斜めに切り払う。
仮面の下から人間のような笑顔が見えかけた瞬間、首が断たれた。
ゆっくりと崩れ落ちる人型ロボット。オイルが床に血だまりのように広がる。
彼は一歩、二歩とその上を歩きながら、刀を振って血のような油を払った。
「ふう……次は、ちゃんと仕上げてくれよ」
「そのつもりだ。だが、その笑い……未調整領域からノイズが出ているな」
「そうか……だとすれば、面倒が起きる前に早く終わらせような」
カラクリが無言で頷き、再び手術ベッドを用意する。
そして彼は、刃を傍に置き、再び台の上へ静かに横たわる。