小さなアップグレード
ラボの自動扉が静かに開く。
彼の体は、半ば焼け焦げた状態だった。
アームは煤け、装甲の一部には傷跡が残る。だが彼の目に迷いはない。
「戻った」
そこにいたのは、白衣を翻した男──カラクリだった。
「ふむ……ずいぶん派手にやられたな。だが、それでいい。データは十分に取れた」
「収穫はあった。あの機体の挙動、思考パターン、射撃速度、すべてスキャン済み」
「よろしい。では早速、強化の続きを行おう。今回の目玉は──変身機能だ」
彼は無言のまま、カラクリを見つめる。
「勘違いするな。ただの見た目だけの変化ではない。他者の姿を模倣し、その体格・声帯パターンを再現し、特定範囲の動作まで再現可能とした」
「……変装用、か」
「そうとも。視覚的撹乱、潜入、あるいは……対象の“記憶”に揺さぶりをかける用途にも使える」
カラクリがパネルを操作すると、側部の装置が開き、彼の胸部から淡く光る球体が引き抜かれる。
代わりに、新たな「多層擬態コア」が挿入される。
「これで君は、記録された対象の姿へと一時的に変化できる。ただし制限はある。戦闘時の変身はおすすめしない。変身中は“本来の出力”が低下するからな」
「了解。主に欺瞞・撹乱用途、ということか」
「ふふ……そういうことだ。変身第一号は君の複製ロボが盗んできたデータから“魂魄妖夢”にしておいた。試すか?」
「今はいい。使いどころを見極めてから=)」
カラクリは笑みを浮かべると、続けて別の装置を指し示した。
「ついでに、ナイフの収納機構も更新しておいた。最大4本、全て個別の重力調整付き。投擲時に風の抵抗や重力を無視できるようになっている」
「重力無視。便利だな。……それと?」
「お待ちかねだろう。左腕のチェーンソー。今度のは“魔力干渉鋼”を刃に使用している。物理だけでなく、魔力にも食い込むぞ。……生物の悲鳴が、よりよく響くはずだ」
「試すのが楽しみだ。……戦場でな=)」
彼の目が、静かに光を灯した。
新たな姿を得た戦闘機械は、またひとつその完成度を高めていた。
---




