勘のいい奴は嫌いだよ
──午後、日が傾き始める人里の広場。
小さな市が開かれ、露店が並び、野菜や古道具、怪しい薬が売られている。
彼はその中に溶け込むようにして、静かに歩いていた。
周囲の視線を受けることなく、人とぶつかることもなく、気配すら希薄。
> (……旧都からの物流が減っている。なにかが地下で起きてるのか)
手にした乾いた竹の皮に記したメモを折りたたんだ、そのとき。
「──おい」
背後から、どこか馴れ馴れしい声。
> 「……!」
すぐには振り返らず、ほんの一瞬、足の動きだけ止める。
すぐにごく自然な表情を作り、声の主へ向き直った。
そこにいたのは──
「……やっぱり、お前、前にも見たよな?」
黒と白の魔法使い。博麗霊夢と並ぶ、もう一人の異変解決者。
──霧雨 魔理沙。
「えーっと、どこだったっけ……。そう、森! そうだ、お前、いたな。あの時……」
> (……戦闘時の記憶か。観測位置から……視界に入っていたか)
彼は、ほんの少し目を伏せた。だが沈黙はしない。
「……私が何か?」
「いやさ、マスタースパーク……見たんだよ、あの森の中で」
> 「……」
「誰かが“あたしのマスタースパーク”を真似たみたいなんだよ。
スペルの出方、エネルギーの流れ、演出……どれもかなり似てた」
彼は内心、アームに残された反射時の**“弾幕構造記録”**を再確認する。
確かに、あの森で撃ったのは、魔理沙のスペカを模倣した擬似弾幕だった。
「けど、思い出せなかったんだよなぁ……誰がいたか。
でも、今こうして見ると──お前さ、ほんと変な存在感してんな」
彼は表情をわずかに崩す。
「変? =/」
「いや、ほんと、さっきまですっぽり記憶から抜けてたって感じだぜ?
今思い出した時、ゾワッときたよ」
> (記憶に対する干渉性ではなく、単純な存在感の調整の効果。
彼女の観察力なら、次に会ったときにはもう誤魔化せないかもしれない)
魔理沙がじっと彼を見ている。
「……ま、偶然ってこともあるか。でもさ」
彼女はじっと目を細める。
「マスタースパークのパクリなんて、そう簡単に出来るモンじゃねぇよ?
“真似”なんてしたら、ちゃんと怒るからな?」
その視線は探るようで、同時に試すようだった。
彼は微笑のような何かを浮かべる。
「了解。気をつけるよ =)」
「……やっぱ変なやつだな、お前」
魔理沙はそう言い残し、踵を返していった。
だが、数歩歩いて──また少しだけ振り返る。
「今度また会ったら、もっと詳しく聞くからな!」
そして本当に立ち去っていった。
> (……次は、誤魔化しきれないかもしれない)
彼はそう思いながら、再び市場の喧騒の中に沈み込んでいった。
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