古びた集落と侵入者
薄暗い霧が立ち込める古びた石畳の道。
彼は背中に背負った、複製した妖夢の剣を握り締めながら、足音を忍ばせて歩いていた。
白銀の髪は後ろで結わえられ、冷静な瞳は周囲の異変を鋭く探る。
「……この場所、かつての栄光の残滓か」
彼は静かに呟いた。石造りの柱や壊れた門扉、苔むした壁。無数の遺物が時の流れを語っている。
突然、闇の中から何者かが飛び出す。複数の影。
雑多な妖怪たちが、彼の存在に気づき警戒の構えを取った。
「相手に不足はない」彼は剣を軽く振り上げる。
素早く振るう剣先は鋭く、妖怪の一体の首筋をかすめる。
同時に背中からナイフを数枚投擲、的確に標的を射抜いていく。
敵の動きを観察し、隙を見つけて一気に距離を詰め、剣を振るう。
動きは機械的で正確。時折、背中のアームが反応し、敵の弾幕を吸収、巨大なエネルギー玉に変えて放つ。
「さて、すぐ終わらせようか」
淡々とした口調だが、その声には余裕が滲む。
戦いは短時間で終わり、残った影は散り散りに逃げ去った。
彼は周囲を見回しながら、小さく呟く。
「この地には何が隠されているのか……」
彼の剣は静かにその輝きを増し、未知の探索の扉が今、開かれた。
石畳の坂を下った先に、廃れた宿屋があった。
看板の片隅には「泊:5文」と煤けた字が書かれている。古びた布を纏った者たちが、明かりの灯る玄関へと吸い込まれていく。
彼は無言でその流れに従った。
中は土埃の匂いと、古い酒の蒸気が充満していた。ロビーの片隅には壊れかけの木椅子と、煤けたテーブルがある。
火鉢の横に腰を下ろした男が、彼に声をかけた。
「初めて見る顔だな。旅人か?」
「……そうだ。ここには情報を探しに来た」
「なら、俺と交換しよう。お前の持ってる“最近の話”と、俺の“この町の掟”を」
彼はわずかにうなずき、言葉を選びながら話し始めた――
だが、その瞬間だった。
ゴギャッ!!
乾いた金属音と共に、壁の板が裂け、鋭い刃が突き出された。
隣に座っていた男の胸を貫通し、血が火鉢に滴る。
「っ……!」
男が崩れ落ちたと同時に、壁が“割れる”。
そこから現れたのは、金属で装飾された妖怪たち――それも、粗野な野盗のような装備に身を包み、牙を剥いた笑みを浮かべている。
「うぃっひひ……やっぱ隠れてやがったな、人間ども。全部狩ったと思ったが……」
リーダー格の妖怪が、肩に担いだ大剣を床にズシンと叩きつける。
灰色の髪を乱雑に結び、獣のような目で辺りを見渡した。
「全員、狩った……と思ったが?」
その視線が、彼に突き刺さる。
「……ん? なんだぁ? そこに座ってる“お前”……探知に引っかからなかったぞ? なんでだ? お前、人間だろ? それとも──何かの間違いか?」
彼は立ち上がり、無言のままゆっくりと剣の柄に触れた。
「答えろォ!」
咆哮と共に、リーダー妖怪が大剣を振り下ろす――!
ガキィィン!!
しかし、その剣は落ちきることなく、空中で止まった。
彼が片手でその刃を受け止め、軽々と掴んでいたのだ。
「……なんだと?」
リーダー妖怪の顔が強張る。
「手応えがねぇ……!? 剣が……押されてる!? なんだこの人間の力はッ!!」
「探知に……引っかからなかった? ふむ、そういう類の仕組みだったのか」
彼は静かに呟いた。
そして、指先に力を込め、握った大剣の刃を“ミシリ”ときしませた。
「ッ! お、おい、下がれ! こいつ、只者じゃねぇぞ!!」
仲間の妖怪たちが一斉に彼を囲む。
宿の空気は、再び血の匂いで満たされようとしていた──。
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