シャットダウン
> 研究施設の床に、血が流れる。
焦げた配線、破壊された機械、そして倒れ伏した技術者たち。
プロトタイプのチェーンソーにはまだ熱が残り、アームはゆっくりと収束していく。
> 「……さて、後は……」
彼が機材の一つに手を伸ばしたその時──
> 「ふ、ふふ……」
壊れたと思っていた端末の奥から、男の声が響く。
黒焦げのコート、酸に焼かれた眼鏡の奥から血走った目が彼を見ていた。
科学者――最後の生き残り。
> 「データは……もう、全て転送した……」
科学者の口が痙攣しながら動く。
「君の戦闘記録、神経接続データ、義肢挙動、感情反応……全部な……」
「……何が言いたい」
「お前の価値は、すでに私の中にないということだ……」
そして、彼は背後のパネルを押す。
無機質な音と共に、室内に異常なノイズが走った。
> 「緊急停止用のEMP攻撃……君の中枢を焼き切るには、これで十分……!」
プロトタイプの義眼が一瞬だけブレ、左腕のチェーンソーが停止音を上げる。
腕が、膝が、鈍くなっていく。
「これで……終わりだ……お前は用済みだ」
科学者の顔に、歪んだ満足が滲む。
> 「……終わり……か」
視界が暗くなる。
全身が、沈んでいく。
今度こそ、本当に死ぬのだと彼は思った。
頭の中に浮かぶのは、焼け焦げた戦場と、積み上がる死体と──
自分自身の、無表情な笑顔だけだった。
> (ああ……これで、やっと……)
> ――その瞬間。
光が、視界を包み込んだ。
蒼白な閃光。ノイズの奔流。浮遊感。重力の断絶。
> ……土の感触。
鉄と火薬ではない、湿った森の匂い。
「……ここは……?」
彼は、ゆっくりと起き上がる。
衣服は焦げ、左腕は黒く焼け、義眼は一部焦点が定まらない。
しかし、生きていた。
見慣れない、奇妙に静かな森。
どこか現実味の薄い、色彩に満ちた空気。
そして、木々の間からこちらをじっと見つめる──“何か”。
> 「……どこだ、ここは」
そう呟いた時、背後から声が響く。
「ケケケ……にんげん?」
――妖怪。
そして、幻想郷での悪夢が始まった。
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