9 "懐かしさ"
「なぁ。」
涅巴の声が静かな部屋に響く。
放課後、涅巴は友親に勧められて共に図書室に来ていた。なんでも、ほとんど利用者がいないだらけるにはうってつけの穴場だという。大方、近くに大きな図書館があるため、わざわざいく必要が無いといったところだろう。
「なんでお前嫌われてんだ?」
「急だな…」
「確かに目つき悪いし髪染めてるしで不良っぽいけど、嫌われたり怖がられたりするほどじゃねぇだろ。」
友親に刺さる訝しみの目。それもそうだろう、 確かに素行は悪いかもしれないが、先程涅巴が言った通り、そこまで距離を置かれる程のものでもない。暴言を吐いていたわけでもないのだ。
「そうだな、歴とした理由はあるにはあるんだけどよ…」
「歯切れが悪いな。」
何か罪でも犯したか?
なんとなく周りを見渡していると新聞のようなものが入った棚が目に入る。
「なぁ、あれって」
「ん、あれはな、たしか新聞部の作品置場だったはずだな…」
さっと席を立ち棚の近くまで寄る。
「なんだか古いものばかりだな」
なんとなくその中から目についたものを取り出し、それを読み出す。
「おお懐かしい高倉廃病院か。」
友親は昔懐かしむ様に語りだした。
「こいつはな、昔流行った肝試しの聖地のことなんだよ。」
肝試しの聖地という邪なのか聖なのかわからないワードは聞き流しておいて、話を聞き続ける。
「高倉病院女呪縛霊っていう有名な怪談でな、まだ日の落ちきらない夕方、血の滴り落ちるような音と共に女のうめき声が聞こえて来るんだ。『こい、こっちにこい、』ってな。その声に従ったが最後、二度と病院から出てくることができなくなるというらしい。」
友親が話すと怖さも半減だなと思いつつ、質問を投げかけた。
「お前は行ったことはあるのか?」
「あぁあるぜ。この地域ではそうゆうことは絶対起きないって話だからな、俺も興味があったんだ。もっとも、女の声も何も起こらなかったけどな。」
「今から行ってみるか?」
「いや、やめておくよ。」
「なんだよ、怖くなっちまったか?」
「家族が心配するんだ、それに俺は居候の身だしな。面倒はかけさせられないんだよ。」
「ふーん、まぁいいけど。」
そこで戸がガラガラと音を立てて開いた。
「委員会終わったんだけど、はやくかえろ…」
妃蝶だ、だが友親を見つけて態度を変えた。
「げ、なんでアンタがいんのよ…」
「何処にいたっていいだろ。」
知り合いか?そんな素振りは見せなかったが…そういえば二人共友達いなかったもんな、気が合うのかもしれない。
「そういや居候先妃蝶の家って話だったな…まぁいいやじゃ、また明日。」
「あいよ、また明日。」
友親の背中を見送った後、二人は家へと帰って行った。
「…ねぇ、なんで結局私は君をおんぶしてるの?」
「…ごめんて」
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「…高倉廃病院か…懐かしいね。」
帰路についた後、皆で夕食を食べていた。
「恩三郎も行ったことあるのか?」
「行ったこと自体はないよ。けどあそこは老朽化が進んでいるらしいし、無闇やたらと入っちゃダメだよ?」
続けてジュースが話し出す。
「いや、絶対に入っちゃダメよ?あそこは不良のたまり場になっているらしいし、事故も起きてるからね。犯罪に巻き込まれちゃう可能性だってあるもの。」
「未成年に手を出そうとしたアンタが何をいう…」
「そういえば昔入って怪我をした女の子もいたわねん♡」
「もぅ、ジュース、掘り返さないでよ…」
妃蝶もそういうことするのか、いい子ちゃんだと思ってたのに。まぁやんちゃなときも合ったということか。
夏になったら肝だめし行こうかな。