3 "限界そして絶望"
「あつい、辛い、足が痛い。」
彼は坂を登り初めてすぐに弱音を吐き始めた。
日頃の運動不足が祟ってかすぐに体力がなくなる。
「なぜ、俺が、こんなぁ、めに…」
結局、シルバーカーのおばあちゃんにも遅れを取る始末。
彼は高校2年の16歳、訳あって一人転校を余儀なくされた哀れな男子だ。
名前は…
「おーい」
心身ともに疲れ切っていた時、救いの手が差し伸べられた。それの声の主は、
「やぁ、君が為白涅巴君だよね。」
これからも彼、もとい涅巴がお世話になる先の主人、近藤恩三郎である。
「あっはい、そうです。」
涅巴は恩三郎につれられ車に乗った。
「ごめんね、涅巴君は運動が苦手なんだったね、この坂は秋峰坂といって近所では有名な坂なんだ」
涅巴は恩三郎の話しを聞き流しながら外を見ていた。
「…外が気になるかい?この秋峰にはなーんもなくてね、この先にある小さな神社とさっきの駅、それと街の中央にある塔くらいしかないんだ」
続けて恩三郎は話し続ける。
「都会っぽく見えるけど観光名所とかそうゆうのは少ないんだ、まぁお店とかは駅周りや塔の周りにあるけどね」
涅巴はぼーっとしながら話を聞き流し続けていた。
「あぁ、それと家には涅巴君と丁度同い年の娘がいてね、後で紹介するよ」
涅巴はまたもや聞き流して…いなかった。
「うおっ」
恩三郎はいきなり真横に現れた涅巴の顔に驚いた。
「女の子ですか?」
「え?あ、うんそうだけど…」
涅巴は続けて問いかけた。
「"本物"の女の子なんですね?」
恩三郎は先程とは打って変わって真面目な表情をしている涅巴に対して少し引き始めていたが、男らしい真剣な顔で話を聞き始めた…。
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「それは、まぁ…ご愁傷さま…」
涅巴は今朝の地獄について語った。
「というか、事故現場から逃げてきちゃったの?」
(まずいな…)
涅巴は恩三郎の訝しむ視線から逃れるべく、話を変え始めた。
「そういえば娘さんのことは聞きましたけど、他のご家族の方はいるんですか?」
恩三郎は申し訳無さそうにしながら語り始めた。
「そうだね…私の母、つまり娘にとってのおばあちゃんと、私の弟がいるね…」
涅巴は弟について追求しようとしたが恩三郎の言葉に遮られた。
「さぁ、そろそろ家につくよ。」
坂を越えた先、そこにあったのは…
これから住むことになる家、年季の入った民家だった。
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家の戸を開けて中に入る、すると戸ががらがらと音をだした。よく見るおじいちゃんの家といったところか。
待っていたかの様におばあちゃんと見られる方が立っていた。
「あぁおかえりなさい、君が涅巴君かい?長旅疲れただろう、さ、居間に入りな、お茶を出すよ。」
時刻は十時半、予定していた到着時刻より少し遅れた程度か。
涅巴はお茶をもらったらすぐに寝てしまおうかとでも考えていたのだが…
その考えをすぐに取りやめた。
自分が最も恐れる者、
この先に"ヤツ"がいる。
居間の中に入りたくない、絶対に。
絶対に嫌だ、ここに入るくらいなら外で寝る。
ここまで言えば感の悪いガキでもわかるだろう、
そう…この奥には…
ばんっ
戸がいきなり開いた、
いや、開かれたのだ。
「あらやだやっぱり♡今朝のオトコマエな坊やじゃない♡」
ヤツだ、あの"地獄の使者"だ
「アタシ、近藤ジュスティーヌっていうの♡これからよろしくね♡」
涅巴は希望とワクワクを失い、絶望と現実逃避を手に入れた。