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命の神  作者: oto
一部 一章 "三日月は昇る"
29/34

29 "考えて行動する、だが手は抜く"

 某オフィスビル 早朝


 「息子、我が息子よ、かの簒奪者の素性の素性は掴めたか?」


 男はグラスに赤く濁ったワインを注ぎ、優雅に椅子の背もたれに体重をかける。


 青年は聞かれた内容を淡々と話し出した。


 「は、封魔の遺跡において第三……いえ、炎の悪魔と契約し調査隊四十八人を惨殺した、南秋峰高校二年生で近藤恩三郎氏の家に居候している"為白涅巴"。」

 「父に"渡り人"の倣城成之氏を持つ、同じく南秋峰高校二年の"倣城友親"、そしてその妹の"倣城菫"。」


 「その三名がかの事件の加害者と判明しています。」


 男は頬杖をつき、青年を睨みつける。

 

 「これは一昨年の征伐の折、貴様が私情を挟み、彼を殺さなかった結果が招いた事件、ということになる。」

 「何か、異論はあるか?」


 青年は表情一つ変えず、己の父に否と答える。

 

 「では、己の不始末を取り消せ。やらなければならない事は、言わずとも分かるな?」


 男は青年に温情とも取れる、汚名返上の機会を与えた。

 だが、男と子供の頃から同じ時を過ごしてきた青年には分かる、それが次は無いという意味を込めた物であると。


 男は足を組み、話は終わったと表すかのようにして、目を瞑る。

 青年は頭を軽く下げ、男のいる部屋から退室した。



 青年は長い廊下を歩きながら、軽く手首を触り、呪文を唱え体中を流れる魔力を躍起させる。

 ──肉体を光の粒子に変換し、望む場所に転移する魔法。

 この街では魔法を使うことができない、その制約があたかも無かったかの様に青年は行使する。

 たが、身体の半身程が粒子化した瞬間、散り散りになろうとする粒子が元の形に戻り、やがて人の形に戻った。

 青年は無理矢理魔法の発動を止められた事に苛立ちを覚えながらも、その原因に向かって声をかける。


 「何故貴方が此処にいるのでしょうか、塔の守護を任されている筈では?」


 暗闇から、紫がかった髪色の単髪で大柄な男が姿を表す。

 顔面の全体を覆う悪趣味な仮面を着用し、衣服は和服の様で所々紫色の帯を使っている、耳には花の柄の描かれた銀色の耳飾りを付けていた。


 「その仕事は相方に任せた、叱られてしょぼくれてるお前が見てられなくってな。──激励ってやつに来てやったんだよ。」


 ただ、面白がりに来ただけだろうに、などと思いながらも口には出さない、彼との関係はできるだけ良好で有りたいのだ。

 ただ、青年のいる組織が彼の弱みに漬け込む形で彼を服従させているため、両者の間の壁が消える事は無いのだが。


 「つまり、我々を勝手に監視していたと?」


 仮面があっても分かる、彼は笑っている。してやったり、と。

 組織の長たる青年の父のいる部屋だ。かなりの魔術的、機械技術的な盗聴や盗撮等の対策を施していたはず。

 にも関わらずそれを簡単に破り、尚且つ痕跡を発見されずに隠蔽し切った彼の技術力には、思わず感心してしまう。


 これは技術班の人材の見直しが必要になるな…


 「……はぁ、用事は済んだのでしょう? ではさっさと持ち場に戻ってください。」


 青年はしっしと手を振るジェスチャーを使い、男を追い払う。

 だが、目を向けた先に、数秒前までいたはずの男の姿は無い。

 いつの間にか別の場所へと消えた様だ。


 「そう言うなよ、何なら手伝ってやっても良い。お前の事は案外気に入ってるんだ。」


 男はいつの間にか背後に回っており、青年の肩に手を置く。


 「代わりに、この街が消し飛ぶことになるがな。」


 冗談では無いのだろう、この男に任せれば一息の内に殺害対象を滅することが出来る、この街と共に、そう確信がある。

 

 「ただ"消す"事に特化した貴方に、そんなこと……」


 振り向くともう既に男は居なくなっていた。ただそこには肌を凍らせる程冷たい空気が残るのみ。


 「本当に気まぐれな人……いや、悪魔だ。」


 青年は呆れながらも先程使った魔法を再び行使し、姿を消した。

 残された粒子も人が知覚出来ない程に縮小し、光を失っていったのであった。






 「すやぁ………いでっ!」


 怠惰で堕落した睡眠を楽しんでいた時、長めの物差しで叩かれる。


 「なんで授業中にばかり寝るんかねぇ、君はもう少し真剣さを得るよう努力するといい。」


 飛び起きた涅巴に男の教師が説教をする。

 この馬面の男は、歴史教師の馬坂(うまさか)

 

 馬面と言う事以外大した特徴も無い五十代の子持ちだ。 


 「では、この問題を答えよ、日本神話からの出題です。天地開闢ではまず最初に造化三神、次に二人の神様、その後十二人の神様、が生まれました。」

 「では、その最後に生まれた十二人の神様は、他の五人の神様とは違ってあるものを持って生まれました。」

 「そのあるものとはなんでしょう。」


 突然課された今の歴史の授業内容とは全く関係無い問題に動揺したが、なんとなくこれかなって思った答えを答える。


 「あんぱん。」


 「違いますね、答えは性別です。先程なんとなく話したばかりの内容ですが、全く聞いていない事がわかりました。」

 「話をきけんやつの将来はきけんだぞ、なんつって、うひゃひゃひゃひひゴホッゴホッ……」


 この馬面、転入した時から思ってたが、くっそうぜぇな。


 「ちなみに私はこしあんよりつぶあんが好きです。」


 うん、やっぱり神、こんなわかるやつがこの学校にいるとは思わなかった。一生ついて行くぜ。






 ──放課後…


 駅の内部に設置されたショッピングモール、そこにて帰り際の学生たちが、友人や恋人と共に一時を過ごしていた。

 その中に紛れ一人、ドーナツを頬張るモノがいる。


 「涅巴…、ホントに大丈夫なのかな……」


 妃蝶だ。

 珍しくも涅巴が『一人で帰る』などと言い出し、久しぶりに一人だけで買い物に来ていた。


 登下校にて殆どの日を涅巴をおんぶして家に直ぐに帰っていた妃蝶にとっては、久しぶりの平日の自由な時間だ。

 しかし、時間があるからといって、何か特別する事がある訳でもなく、暇つぶしに好物の一つであるドーナツを食べていた。

 ちなみに砂糖であれど野菜であれど、甘味であれば大体好物である。

 

 「ふぅ……」


 三つあったドーナツを全て食し、腹を軽く撫でながら次の行き先を考える。

 高嶺の花等と敬遠され、遠巻きに見られる毎日、     

 自分の性格も外交的とは余り言えず、普段一人で過ごしてきた彼女にとって、涅巴が居候になってからの今の生活は、いつの間にか疎遠になっていた友親とも復縁したこともあり、少し賑やかで楽しいものとなっていた。


 ふと、聞き覚えのある笑い声が聞こえてくる。


 「……っ! あの人たちは……!」


 発見したのはガラの悪い高校生程度に見える男女数人の集団、まだ妃蝶の事は気付いていない様だ。


 「隠れないと……」


 辺りを見渡し、すぐ近くの花屋に駆け込む。

 入店するとすぐに背丈の高い植物の影に隠れた。


 葉の間から彼らを観察する。

 幸いにも彼らは此処に用があった訳でも無いらしく、出口の方向へと歩いて行った。

 軽く胸を撫で下ろし、すぐにとなりを見る。


 「これ……か? いや、白い花は駄目なんだったかな……」


 金髪に高い背丈の同じ高校の制服、友親だ、花屋の表に色鮮やかに飾り付けられた花々に顔を近づけ凝視している。普段の粗雑なイメージとはかけ離れた姿に目を細めた。


 「友親……?」


 「んあ? 妃蝶か、何やってんだ?」


 「私は暇つぶし、友親は?」


 妃蝶の問いに少し照れくさそうに答える。


 「オレは、そのなんだ、見舞いの花ってヤツを買いにきてな……」


 妃蝶は納得する。

 友親が趣味で花を見に来るなどということは少し想像出来ない、が、母への見舞いといえば話は別だ。

 昨日は菫の事もあり、見舞いの品などを持っていく余裕が無かった、だが今日であれば時間に余裕もある。


 「菫ちゃんは? 一緒には来てないの?」


 「あいつは今は家にいる、花を買ったら迎えに行って病院に行くつもりだ。」


 「そっか、菫ちゃんなら花好きだし、目利きができると思ったんだけどな……」


 微かに鼻腔に香る、いい匂いの花々が連立している。

 カーネーション等の桃色に近しい色が多い、時期的にもそういった草花は多く店頭に並ぶ傾向がある気がする。

 

 菫は昔から花によく興味を持っていた。

 四季折々の物から強い香り等の特徴を持つもの、聞いた事の無いマニアックな物までよく妃蝶に教えてくれたものだ。

 そんな事もあり、彼女もある程度は花の知識を持っており、好きな花については弁舌爽やかに語れる。

 

 関係ない話だが、妃蝶は花か団子と言われれば勿論団子を選ぶ。


 「ほら、ガーベラだよ。可愛いし、こういうのでも良いんじゃない?」


 「傾けると目玉みたいに見えるな。」


 「人が可愛いと言ったものになんてことを……」 


 友親が『悪い』と軽く謝り、また花を観察し始める。


 「やっぱキレーなやつは……バエルって言うんだっけ、そーゆうのには弱っちまうな。」


 そう言ってチラチラと妃蝶の方に視線を受ける。──目が合うと手を合わせて軽く頭を下げてきた。

 友親は妃蝶に見繕う、というより丸投げしてしまいたのだろう。

 

 「自分で選ばなきゃ駄目だよ? 他人より家族に選んで貰った物の方が嬉しいと思うし。」


 「やっぱりそうか……なら、自分の直感を信じっか。」


 そうして、友親は一輪の花に手を伸ばした。






 「そんでそんで居候No.2、こんな所にいきなり行きたいだなんて、どうしたんだ?」


 居候No.1は白髪の少女に頼まれとある場所に来ていた。


 「まあ確かに色々知るために協力するとは言ったけどよ、なんでわざわざ南秋峰商店街の俺のトラウマがある場所に来るんだよ。」


 数日前、友親に連れられて入ったクラブハウスの様な場所である。

 薬を盛られて誘拐されたかなり危険な場所…、ごろつき、又はヤンキーの溜まり場だ。


 「俺、ちゃんとこういう事があったって説明したくねぇ?」


 「でも約束だよ?」


 「そう言われたら何も言い返せないので黙って入ります。」

 

 以前とは違い豪勢な装飾が無くなっており、もう誰も利用していない様に見える。


 店畳んだのか?この短期間で?


 「…実は君から聞いた時から凄く気になってたんだ。涅巴を追い詰めた奴らの根城にね。」


 少女は家具などが撤収されまっさらとなった一室を歩き回る。

 今やヤンキー共の痕跡の一つも無くなった場所、こうなると少女の目当ての情報は一つも得られないのではと思ってしまう。


 「なぁ何も無いし帰ろーぜー、こんなところにいるとブルっちゃうよ。」


 「…結構隠蔽は下手だと思う。」


 そう言うと少女は腕に長く伸びた爪を刺し込み、漏れ出た血液を床に落とす。

 突然の自傷行為、それに驚きつつも涅巴はじっくりと観察する。

 床に染み込んだ血液は赤い光を発し、そして何事も無かったかの様に消え去った。


 「なんだそれ、魔法?」


 「…人追いの魔法ってところかな、数時間前まで人がいたみたいだから。」


 なるほど、ヤンキー…いや、あの病院にいた怪しげな連中達の居場所を突き止めるってことか?


 「復讐でもするのか?」


 少女は少し呆気にとられた様な表情をして、軽く笑顔を見せながら否定した。


 「復讐心…はよくわからないけど、あの人たちは私についてよく知ってるみたいだったし。」


 少女は自分に関しての殆どの記憶を失っている。

 出生から名前まで何も覚えていない、だから自分の知らないことを知っている彼らについてよく知りたいのだと思う。精確にはヤンキーではなく彼女を観察、もしくは監視していたあの集団について。


 「にしても臭いな、ここ。」


 この部屋に充満する匂い、つい先日まではこのような微細な変化を感じ取れなかったが、少女と契約する事で嗅覚が少し強化されたのかも知れない。

 

 涅巴は一拍を置いて話し出した。


 「血の匂いだ、奴らは全員殺されたかね。」


 と、憐れみの目で天井を見上げながら。

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