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命の神  作者: oto
一部 一章 "三日月は昇る"
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26 "口から出るのは叱責か、"

 「はぁ……言ったでしょ? 危ないから絶対に病院には近づくなって。」


 普段のおちゃらけた様子とは違い、腰に手をついて真剣にジュースが涅巴を叱責する。


 友親が母に連れ添って救急車に乗車した後、迎えにジュースが来てくれていた。なんでも涅巴の帰りが余りに遅く、街全体を車で探し回ってくれていたそうな。

 

 「何故そんな事に巻き込まれてるのに、相談してくれなかったの? 電話にも出てくれないし。」


 「相談したら俺の行動に対して反対するかなって。」


 「当たり前でしょう? 危険なことだもの、それに家族を傷つける様な真似するわけないわ。」


 これは、失敗したかな。


 「…とにかく、怪我はしてないのね?……ならいいわ。このことをくれぐれも忘れず、次に活かすことね。」


 「許すのか?」


 「二度はないわ。妃蝶も心配していたし、後で謝ること。 ………さて!用事も終わった事だし!家に帰るわよん♡ ご飯が待ってるわ♡」


 取りあえず、一旦は許してくれたということで良いのかな。でもまだケリをつけてないものがあるんだよな…


 「……」


 「あら?アナタはドナタかしら?」


 「私は……」

 

 白髪の少女は黙ったまま俯いてしまう。


 そうだ、まだこの少女のことが終わっていない。この少女がどういう存在なのか、魔力で動く召喚獣の様なものだとは推測できるが、それは以外には本人にも誰にもわからないのだ。


 「涅巴、また何かやったのかしら?」


 「あっと、この子は……ぇえと…」


 やれやれといった感じでジュースは少女に向き直る。


 「何があったかは知らないけど、帰る家が無いのなら家に来なさい。歓迎するわ♡」


 驚いた様子で硬直するが、ジュースが手を引いて車の後部座席に座らせる。


 「ほら、涅巴も早く乗りなさーい。」


 促され、涅巴も車に急ぐのであった。






 「へー、名前がないのかぁ、じゃあ、かわいい名前でも一緒に考えようか。」  


 と能天気に恩三郎は言い放った。


 うぉ、妃蝶の恩三郎に向ける鋭い目つきがとても怖い(かわいい)、やっぱ女同士だと思う所があるのかな。


 「何でも良いですよ。」


 涅巴たちが家に帰ってきてから数分後、あれから夕食を家族でとっていた。普段とは違い、今回は白髪の少女も合わせての食事となる。


 その前に、帰ってからすぐに妃蝶と恩三郎にお叱りを受けた。なんであそこに行ったと、なぜ連絡を寄越さなかったと、色々聞かれた様だ。


 涅巴はできるだけ話せる事を話した。友親の母や妹が拐われたことやそこでこの白髪の少女と出会ったことなどを。

 ただ、話せていないこともある。あそこだけ何故か魔法が使えたこと、黒い服の集団に襲われたこと、そして、人を殺めてしまったこと。


 白髪の少女はただ黙って頷いているだけだった。あくまで説明は涅巴に任せるといった様な感じで、自分が話せば不都合があると、涅巴の隠す様な話し方から察していたのだろう。


 「何でも良いって……」

 

 妃蝶が困った様に目を細める。

 白髪の少女はあまり食事に手を伸ばしていない。やはり、彼女は人間と根本的な何かが違うのかもしれない。


 今日の夕飯美味いのになぁ、俺の好きな餅だし。


 のほほんとテレビを観ていた恩三郎は不意に白髪の少女に顔を向ける。


 「そこで"何でも良い"は良くないね、自我の損失は君の今後に大きな影響を与えるだろう。己の道を持っていないと他者の道に流されてしまうよ。」


 それを聴いた白髪の少女は深く考え込む、恩三郎はニコニコとしながら言った。


 「なにも自分一人で考える必要はないよ。妃蝶でも涅巴君でもいい、勿論私もね。取りあえず皆で考えてみると良い、自分なりの名前が見つかるといいね。」


 「それじゃあアタシも一緒に考えるわ♡ 人は多い方が良いものね♡」

 

 「……ジュース、間違っても変な名前教えないでよね。変に西洋風にするとか…」


 「やっぱり可愛い感じがいいのかしら? でも凛々しく大人っぽくも良いわね♡」


 コイツはぐらかしたな……今更だが絶対に『ジュスティーヌ』って偽名だよな? ホントの名前って……


 ……てかお婆ぜんぜん話さねぇな。


 フゴッフゴッ


 変な音が聞こえて、ふと隣を凝視する。


 「なぁ、今日の晩飯ってなんだ?」


 「…?、変なことを聞くね、ご飯に味噌汁、焼き魚に煮物に"餅"の……」


 「フゴッ、フゴッ、フゴォ゙…」


 お婆ぁが白目むいてるぅ…


 「お婆ぁぁぁ!!、吐け!!吐けぇ!!!!」


 食い物とは人に幸を、生きる活力を作る。だが、時に人を殺め、人を悲しませる原因となるのだ。

 ここに、お婆への哀悼の意を記す。


 まぁ、普通に吐いたから生きてるんだけどよ。






 「……」

  

 「……」


 両者、同じ部屋にて無言。


 「どうすんだよこれぇ……」


 涅巴は白髪の少女とこれから"同じ部屋"で生活するという、如何にも女と縁のない男共が喜びそうな状態に出くわしていた。

 というのも、時は数十分前に遡る。

 

 「貴女の寝る場所はどうするの?」


 そう、妃蝶が切り出した。

 少女の寝所をどこにするか、普通なら空き部屋を貸すことが妥当だが、生憎この家の空き部屋といえば"恩三郎の趣味"である呪い、心霊、曰く付きの骨董品の置き部屋となる。

 そんな所には住みたく無いだろうし、住ませたくも無い。

 次にリビング、居間を使ってもらうというもの。

 これが最適解だと思ったのだが、


 「じゃあアタシと同じね♡ ラヴェンツァちゃん、よろしくね♡」


 「却下、そして勝手に名前をつけるな……おっさん、さてはフランケンシュタイン好きだな?」


 まぁおっさんと一緒は嫌だろう、嫌だ、俺が嫌だ。


 恩三郎が顎に手を当てながら話す。


 「ふむ……私の私物置き部屋が駄目なら、ここは間をとって妃蝶の部屋はどうだろう?」


 「なんでジュースと呪いの間を取ったら私の部屋になるの……?」


 いささか不満そうに問う妃蝶を横目に、涅巴は事が終わったと思い、手を床についた。


 「ごめん、でもやっぱちょっと嫌かも……」


 そう、妃蝶は呟く様に言った。

 何故…と言う前にその理由を理解し、出かかった言葉を飲み込んだ。


 「じゃあ俺の部屋にこいよ。」


 皆が驚いたように涅巴を見る。


 「君もそれでいいか?」


 「うん…良いよ。私もそうしたい。」


 そう言って涅巴は自分の部屋、隣のマンションへと連れ込んだ。




 「あぁ、気まずぅ」 


 勢いに任せて少女を招いたは良いものの、やはり年頃の男の子なので少し緊張する。

 

 取りあえずもらって来た布団をベッドの隣に敷き、寝転がる。

 

 「もー寝な、俺こっちで寝る。」


 「いいの?、この足つきの布団の方が寝やすいと思うよ。」


 ベッドのことを"足つきの布団"というあたり、知識の幅に差があるのかね…


 「レディファだよレディファ。」


 言葉の意味を理解出来ていないのか、首をかしげている。

 起き上がり電気を消してまた布団の中に転がり込んだ。


「んじゃおやすみー」


 そう言って目を瞑る。だがすぐに眠りに入れる訳でも無く、今日のあった事を思い返していた。


 友親のお母さん生きてるのかな。

 別れてから何も連絡が無いから、どうしても気になってしまう。


 今日はなんだか色々あった、もう殆ど使う機会など無いと思っていた魔法を使うことになったし、それを使って人を殺めたりもした。

 向こうから先に襲って来たんだ、だけど世間は決して俺の味方はしないだろう。だって殺す必要の無い人を散々痛めつけて殺したんだ、当たり前だ。


 そしたら俺がお縄に付く日も割と近いかもしれない。


 罪悪感からか、それとも他の要因かは分からないけど、吐いてしまった。いや、"吐いただけ"なんだ。普通の人ならもっと自分を責めているのかもしれない……けど俺はもう罪悪感もそれほど感じなくなった。時間が少しだけ、それを溶かしてくれたのかもしれない。


 この女はどう思っているんだろう。俺よりも、素早く倍の量人を殺してみせた。

 少しくらい罪悪感を感じているのかな。


 ベッドの位置が高くて姿が見えない、もう寝てしまったかな。


 だが起き上がる気も少しもない。

 


 この女と交わした"契約"とやら、今にして思えば何も聞いていない気がする。明日、聞いてみよう。もしかしたら、他の素性も見えてくるかもしれないし。

 



 そして、明日は友親にも会おう、どうせ明日は学校だ。何か手伝えることが有れば聞いてあげよう。





 そして…そして……



















 「……っおぐぅ…!!」


 空から落ちてきたのは一人の女、寝相が悪く、運悪く、拳が涅巴の股に落ちる。


 「お……ぐ……いぃ………」


 これは誰かの怨念が生み出した不吉か、もしくはただただ寝相のせいか…


 あれの割れる音と共に、口から湧き出た白い泡も音をたてずに割れるのであった。

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