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命の神  作者: oto
一部 一章 "三日月は昇る"
25/35

25 "情はさておき何だろう"

 「はぁ……はぁ……。」


 首元に剣を当てられ身動が出来ない状態になった。両脚は切断され、召喚獣の維持のために魔力を消費しきったこの状態では逃げる事も反抗することもできない。


 「話せ、君たちは何者だ。」


 そう白髪の少女は問う。だが自分にそれを話すような気力はない。

 故に無言。答えたところで自身の最期は目に見えているし、答えなくとも同じだ。


 「しょうがないな、答えないなら放っておこうぜ。」


 裸の青年が面倒そうに耳をほじる。その態度に彼女は苛立ちを覚えた。

 自分らの同胞を焼き殺しておいてその態度はなんだと、『放っておこう』それは彼なりの温情なのかもしれないが、この場において、彼女からしてみればその情は同胞への侮辱となる。

 そして最も苛つく事は、少しでも生き残れる可能性に対して心躍ったことだ。


 「く……いい……、」


 歯ぎしりをして俯き、怒りを堪える。

 彼らへの、自分自身への怒りをぐっと堪える。


 「なに、これは情じゃないよ。」


 青年は言う。


 「これは俺なりの復讐だ。友達を傷つけられた事に対しての復讐だ。俺に傷を負わせたことへの復讐だ。」

 「お前らの仲間を殺したところじゃあ収まらない、だから生きているお前を生き地獄に落す事に決めたんだ。……自分だけ生き残ってしまったという事を一生自責し続ける地獄に。」


 青年が少女に何やら耳打ちすると、少女は肩をすくめながら剣をしまい、指先から血を彼女の足に垂らす。

 すると、切断口が閉じ、肉が見えなくなった。


 「んじゃ、軽くココ調べたら友親の親探しを再開しようか。」


 青年はこちらに背を向け、離れていく。


 「君は、優し過ぎるよ…。」


 彼女はそう、零してしまった。






 「さぁて、コレなんなんだろうな。」


 「オレに聞かれても解らねぇよ。」


 涅巴たちは白髪の少女が捕まっていた台座のすぐ後ろ、後付された形で設置されている小さめの街灯のような物を観察していた。


 "街頭"といってもお粗末明かりで光源には宝石のような紫色の結晶が使われている。ただこの殺伐とした場所には似合わない異色な雰囲気を漂わせている。


 「コイツ魔力が籠もってるな、というより完全に魔法具だ。」


 魔法具、それは物体そのものに魔法を埋め込んだ道具。通常であれば殆どの場合詠唱を必要する魔法を、その魔法具を動かそうとする"所持者の意思"だけで自由に操ることが出来る物だ。

 魔法具は単独で魔力を生成することが出来る核を持っているため、人間以外で魔力を生成できる唯一の存在といえる。


 「魔法具……んで、この魔法具は何ができるんだよ。」


 「魔法具ってのはな、魔力を貯める事は出来ない。何故なら"魔法具は魔法を常時発動している"からなんだ。」


 「聞いてねぇし……」


 生産した魔力をその場で止め処なく使い続けているため、魔力が貯蔵されることは絶対にない。そして魔法具はその効力を所持者にも及ぼすため、所持者に害をもたらす危険な物も一部存在する。 

 

 「そして、コイツに何をする力があるか……正直言って何もわからん。

 だから、壊して何が起きなくなったかを調べるだけだ!」


 「おお、ぶっ壊すのは得意だ!任せとけ!!」


 白髪の少女が二人を止めに入る。


 「…何が起こるのか解らないのに壊すことは辞めておいたほうがいい、せめてもう少し調べてから…」


 「おらぁぁっ!!!」


 聞く耳持たずに魔法具を蹴り飛ばす、友親の蹴りは見事に魔法具を倒壊させ、中の結晶が床にぶち当たると同時に罅が入り粉々に砕ける。


 「あがりぃ!……なにか変わったか?」


 「わからな……あ?、消えちゃったな。」


 「なにが……あ。魔力が……」


 先程までゆらゆらと空気中を漂っていた魔力が忽然と姿を消したのだ。


 「つまり、コイツはこの病院周りに魔力を生み出してたってことか?」


 「まぁ、そういうことだろうな。でも……」


 涅巴は白髪の少女を見る。


 「コイツには魔力が吸われてる気がするんだよな。」


 




 涅巴たちが病院から出てくる。辺りはもう真っ暗で、月明かりだけが頼りだ。


 涅巴は上下共に服が完全に全焼したため、病院にあったまだ使えそうなシーツを身体に巻いている。


 「んで、君誰?」


 「それはオレも思ってた。誰だよお前。」


 「知らない。」


 二人の問いかけに少女が率直に応える。涅巴は頭を抱え、友親は涅巴が何も知らなかった事に少し驚いていた。


 「……取りあえず便所ないかな。」


 「流石に森の中にはねーだろ。」


 「だよな……ちょっと尿意が危ないので木の陰で……」


 と言って、涅巴は森の中に入っていった。


 


 「おっ…、おぇ…!うう…!」 


 涅巴は皆にバレないように木陰で吐いていた。

 そりゃそうだ。だって先程まで人を殺して回っていたのだもの、肉の焼き焦げた嫌な匂いと人を切りつけた感触が脳裏に刻まれてしまっていた。


 「やってる最中はあんなに楽しかったのに。」


 まだ身体の節々が痛む、自分の肉が弾け飛んだ感覚も残っている。


 「いい加減戻らないと。」


 涅巴は来た道を戻っていった。




 「うわぁぁぁん!!!」


 子供の泣き声が響く。涅巴が戻ると、友親の妹の菫が大声で泣き叫んていた。


 「おお、よしよし、遅れてごめんな」


 「うう……お兄ちゃん……ここどこ?」


 「大丈夫だよ、すぐに家に帰るから。」


 そう兄に言われて安心したのか、涙を拭い泣き止んだ。


 「なぁ、菫ちゃん。何が起きたか話せるかな、お兄さんに教えてほしいな。」


 涅巴がそう優しく問いかけると、きょとんとした顔で涅巴をみる。


 「あぁ、俺の名前は涅巴っていうんだ。お兄ちゃんの友達だよ。」


 それを聴いた菫はパアっと顔を明るくして友親をみて言う。


 「お兄ちゃん友達出来たんだね!おめでとう!」


 「ちょい、その言い方はオレの心にくるな。」


 続けて真剣な顔になって語りだす。


 「あのね、お家でテレビ見てたらね、知らないおじさんたちが入ってきてお母さんと喧嘩しだしたの。」


 あのチンピラ共か………


 「それでやめてーって言ったんだけど、お母さん止まらなくてね、おじさんたちの何人かが、寝始めちゃってね、」


 うんうん、……うん?


 「何人か逃げちゃったの。」


 ああ…、気性の荒さは親子伝来か。


 「でもね、おっきなおじさんがね、お兄ちゃんの持ってるみたいな野球のバットを振り回してね、」


 「それで?」


 「後は他のおじさんに捕まっちゃってお外に出たからわかんない。」


 「よし、ありがとうな菫、取りあえずオレの家に行くぞ。……多分お袋はまだそこにいる。」


 涅巴たちは最悪の場合を想定しながら急いで倣城宅に向かうのであった。






 「はあ、はぁ、はぁ…!!」


 ああくっそ、運動不足の体には長い階段は堪える……。


 涅巴たちは友親の住む部屋のあるマンションを駆け上がっていた。


 「こっちだ!!」


 友親に導かれるままについて行く、途中で完全にバテた涅巴は少女に担いでもらっていた。


 「…お袋!!!」


 友親が勢いよく扉を開けて土足のまま部屋の中へと入り込む。


 「お袋!!おい!!返事しろ!!!」


 友親が床に倒れていた母親とみられる女を勢いよく揺らす。

 

 「お母さん!!起きてよ!!」


 菫も加わり泣きながら揺らすと、母親が目を開け二人に優しい笑顔をむける。

 だが明らかに虚ろな目で辛そうだ。


 「あぁ、二人共、おかえりなさい。」


 「やばいな、救急車はここに来る間に呼んだからな!」


 「ありがとう……、お袋、もう少しだけ待ってろ、すぐに助けが来るからな。」


 身体は傷だらけで青く腫れている、これじゃあ骨も折れているかもしれない。


 「……!おい、女!あの女みたいにコイツの傷治せるか?」


 「……やってみるけど期待しないで、第三者の傷は治せる所が限られてるから。」


 そう言うと両手を母親の身体に置き、魔法を発動する。すると、浅い切り傷や打撲傷から順に少しづつ回復していく。

 

 「くっ……い……。」


 ただ痛みが無くなる訳ではないのか、 苦悶の声をもらす。


 「うぉぉ……」


 そして魔力が急速に奪われる感覚。


 あの魔法具が無くなった今、何故俺とこの女だけ魔法が使えるのかは解らない、だが今となっては好都合だ。使えるもんは使った方が良い。


 救急車のサイレンの音が聞こえてくる。その音に友親は安堵の表情を見せ、母を涅巴に託して外へと救急隊員を呼びに向かった。


 涅巴は未だ辛そうな母と、マンションの一室を見渡し呟いた。


 「この力、もっと前に使えたらな……」


 そう、後悔しながら。






 「それと……服、借りてっていい?」

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