24 "丸焼き"
「う……あ………?」
発砲音の後、先程まで可愛らしく笑っていた少女がうつ伏せに倒れる。少女の胸からどくどくと血が流れ出て、体を中心に血溜まりができた。
「……っ!!!」
放心している暇もなく、とっさに体を捻り二度目の発砲音と共に発射された銃弾を避けようとする。
だが胴体への着弾は避けられたものの、右腕に着弾してしまい、その場に倒れ込む。
「友親!こっちに来い!!」
自身の皮膚より血を作成し左腕を通して、狙撃手のいるとおもわれる方向に血の壁を作り出す。
立て続けに三度目の発砲、これは血の壁により着弾は食い止められた。
「何がおきてやがる!?もうお袋以外には誰もいないはずじゃなかったのか!?」
「多分、あの女が言っていたのはこの狙撃手のことだったんだ。たぶんもうここには友親の母親はいない!」
「くっそ……、!?涅巴!上だ!!」
友親の声の通りに上を向くと巨大な影が一つ見える、とっさの判断で右手から上向きの二つ目の血の壁を作り出し、防御の体制をとる。
「ぐぉぉ……!!」
何かが上から落下し、二人を押し潰そうとその巨体を大きく揺らす。だが銃弾により潰れた腕では力が入らず長く持ちそうにはない。
何かを決心したような表情を浮かべた友親が、焼死した人間に向かって走り出し、落ちていた銃を拾い上げ射撃の構えをとる。構えといってもお粗末なもので、銃床すら当てずに力ずくで引き金を引く。
「コイツで死ね!化け物!!」
銃弾が射出される。結果銃は暴発し、殆どの銃弾が明後日の方向に放たれる。いくつかの銃弾は化け物に着弾するが伸びた体毛によって弾かれた。
「コイツ……さっきの……!!」
この新しく召喚された召喚獣は、さっき現れた召喚獣よりも大きい体格となった同種だ。
動作は同じであろうが、大きい分力強くなっているだろう。
『雋エ讒倥i縺ォ騾?£繧玖。薙?譛?譌ゥ縺ェ縺?キア繧峨?螟ア謨励r蠕梧t縺礼・槭→繧?i縺ォ縺ァ繧よ?謔斐☆繧九′濶ッ縺』
けたたましい怒号を上げた召喚獣は体を横に回転させ血の壁の上から移動し、体毛を振り回しながら友親のいる方向へと転がり込む。
「止まれ!!!」
両腕から展開された血の壁を硬化を解き、腕に解いた血を収束させ、召喚獣に向けて紐状に変化させて射出する。
射出された血の紐を、召喚獣に着弾する瞬間に先端だけ硬化を解除し泥状にして吸着させた。
召喚獣と腕を連結させありったけの力で引っ張る、だが召喚獣は少し硬直した後その巨体を大きく震わせ再び友親へと転がり込んだ。
「止まれって、言ってんだろうが……!!」
全身の筋肉に対し、魔力を通して強制的に肉体の体温を急激に上昇させ、筋組織を燃焼しながら肉体より燃え上がり始めた赤黒い炎の火力を爆発的に上げる。
涅巴から血の紐を伝い召喚獣の身体へと燃え移った炎は、召喚獣の体毛を燃やし、そこから漏れ出た黒煙により視覚や嗅覚の機能を低下させる。
やがて進行が止まりその場で召喚獣が悶え始めた。
「……!、今のうちに……!」
大きく出来た隙により友親がその場から距離を取ることに成功する。だが人体の耐えられる熱量を越し筋組織を大きく損傷した場合どうなるか。
「がぁ、……ぎ、」
皮膚がただれ、頭髪が溶け、身体の大部分が焼き切れた醜い姿、ただただ己の肉体に迸る激痛に苦しみ、与えられた力により止め処なく肉体が元に戻ろうと再生し続ける痛み、そういったものが涅巴を襲い続ける。
「う…う…ぁあ。」
死への恐怖と生を捨てて痛みから逃れたいという死への憧れが交差する。どの道、意思がどれだけ死を切望しようと、肉体がそれを否定し生を選ぶのだからこの思考の意味はない。
それを理解し涅巴はいずれ解決する目先の事柄から目を背き、一旦狙撃手の位置の特定を優先するという合理的な判断を下した。
あの化け物は炎で少しの間動かないだろ。ならばこの機会に狙撃手を見つけ出さないといけないな。
聴覚は鼓膜が焼け落ちて使い物にならない、となれば優先的に回復した右目、あと触覚、それだけで探さないといけないな……。
まぶたの無くなった右目をギロリと動かす、すると激痛と共に視覚の大部分が遮断される。
これ、は、なんだ、見え、ない、何が、あぁ、そうか、頭を撃たれたのか、視覚がいきなり暗転したから驚いたな。だがこれで射撃された方向はわかったぞ、たぶん壁にある空中廊下みたいなところから射撃してやがる。
身体の再生が中断され、脳が最優先として再生される。その後右目が再び再生され視覚が回復した。
よし、このまま狙撃手をぶっ倒しに……、あれ、この身体じゃあろくに動けなくね。
失態、このままでは涅巴は定期的に銃弾を撃ち込まれ行動できず、やがて召喚獣を涅巴の魔力を使って燃やしている炎は、魔力が底をつくと共に消えて、友親が妹と共に抵抗虚しく殺される。涅巴は全て終わった後に焼却炉にでも入れられて一生燃やされ続ける生き地獄だ。
終わってるじゃん。……てか今更だけど友親妹を抱えたまま銃撃ってたよな、鬼畜か?
その前になんで妹は至近距離で銃声を聴いておいて微動だにせずにスヤスヤと寝てるんだ、肝っ玉すぎるな。
そんなことを考えていると、銃声共に涅巴の胸部に激痛が走る。
今度は心臓部を銃撃された様だ。しかも先程とは違う方向から、狙撃手はずっと移動し続け、確実に急所を狙える時だけを狙って撃ち込んでくる。
あぁ、いってぇな、凄く痛い。なんでそんな遠距離から動けない相手の急所を狙って狙撃してくるんだ、卑怯だろ。こんなやつら遠くから攻撃出来る銃があれば……、あれば、あるじゃん、銃じゃないけど。
喉と肺を集中して再生する。
再生した喉と肺はそれを紡ぐための大切な道となる。
脳で形を練り、最善となるよう思考し続け修正する。
喉と肺は発動する要因となる詠唱を。
脳と思考は設計図を。
最後に、周囲から魔を吸い込み、魔力を、魂より魔力をつくる。
『炎よ、雷よ、焔雷よ、』
最後の最後で、散々頭を回して考え出した設計図を面倒だと放棄する。
『なんかもうめんどくせぇ、燃やせ』
作られた魔法は壁沿いに炎と爆発と雷を発生させる。
この広場は白髪の少女が捕まっていた場所を中心として円形のドーム状に広がっている。そして涅巴が前述した通り、壁面には道が取り付けられており、そこを重点的に攻撃したのだ。
『邨ゅo縺」縺溘d縺」縺溷ャ峨@縺!!!』
召喚獣の動きを止めるために送っていた魔力の矛先を狙撃手への攻撃に変えたため、召喚獣が鬱憤を晴らすように暴れ始める。
姿の見えなくなった友親から標的を変え、満身創痍の涅巴に突進した。
「……っ!!もう起きてるんだろ、いい加減手伝え!!」
怒号を上げたと同時に、魔力が滝の様に流れ出す感覚が襲う。その放出された魔力は、やがて心臓を穿たれた少女の一点に向けて集約した。
沈黙を貫いていた少女の身体に火が灯る。
穿たれた心臓は音を鳴らし、
閉ざされた眼には赤い光が輝いていた。
『……噛喰らい』
炎の柱が空を昇り、肉を喰らうため少女が猛進する。
赤き二股の剣は猛獣の顎の如く上下に開き、召喚獣の体毛を貫き噛みつく。
顎が噛み千切らんと閉まると、刀身より爆炎を放ち肉を焼き焦がした。
『縺後=繧?a縺√=縺ッッ!!!!』
血肉を引き剥がしそれを剣が吸収する。
血肉が剣を通して身体に行き渡ると、少女は思わず笑みをこぼす。顔が火照り、上がった口角が下がらない様だ。
ニヤけながらも飛ばされて来た弾丸を叩き落とすと、数十m先にライフルを持った女を視認した。
笑みを抑え女に向かって突進する。
向かってくると理解した女は重いライフルを捨て逃げようとするが、白髪の少女は炎の塊を射出し、逃げ道を捨てる。
「クソ……この悪魔ッ!!!」
懐より拳銃を出して少女を射撃する。対して少女は身体の体勢を床のすれすれまで低くし回避するという荒業でこれを解決した。
「……っあ…」
腹に足がめり込む、そして身体を壁に打突かれ、頭を殴打する。
意識の剥離が始まり五感が遠のいていく。
だが意識の遠のいていく速さよりも痛みの伝導する速さの方が速かったようだ。
「…うぐっあぁああぃぃいいい!!!」
両脚が太腿から横に切断された。
出血はほぼしていない、何故なら切り口が炎によって焼かれていたからだ。
「痛い!痛い!いたいぃ!!」
女は無くなった足をばたばたと振るいながら惨めにも泣き叫ぶ。
どうやら魔法使いのようで足に痛み止めの魔法をかけているようだ。
「うっ…!うぅっ…!!」
唸り声を上げるだけでまともに動けなくなった女を背にして、主を傷つけられた事に気づいて少女に対して突進してくる召喚獣と対峙する。
「……消えて。」
『…若雷』
差し出した右手から涅巴の炎とは比べ物にならないほどの出力の炎が放出される。
『』
声がかき消される程の熱量、周囲の水分を蒸発させ、地面を液状にするまでの高温が召喚獣を溶かし続けた。
やがて少女は放出をやめ、涅巴に向かって歩き出す。
最早焼死体と何ら変わらない姿の涅巴を見て声をかけた。
「……おわったよ? 起きてよ。」
涅巴の反応は無い。完全に死んでいる。
「おぶぇっ」
少女が涅巴を蹴った。
生きていたようで、たぶん気絶、もしくは寝ていたと見て取れる。
「いきなり蹴るなよ…優しく起こして……」
涅巴の露出した筋肉に皮膚が付いて、無くなった眼球や頭髪が生えてくる。
だが流石に焼けた衣服は戻せないようで、下着から何まで何も無い、つまり全裸だ。
友親が歩いてこちらに向かってくる。あいも変わらず寝続けている妹を抱えているようだ。
「終わった……のか?」
「もう君たち以外に人も生物もいないよ。」
少女が端的に答えた事をみて、友親が尋ねる。
「なんでそんなことを分かるんだよ……」
「勘だね。」
えぇ、と引きつつ目を逸らし、少女に自分の羽織っていた服を渡し、着るように促す。
「取りあえず二人共服を着ろよ…… 涅巴はともかく君は目のやり場に困る。」
二人共炎を使い戦っていたのだ。涅巴は全裸だが、少女は炎の使い方が上手いのか、上半身が露出するに留まっている。
「え、俺は?」
「ねぇよ。」
「ひでー仕打ちだ。」
涅巴は少しの間全裸でいることを強いられるのであった。




