22 "赤き力"
どんっと、体が押される感覚、すぐには理解出来なかった。
知らない少女がいた。白い髪で、体の裂けていて、痛々しい、臓器も露出していた。
それがいきなり見えなくなって、体が倒れて、変わりに新しいモノが見えていた。
こんな卑怯で腐っていた自分の事を友逹と言ってくれた男、
体力がなくて、だらだらしてて、でもたまに頼もしい友達、
その友達が見えていた。
首の切傷から血を流して倒れている友達が。
「……は?」
「ああ、二人まとめて首を落とすつもりだったのに、良い友達をもったねぇ。」
涅巴が首を抑え苦しそうな声を漏らしている。首の皮から五cm程度の深さの切り傷がつけられていた。
見れば腕や足の関節部分からも血を流している。
ケラケラと高笑いする男は大剣を振りまわし、刀身についた血液を吹き飛ばした。
その笑い声を聞いて、なんとなく察した。この男は嘘をついていると、初めから首を落とす気などなく、どちらか片方を行動不能に陥らせることに集中していると。
だって二人まとめて殺すつもりなら、わざわざ涅巴の関節を切る必要はないし、何より涅巴よりも男の近くにいたオレが何も受けていないのは、涅巴に助けて貰ったことを加味してもおかしい。
いや、そんな深く考えずともわかる、こいつの様子を見れば、その考えに落ち着く。
「お前、楽しんでるのか……?」
男は高らかに笑いながらこう告げた。
「当たり前だろ?人を傷つけるのは楽しいし、人を殺すのも楽しい。お前の事をずっと見てたけどよぉ、お前もだろ。」
紫の刃の切先を友親に向け、その狂気的な笑みを顕にした。
「笑ってたよな、召喚獣を岩で押さえつけた時。ニヤついてただろ、そのガキを押さえつけてた奴らを蹴り飛ばした時!!」
──言い返せなかった。
過去を振り返る、先刻の河川敷での争い、召喚獣とやらとの遭遇……、もっと昔、あの"思い出したくもない昔の記憶"……
言い返すことなどできなかった。
自分は心の底より争い事を楽しんでいる。対等な決闘などではない、一方的な暴力、蹂躙、これの方が性に合う。
オレは、どこまでも悪人で、
「オレは……オレは……!!」
「お前やっぱ俺と似てるよ、殺人の素質がある。」
オレはやっぱり……
男は動揺しのたうち回る友親に近づいてこう言った。
「お前は、正真正銘のクズだ。」
──そうだ、オレはこいつと同じ、人の幸福を握り潰し、否定し、踏みつけ、そこでやっと自分の幸福と快感を得るどうしようもない人間、
「違う!!!」
大きな芯の通った腹からでた良い声を誰かが発した。
見れば体中を切り刻まれたはずの涅巴が立っていた。
「俺がそれを否定する!!」
暑い…首が暑い、足が暑い、腕が暑い、全身の関節部分が暑い。
さっきまで自由に動かせていた四肢や顔が身体中が全く動かない。
寒い、身体中全身が寒い。
ぐらぐらしてくらくらする、考えがまとまらない。
明確に近づいてくる死とそれに対する恐怖が湧き上がってくる。
このままでは死ぬ、自分だけじゃなく友親も、その妹も、母親も死ぬ。それだけは友達として絶対に避けたい。
どうすれば良い?わからない、わからない。
…
魔法で少しでも時間を作るか?でもそれだけじゃ足りない。
ねぇ
もっと良い打開策がいる。
『ねぇ。』
なんだ、お前は。
『せっかく呼び声に応えて来てくれたんだ。手を貸すよ。』
手を貸すだと?お前は誰だ。
『…私は君とさっき合っているよ。』
わからない。
『…とにかく、私の力、欲しい?欲しくない?』
この状況をなんとかできるなら、
皆を助けてくれるなら、
俺は君の力を欲するよ。
『…良く言った、これはいうなれば契約、君の命と力を頂戴、変わりに私の命と力をあげる。』
『…この契約は君が死ぬまで続く、いわば一生私に喰われ続けるということ、その覚悟君にある?』
あるさ、俺は今を生きている、その後なんてどうでもいい。
『…さぁ、私を呼ぶといい、私という力、使いこなせよ。』
「俺がそれを否定する!!」
なぜ、こいつは声をだせる?
声帯を完全に切除したはずだ。
なぜ、こいつは動くことができている?
全身の関節を切り崩したはずだ。
「なんたって友親!お前は!」
なぜ、こいつは……
「超絶ドクズだからだ!!」
「……え」
予想外の言葉に友親は驚いているようだ。
「だってそうだろ、俺の足を悲鳴が上がるほど酷使した挙げ句、吐き気を催しやがって、しかも『女だったら良かった』なんて捨て台詞吐きやがった!」
「あと人を傷つけて楽しくなるのは皆同じだ! 人間みんな正真正銘の超絶ドクズだ! 俺だってそうだ!!」
「だけどドクズなことを容認するわけじゃねぇ、そいつにとっては正義でも、俺からしたら悪だし俺こそが正義だ。」
「だから俺は俺なりの正義をここでやってやる。ドクズで終わりたくないなら付いてこい。」
涅巴は己の胸に手を置き、"契約"を始めた。
「……!?、やめろぉ!!」
男が涅巴を止めようとするが、涅巴を中心に生まれた魔力の渦に押し返される。
すでに契約は始まっていたのだ、これを覆すことなどできない。
『来たれよ、来たれよ、第三の□よ』
『赤き力をもって、我を下せ』
『赤き力をもって、我に隷属せよ』
『我が運命を穿ち、覆す新たな理』
『崩された道を新創する逆転の一手』
『それら万象を担う頭領となれ』
『汝の剣を我に、我の剣を汝に』
『我らが剣を盾とする』
『汝、大海に映る星なれども』
『偽りが真を超え行くことを約束する』
『我が声に応え来たれよ、命の体現者よ』
詠唱が終わった瞬間、涅巴から魔力が爆散する。
単なる魔力ではない、赤い光を纏った特殊なものだ。
そして、死体のようになっていた白髪の少女の身体を炎、炎にしては赤黒い血のような炎が包み込む。
「これがお上さん方が危惧していた力……想像以上だな……」
やがて炎は消えて、五体満足の完全回復したと見れる姿へと変わっていた。
涅巴が少女に問いかける。
「へぇ、これが力ってやつか、あんま実感わかないな、いけるのか?」
少女が涅巴の隣まで歩いてきた。先程の炎のように赤黒い目をしている。
「……うん、君が勝つ気であるなら絶対に勝てる。」
「ほんとよくわかんねぇやつだな。まぁいいや……やろうか。」
涅巴が体に力を込めると、それに呼応したかのように皮膚から血のような何かが滲み出始める。その血は、やがて手足だけを包み込むように硬化し鎧のような形となった。
「おい…、涅巴、大丈夫なのか?怪我は…」
「多分大丈夫だ、取りあえず休んどけ。」
ぞろぞろと黒い衣服の人間たちが銃器をもって集まり始めた。確実に涅巴達を殺す気らしい。
先程のリーダー格と思われる女が指揮をとるように話し始めた。
「力に覚醒したようだが、相手はまだ覚醒したてだ。全力で殺せ。」
女の合図により一斉射撃が開始する。
すると少女が前に瞬時に出てきて炎を涅巴と友親を包み込むように展開し、全ての銃弾を焼却した。
焼却後、少女の行動が始まった。胸に手を置き、なにかを胸から引っ張り出す。
「剣…?」
胸部から抜き出されたのは二股の赤黒く光る剣、二股といっても、そこから再び木の枝のように枝分かれしているようだ。形状からして戦闘に使う物とは思えない。
少女はその剣を両手で持ち、何やら力を込めたようにすると、その剣が二つに割れて双剣となった。
「落ち着け、ただ割れただけだ、何も恐れることは……っ!!」
少女がその場から消える、そして次の瞬間には、
「つ……、あ?」
女の首が床に落ちていた。
他の人間がそれを視認し、即座にその場から離れるも、もう遅い。人間達の足元から炎が燃え盛った。
「ァァァあついイタイいたぁ…」
肉の焦げる匂いと悶え苦しむ人々の声がその場を支配する。
ほんの数秒であれだけいた人間の殆どが死滅した。
次に涅巴が動いた。まず先程切り裂いてきた男に対して勢いよく突進し、拳をねじ込む。
男は背に背負っていた紫色の大剣を手に取り、盾のようにして応戦した。
「いやぁすげえな、ありゃホントに魔法か? 周りに影響を出さずに銃弾だけ焼くって、魔法の域を超えてるんじゃねぇか?」
「知らん!そんなことより、今はまずお前をぶっ殺すことが先決なんでな、対話するつもりはない!!」
拳が炎と熱を帯びてやがて雷を生み出す、その雷拳を男に向け放ち続けた。
男は体制を立て直す様に後退りする、涅巴はその隙を逃さずに右拳を腹に打ちつけた。続けて左拳の硬化した血が溶けて肥大化し、男を押しつぶそうとする…が、回避されて肥大化した拳を大剣により切断された。
「……!焦った…ただの血だったな。」
これは魔法により作られた血の塊に過ぎない、故に切断したところで涅巴への攻撃とはならないのだ。
「…ッチ、やりにくい……」
男が攻撃に出て斬撃を放つ、だが右手で受け止められ、左手を腹に刺し込まれる。
「ぐ……ぐぁ…!」
腹の中で左手をかき回し、腸を引きずり出した。
「じゃあな、死ねよ。」
男が吐血する、引きずり出された腸を引き裂いて、さらに大剣を投げ飛ばし、右手を腹から上にえぐるように上昇させ、心臓を掴んだ。
「よぉ、お前の心臓を掴んでるぞ、握りつぶされたくないよなぁ?」
男からの返事はない。
「お返事できない悪い子は死ぬと良い。」
グシャリ、という嫌な音を出して、心臓が破裂した。
そこからは蹂躙という表現が最も正しいだろう。逃げ回っていた者達を殴り、蹴り、殺す、ただそれが繰り返されていた。
涅巴は高らかに笑いながら、最後に残った男を馬乗りになりながら殴り続けた。
「ギャハハハハ!!!」
「うわぁ、笑い方気持ち悪ぅ……じゃなかった、おい涅巴!いい加減目を覚ませ!!」
「……っ!!ごっごめん、やり過ぎた。」
涅巴はその場から立ち上がり辺りを見渡した。先程の少女が何事もなかったかのようにポツンと立っていた。
「ちなみに、あの子なんなんだ?魔法?っぽいの使ってたけど。」
「……しらね。」
少女の前まで歩く、ぼーっと天井を見上げるその姿は、謎に達観しているように見える。
「えーと、君の名前は?」
「ごめん、その前にまだ何か来るかも。」
その何かについて聞こうと口を開いた瞬間、何度も観たような光景、因縁の召喚獣が天井より大きく音を立てながら着地した。
『どたどたどた……谿コ縺吶?縺倥k螢翫☆谿エ繧句眠繧峨≧!!!』
自身の召喚者を失ったのか、体の表面が消えかかっている。
「最後の最後にコイツか……でも今ならいける。」
今までの逃げてばかりではない、本当の対決が始まった。




