21 "赤く"
コンクリートでできていたはずの壁や天井が変化し、見たこともない材質でできたものにガラリと変わった。
奥へと進むとかなり昔に作られたであろう階段が見えてくる、以外にもしっかりとした造りで、ガッチリとしている、崩落の危険などはないだろう。
「進もうか。」
なんだか普段よりも周囲の魔力が多い気がする。
「何が起こるかわからない、注意して……」
友親が息をきらしていた。
「大丈夫か?」
「あぁ、久しぶりに本気で動いたからか?……体が少し重い。」
普段の友親からは感じられないほど明らかに顔色が悪い。
「そうか、少しここで休むぞ。」
「こんな半端なところで休める訳ねぇだろ。」
と言いつつもフラフラだ、目の焦点が合っていない。今にも倒れそうになっている。
「っあ……」
「あ、おい!」
「涅巴、遅いね。もう外も暗いのに。」
そう心配気に話すのはエプロンを着用し、髪をお団子のように束ねた妃蝶だ。
時刻は十七時半、近藤家の面々は夕食の準備を行っていた。
「近藤の血が流れる男なんてそんなもんさ、言いつけ守らず遅くに帰ってくる。お爺ちゃんもお父さんもそうだったんだよ。」
と、お婆は言う。そして続けてこうも言った。
「そんな時は決まって善行をしてくるんだ、例えば人助けとかね。」
「っ……あぁ?」
「よし、起きたな。いきなりぶっ倒れやがって、お前は細身なのにゴリラみたいな筋肉と重量してるから支えるのが大変だったんだぞ。」
朦朧としていた意識が徐々に回復する。
友親は自分が倒れていた事以外何があったのかわからず、目の前に居る涅巴に尋ねた。
「……なにがあった?」
「多分いきなり多量の魔力に触れたことが原因じゃないかと思う。水風呂に入った時に身体がびっくりする……みたいな。」
「そんなことより、いい加減起き上がってくれないか? 俺の足が痺れて悲鳴を上げてる。」
自分のおかれている状況を理解した友親は、後ろに胡瓜を置かれた猫の様に飛び上がった。
「おうぇ……膝枕……おぇ……」
「うん、やっぱ寝てて良いよ。一生。」
男からの膝枕など冗談じゃない、といった様子で口に手を当てて壁に寄りかかった。
「さて、もう大丈夫そうだし、探索再開といこうか。」
「こい」
「……?、なんか言ったか?」
「何も言ってねぇけど。」
涅巴は空耳かと思いつつ、長い階段を降りていった。
山の神社並の段数の階段を下り切ると、まるで迷路の様に枝分かれした道が見えてきた。
もはやただの病院とは言えない雰囲気に寒気がしてくる。
「これじゃあ病院じゃなくて遺跡じゃねえか……」
二人はなんとなくで道を進みつづける。
ここではよく足音などの物音がよく響くようだ。
そこで涅巴が話し始めた。
「こうゆう迷路みたいなところってワクワクするな! お化け屋敷を兼ねてるみたいで尚更楽しい!」
「涅巴は楽観的で良いな、オレなんか不安でどうにかなりそうだ。」
「楽観的? 違うよ、怖すぎるから楽しいって無理やり思い込んでるだけだ。」
「あぁ、確かに目が笑ってないし足もガクガク震えてるな、心なしか足音も複数聴こえ……あ?」
どたどたどたどたどた
何処かで聴いたことのある足音だ。いやこれは声か。
「まずい、逃げるぞ!」
「あぁ……ほんとだぁ、声が……」
「いいから逃げっ……」
突如として目の前に大きな影が落ちる。そしてとても大きな『ドスン』という音も立てながら。
『どたっ隕九▽縺代◆縲∵ョコ縺励※繧?k』
現れたのは先程封じ込めたはずの化け物だ。
詰めが甘すぎたのだ、ここまで大柄な化け物が人間が持ち上げられる程度の重しで長時間封じ込められる訳が無い、故にここまで追いつかれてしまった。
「いっ……うわっ……!」
友親が足を長い体毛に掴まれて、そのまま壁に打ち付けられる。
頭からは血がでて、干されたように体毛につるされている。
涅巴は腰がひけてしまったようで、尻もちをついてただ眺めているだけだ。
「おい……やめっ」
涅巴が声をあげようとすると、化け物の他の体毛が鞭の様にしなりながら涅巴に激突し、こちらも壁にぶち当たる。
「う…おぇ……」
臓器に衝撃がいったのか倒れ込み、血と吐瀉物を吐いた。
友親は、前頭部に衝撃がいったことによる脳震盪、加えて先程からある突然多量の魔力にあたったことによる吐き気や倦怠感が追撃し、またもや意識が朦朧としてきていた。
化け物は気絶寸前の友親を顔の真上に掲げ、大きな口を開けて捕食しようとする。
そこで男の声が捕食を遮るように入る。
「おいおい、やり過ぎじゃねぇか?」
男がそう問いかけると、化け物は行動を止め、友親を地面に置いた。
「よしよしいい子だ。こいつらは俺が皆のところに持っていってやる。」
「だがまぁ、どうせ殺されるだろうけどな。」
そう話し、二人を乱暴に抱えて枝分かれした道を進んでいった。
「おーい土産があるぞー。」
枝分かれした道を進んで行った先にあるひらけた場所、この病院もとい遺跡の中枢ある場所にて、男は二人を放り投げた。
ぞろぞろと人間が集まってくる。皆防護服のような黒い服を身に纏っている。
その中の女と思わしき者が男に話しかけてきた。
「おい、何故こいつらを連れてきた。病院内を這い回るネズミがいた事は皆気づいていたが、連れてこいなどとは命令していないぞ。」
「硬いこというなよ、ネズミって言っても一度召喚獣の動きを止めたんだ、しかも魔術も使わずにな。」
「それなら取り調べる必要があるだろ、なにをしに来たのか、あのチンピラ共の仲間なのかとかな。」
そう彼らが話し合っている間に、涅巴の意識が回復した。
「……ここは……」
「おっと目が覚めたか、単刀直入に聞くぞ、お前らはなんだ?なにをしに来た?」
状況が読み込めないながらも、話し出した。
「ヤンキー共を追いかけて来て……」
「おぉそりゃあお疲れさん、でもそいつらうちの犬が殺しちまったみてぇでな、もういねぇんだよ。」
ため息をついた女が遮る様に割って入った。
「こいつらはただの一般人ということだ。獲られる情報も無い、さっさと消すぞ。」
ここで友親の意識も回復する、かなり脳に負担がかかっているはずだが、ヨレヨレと立ち上がろうとする。だが、
「いっ……てぇ…!」
他の人間が無理やり腕を押さえて床に押さえつけた。
「……友親!!」
それを見た涅巴は暴れようとしたが、同じように押さえつけられてしまった。
「おうおう落ち着けって、一応聞いとくが、女の子を捕まえ……保護してんだ、知り合いか?」
女の子、ときいた友親は暴れ出した。
「菫!お袋!いるのか!?」
ニヤリと男は笑った。
「ビンゴっぽいな、多分こいつの妹かなんかをチンピラ共が誘拐してきたんだろ、それで探しにここまできたと……はは!警察犬みてぇだな、アホくせぇ!」
「おい、菫とお袋を返せ!」
「返せとか言われてもなぁ、勝手に人様の敷地に入って置いてその態度か? まぁ俺達も人のこと言えた立場じゃねぇんだけどよ。」
男は友親の胸ぐらを掴みこう言った。
「何にせよここまで来ちまったんだ、潔く死ねよ……」
友親は男の手を思い切り噛んで逃げ出し、涅巴を押さえつけていた奴らに突っ込んだ。
「いってぇなぁ……」
押さえつけていた者達は後退りする。
「おい、大丈夫か?一旦逃げるぞ!」
そう言って涅巴を立ち上げたが……
そこで、友親と涅巴は目視した。
円形にひらけたこの場所の中心にそびえ立つそれを。
彼岸花のように赤く、
長い時が経ったように黒く、
飛雪のように白い、
腹の割れて、
ただ一つの眼で自分達を見る、
血塗られた少女の姿を。
やっとここまできました。




