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命の神  作者: oto
一部 一章 "三日月は昇る"
20/35

20 "正面突破"

 「「いやァァァ!!!」」


 走る、走る、超走る。

 男二人が恥を捨てて叫び声を上げながら化け物から逃げ続ける。

 走ったからといって逃げきれるとは限らない。何せ、あの化け物は人間の何倍もの速度でこちらを追いかけて来ているからだ。障害物となるものを投げつけて、少しでも引き離そうとはするが、それさえも乗り越えて猪突猛進を体現したかの様に向かってくる。

 

 『待てやゴラァァァァ!!!』


 化け物が長い体毛をしならせ、鞭のように振るう。細く、そして鋭く伸びた体毛は壁に当たり、大きな切傷を残した。


 「なんでアイツ人言葉喋れるんだよ!」


 「しらねぇ、取りあえずどうにか逃げないと…、あそこだ!」


 涅巴が指差した場所は外へと通じる非常用階段、二人は勢いよく扉を開けて階段を駆け降りる。

 

 「よし、外に出れた。」


 「…なんでだ。」


 涅巴が懐疑的な反応をする。


 「魔力が、無い?」


 涅巴は今起こったことについて話し出した。なんでも、病院を出た瞬間に魔力の反応が感じ取れなくなったという。


 「はぁ、意味わからねぇ。さっきの化け物も追いかけて来て無いみたいだし。」


 「それ、魔力がなくなった事と関係あるかもな。」


 「というと?」


 じゃあ説明すると、最初に化け物が追いかけて来なかった理由についてだ。仮定として、あの化け物の正体が実在する生物や、空想上の存在を魔力によって再現する、魔法学において上級に位地する"召喚魔法"によって作られた"召喚獣"だと推察する。


 「聞いたことある、確か召喚魔法ってのは通称で、実際には何かを召喚してるんじゃなくて、もとからあるものを模倣したものだから、正確には召喚魔法って言えないんだったな。」


 「よく知ってるな、」

 

 話を戻すぞ。召喚獣は体の構成物質や、エネルギー源として魔力が必要となる。その源として術者から支給され続ける魔力を使っているから、持続的に魔力を補給出来ない場所では体を維持できない、つまり秋峰は魔力が存在出来ないため、召喚獣が外に出ることは適していないということだ。

 

 「単に術者から病院の外に出るなっていう命令が下されてるだけかもだけどな。」


 召喚獣は術者からの命令に背くことができない、まさに絶対服従の奴隷。それが召喚獣としての役目であり、その一瞬のまがい物の命の使い方だ。


 「…本物の幽霊の場合は…」

 

 「怖いこと言わないでくれ。」


 冗談を言い合える程度に落ち着いたところで、次の突入の時のことを考えなければならない。


 「さて、どうすっか。ヤンキー共はほぼ全滅、家族は見つからない上に召喚獣が一匹、そのバックには魔法使いときた。」

 「召喚魔法が使えるとなると、かなり高位の魔法使いだ。正面からぶつかって勝てる相手じゃねぇぞ?」

 

 涅巴は続けて問題点を言い続ける。 


 「それに家族はどっかに逃げてるかもだぜ、それでもここを探すのか?」


 よく考えなくてもわかることだ。病院は隅々まで探した。この場所にはもういないのかもしれない、というよりその可能性の方が高い。それに法外な行動をする魔法使いである以上、二人の高校生の手に負える範囲ではないのだ。


 友親は悩む素振りを見せることなく自信を持ってこう言った。


 「正面突破だ。」


 「…話聞いてた?」






 静粛とした病院、その中でのっそり、のっそりと二本の短い足を使い這うように移動する。目指す先は病院一回の入口だ。

 外に出たいからここまで来たのではない。これは待ち伏せである。

 この化け物はここの警備か何かを任されているのだろう。二度も同じ過ちを繰り返すわけにはいかない、そう思い、一度出会った者の匂い、音、存在を必死に覚えてそれと同じ存在が入口の前に居る事を感づいた。

 只待つ、狩るべき相手が自分の手の届く範囲に入るまで。

 





 「おらァァァァァァ!!!」


 初めの合図のように放たれた怒号と共にドアがぶち破られる。


 目の前に見えるのは大きな顔を露わにした化け物


 拝啓 陽春の候、いかがお過ごしでしょうか。 

突然ですが私、死ぬようです。 以下省略


 「カチコミじゃァァァァあ!!!」


 3秒で考えたような出来の家族宛の手紙を心の中で読み、たった一人ドアを蹴破りながら突き進む男、涅巴だ。

 

 手にたった一つのナイフと小包を持っており、できる限りの軽装をしている。


 化け物は一心不乱に大きな口を涅巴を飲み込まんと開け襲いかかる。

 それを間一髪避けながらナイフで持参した"白い粉"の包装を切り裂き、二度目の攻撃を向けてきた瞬間に、化け物に向けて勢いよく大きく振りかぶる。

 すると、粉は化け物の鼻や目に入り込み、化け物の動きを鈍らせる。


 「よし、無駄にでけぇ目と鼻してるからだよ!」


 彼は元々頭を使うことが得意ではない、中学生の時、試験で赤点を連発することもしばしば、なんなら名前も書き忘れる。

 だがそんな馬鹿な彼でも出来ることがあるのだ。


 『縺薙m縺吶%繧阪☆縺薙m縺吶%繧阪☆』


 「やったれ!友親!!!」


 友達を信じることだ。


 「喰らえ!アスファルトアタック!!」


 突如として上から落とされる大きな岩、それが化け物の長く伸びた体毛の上にのしかかり、化け物の動きを封じた。


 「しゃあ!!このまま突破だ!」


 「マジで小麦粉を使うことになるとは思わなかったぜ…」


 そうして二人は一分もかからずに化け物を封じ、文字通りの正面突破をとげたのであった。






 「もっ…もう…むりぃ…水…」 


 いつものごとく涅巴がばてて、倒れた。それを見て友親は苦笑いをしながらお茶を渡し、飲み終えた涅巴をおんぶする。


 「大成功だ!これがチームワークってやつだな。」


 「俺は…実行した…だけだぁ…友親の作戦のおかげだな。」


 「いやいや、ホームセンターで涅巴が色々買ってなけりゃ成功率下がってただろーし、涅巴のおかげでもあるよ。」


 「いやいやそれも友親が…」


 「でも涅巴も…」


 二人がダ○ョウ倶楽部のマネ?をしていて埒が明かないため、ナレーションが簡単に解説をいたします。


 まず涅巴と友親は役割を分担して囮役と捕縛役に分かれました、涅巴が囮役で友親が捕縛役です。

 まず涅巴は入口でバットをもち、ドアをぶん殴りまくります。これにより入口付近にまで化け物をおびき出すことに成功していました。

 つまり化け物は必死に気配などを探していましたが、可哀想なことに意味はなかったということですね。

 話が少々脱線してしまいました。話を戻すと、おびき出すことに成功した涅巴は、次にホームセンターで購入した果物ナイフと小麦粉を持ち、バットで壊れすぎる寸前にしたドアを大声を上げながら蹴破りました。

 化け物と相対した涅巴は全力で化け物に近づきます。この時、化け物に友親の位置を悟られないよう常に大声を出して注意を惹く引く必要がありました。運動不足気味な涅巴には荷が重いようでしたが、そこは気合いでなんとかなりました。

 化け物に近づいたところで、小麦粉の封をナイフで開けて化け物に小麦粉を振りまき、視覚と嗅覚を一時的に奪う、ここまでが涅巴の役目でした。

 

 そして、友親は涅巴とは違い、先程病院から脱出した時に使った非常用階段を使って二階の一階エントランスの真上まで行きました。普通であれば階段を登って病院に入った時点で化け物に気づかれていたはずですが、涅巴が異常な程に音を出してくれていたおかげで気づかれずに進むことができました。

 エントランスの真上まで来た友親は、エントランス天井に空いている二階に通じる大きな穴の近くまで来ていました。これは、最初に涅巴と共に病院に突入した時に見つけていた穴です。ここではさらに慎重でかつ迅速に動かなければなりませんでした。何故なら、簡単に化け物に気づかれてしまう上に、チャンスは一回きりで二度と無く、涅巴の命も危ないからです。

 静かにチャンスを待ち、涅巴が小麦粉を振りまいた瞬間に、これまた病院内を調査していた時に見つけた大きめな岩、もとい壁の破片を穴から落下し、化け物の真上に着地させ、動きを封じることを成功しました。


 以上で解説を終わります。


 「にしても、これだけ騒いだのに何で魔法使いはでてこないんだ?」


 友親の疑問を聞いて涅巴は考え込む。

 それについては涅巴も疑問に思っていた。これだけ騒ぎ、召喚獣を封じ、堂々と病院内を闊歩しているのに、何一つとして行動をとってこない、かなり異常だ。


 「さぁな、飯でも食ってるんじゃ…」


 涅巴は無言で友親から降りて右の壁をさすりだす。

  

 「どうした、そんなにその壁が気に入ったか?」


 壁に耳を当てピッタリとくっつく、それを見た友親も真似をしてピッタリとくっつく。

 その間二十秒、二人は一言も話さずにただただ耳を澄ました。


 「…足音だ。」


 「そ、足音。」


 「壁の中で?」


 「足音だ。」


 もしかしたら家族がこの先に居るかもしれない、だがこんな壁があっては進もうにも進めない。こういう開かずの扉ならぬ開かずの壁がある時、どうするか。


 「ヒラケゴマ!」


 「そんなお約束みたいな言葉で開くわけ…」


 スッと壁が元から無かったかのように静かに消えた。


 「こんな簡単に?マジで?」


 「行くぞー、置いてくぞー」


 二人は新たに姿を現した道を進むのであった。

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