2 "逃走"
……目的地にもうすぐ着くようだ。
未だ頭が混乱している、人身事故を見たというのもあるが、なぜこの痴漢魔は飄々とした態度を取れるのか。
そして自分がなぜ未だ尻を触られているのか。
「あの…」
勇気を出して声をかけた。
痴漢魔は「ん?」と首を傾げた。
「事故ってよく見るんですか?」
痴漢魔は言った、
「初めてみたわ、あんなグロテスクで気持ち悪いの。」
そして、さも当然かのように言葉を続けた。
「ところで何処のホテルにいく?近場だと駅から北のホテル街だけど。」
数秒の放心、そして沈黙、理解が追いつかない、いや違う、脳が理解したそれを否定している。
「あら、ホテルは嫌?それなら私の家が駅から西にあるわよ♡」
いやそうではなく、と言おうとしたところで気づいた。
「貴方は何故僕の降りる駅を知っているんですか、」
またもや沈黙、この沈黙が彼の恐怖を促進させる。
「だって…」
もしかしてずっと監視されて…
痴漢魔は可愛らしく笑いながら言った。
「次、終点じゃない。」
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「この度は、jr秋灘線をご利用頂きまして、誠にありがとうごさいます。」
「現在、秋灘線内においてトラブルが発生したため、運行を見合わせております。」
どうやら目的の駅に到着したようだ。
だが、先程の事故の影響か電車から出られない状態が続いている。
「あの、すみません…」
彼は駅員に声をかけた。
「トイレをお借りしたいんですけど…」
駅員はしょうがないな、といった様子でトイレまでの道のりを教えてくれた。
「終わったらすぐに戻ってきてくださいね。」
彼は軽く頷くと歩き出した。
だが、誰にも見られていないことを確認すると、直ぐにに駅の出口まで歩きはじめた。
当然の行動であろう、これが唯一の痴漢魔から逃げ出す方法なのだから。
この頃には事故のことなど忘れてしまっていたのだった。
「此処が秋峰か、」
彼は自身の新天地に直面し、それに圧倒されていた。
不安はあるが、それが良い、自分のこれからの生活に期待してなんだかわくわくしてくる。
そこで一本の通知が携帯に入った。
『すまない渋滞が起きていてね、迎えに行けそうにない。』
続けてもう一本の通知、
『悪いけど、近くまで歩いて来てはくれないか?』
彼は了承のメールを打ち、そこから歩き出そうとした。
そこで彼は後悔した。
駅より西に見える坂、それを歩かないといけないのであった。
あれ、西?