17 "あっちゃいけない"
生い茂る青々とした森を突き抜ける、住宅街から外れ少し歩いた場所にある道、それを二人は進んでいた。
バットを一本、それと近場のホームセンターで購入した少しの道具だけを持って、いざ家族を助けに行こうとしている。はっきり言って無謀だろう。
策もなければ道具も少ない、道具に関しては手持ちの金が少なかったということもあるが、そこはバイトもしていない単なる高校生。御愛嬌といったところだ。
「やっぱあの病院"出る"のかなぁ、不安になってきた。」
「だからでないって、前来た時何も起こらなかったって説明したろ?」
今から行こうとしている場所は有名な心霊スポット、幽霊がいないとはっきりしていたとしても、雰囲気だの伝承だので怖いのだ。怖いもんは怖いのだ。
だからといって歩む足を止めるわけにはいかない、友親の大切な家族の命が危険に晒されている、その事実がある限り進み続けるのだ。
ふと、涅巴は疑問に思う。
「お父さんはどうしたんだ?まず始めに相談すべきなんじゃ、」
友親は不快なことを思い出したかのように、目に見えて嫌そうな顔をした。
「親父はギャンブルにはまって他の女に手出して、オレらを捨ててどっか行ったよ。」
「あいつは根っからのクズ……あんな事やってたオレも同類か。」
「親父が消えてもお袋はオレたちを夜通し働いて養ってくれてさ、高校までいかせてくれたんだ。」
今までの行動を後悔するかの様に頭を抑え下を向いた。
「でもそんなことお構いなしにオレは遊んでばかりで、一度は更生したかと思えばまたあんな奴らと…」
どうやら複雑な家庭環境のようだな。効かない方が良かったかも。
「…なんだよ、そんなしんみりした様な顔しちゃってさ、オレの家族について話したんだから涅巴の家族についても話せよ。」
「そだね、フェアじゃない。俺の両親についても話そうか。」
俺の両親は優しい人間だった。子供である俺に対しては勿論のこと、近所の人たちにも年齢関係なく優しく接する人柄のいい人だ。
父さんは土木工で母さんは専業主婦、特別裕福というわけでもなかったが、初めは普通の生活を送ることができていたんだ。
だけど現場作業員の土木工は三十年前に新しく持ち込まれた技術の発展のせいで廃れ始めていたし、段々と稼ぎが少なくなって一軒家を手放してアパートに引っ越すことになった。その時の父さんの不甲斐なさそうな顔が忘れられそうにないよ。
「…悪い、涅巴も苦労してんだな。やっぱりオレらは似た者同士か。」
「かもな。」
しんみりとしてしまった空気の中、目の前にぼろぼろな病院と思わしき建物が姿を現した。どう見たって出るとしか思えないビジュアルに涅巴は身震いをする。
「あーついちゃった、ウワサの高倉病院。」
「オレは霊以外の心配をしたほうがいいと思う。」
不良共がこの先にいる、そして友親の家族もだ。
「…じゃ行くか。」
「俺の骨は拾って犬にでも上げてくれ。」
「死なねぇし、生きて帰るに決まってるだろ。」
友親と涅巴はまた歩みだした。
「あぁこえぇ…こんなときのためにアスパラベーコン連れてきて良かった…」
「木彫りの熊になんて名前つけてんだよ。てかそれいつから持ってた。」
割れたガラスに抜けた床、剥げた壁紙に破れたベッド、高一のときに文化祭にあったお化け屋敷を軽く越えて怖い。
「不良の親玉はどこにいるんだよ。全然見つかる気配ないぞ。」
階段を上り二階に付く、人の気配は全くと言っていいほど無い、人どころかネズミの一匹もいない。
「おかしいな…絶対に場所はあってるはずだ。」
「…は?」
突然涅巴がその場で静止する、冷や汗をダラダラとかき、腰を低くして辺りを見回していた。
「どうした、何か見つけたのか?」
涅巴は小走りに物陰へと隠れただこちらに来るようにと手招きをする。
「おい、どうしちまったんだよ、そんなに幽霊が怖いか?」
「違う、気づかないのか、この異様な感覚に。」
友親は全くわからないと言って説明を仰いだ。
「この町に絶対にあっちゃいけない物の気配がするんだよ。」
この町、秋峰市に絶対あってはいけないもの、人々が人々の幸せと危険からの脱却を願い遠ざけたもの、それはここに二つと無い。
「この病院に魔力が存在しているんだ!」




