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命の神  作者: oto
一部 一章 "三日月は昇る"
16/35

16 "どうにでもなれ"

お食事時の方、申し訳ない。

 「すげぇな」


 これをみているとまるで漫画の世界に来たような感覚に陥る。友親が不良たちをたった一人でボコボコにしていた。


 「取りあえず一旦落ち着こうぜ、こいつ等もいい加減反省しただろ。」


 友親は馬乗りになって頭部を殴り続けている。そろそろ頭が吹っ飛ぶんじゃないかな。


 「ギャハハハハ!!!!」 


 笑い方気持ち悪ぅ、ほんとにこいつ死んじまうぞ。


 「はいやめ!終わりだ!いい加減こっちの話を聞きやがれ!」


 はっとしたような表情を見せ殴ることをやめた。


 「あぁ、その、悪い…」


 容易く暴力を振るっていたことを見られたせいか、バツが悪そうな顔をしている。


 「人の趣味嗜好を否定するわけじゃないが、お前人として終わってんな。」


 「え?それ否定してね?」


 んなことはどうでもよろしい、当初の目的を果たすことが先決だ。友親には聞かなければいけないことが山程ある。


 まず最初に聞くことは…


 問い詰めようとしたところで涅巴は気づいた。先程友親にボコボコにされていた男の一人が逃げ出していることを。


 「あいつ、仲間を呼びにいったんじゃねぇか?」


 「あ!くっそ、この距離じゃもう追いつけねぇ。」


 ざっと百mくらいだろうか、よそ見をしている隙にまんまと逃げられてしまった。


 「はは…お前らもうおしまいだよ…。いずれ仲間がお前らを殺しにくる、そいつ等にはお前らでも敵わない、絶対にな。」

 

 「つまり上層部の人間が報復にくると、どんなやつがくるか聞いても良い?」


 教えてはくれないのだろうなと思いつつも、一応質問を投げかける。


 「聞く意味はねぇよ、奴らに会う前にお前は終わる。」


 瞬間、後頭部に衝撃、バットによる打撃だ。


 視界が大きく揺らぐとともに身体が地面に激突する。クラブで盛られたクスリ以上に手足が痺れ、ギンギンと耳鳴りが起こった。


 薄らぐ意識の中、己を攻撃したものを見つける。バットを持っているから友親かと思ったが違う様だ。この巨漢は初めに友親の首を絞めた男、山岡に違いない。


 「……巴!」


 目の前が暗くなり、頭痛が消えて力が抜けていく。死が近づいてくる感覚に抗うことも出来ず、ただ涅巴は流れに身を任せることしかできなかった。




 


 「はずねぇだろうがぁあ!!!!!」


 気合で意識を取り戻し、バッグを手繰り寄せその中に入っていたブツをぶん投げる。狙いは勿論山岡ただ一人だ。


 「ぶへぇ…」


 顔面に直撃し変な声をあげる。


 「…?」


 不思議とそんな痛くない。顔に引っ付いたブツを拭い見てみると、


 「くっせぇぇえ!!!!」


 「うお、こっちのバッグも臭くなってる、買い換えよ。」


 悪臭、河川敷の日の当たらない場所に放置していたそれは普段よりも増して臭くなっていた。


 「おい、涅巴!何投げやがった!?」


 「大丈夫、ゴム手袋はしてあったから手自体は臭くなってないよ。」


 「だから何を投げたんだよ!!」


 「ええと、俺の住んでるアパートの204号室に住んでるおばあちゃん(六十七歳夫他界済み)の飼ってる犬のコタロウの排泄物だ。」


 「う○こじゃねぇか!!」


 本来なら仕返しにと友親に投げる筈だったものだ。友親クン、命拾いしたね。


 「口にはいって…おぇぇ…」


 「今だ!友親、お前のドロップキックを見せつけるときだ!」


 「あぁもうどうにでもなれ!おんどらぁぁ!!!」


 山岡は悲痛な叫びを上げながら川へと落ちていった。






 「涅巴、お前ほんとに人騒がせだな。」

 

 「お前だけには言われたくないね。」


 あれから河川敷を離れ、近くの公園に来ていた。

 気分転換を兼ねて、まぁ乱闘の現場から離れ警察などに目をつけられないようにするというのが大きな要因だが、ゆっくりと話せる場所に来たのだ。


 「…雨、強いな。」


 「早く止まないかねぇ。」


 ポツポツと降っていた雨は次第に強くなり、今ではザーザーと音を立てている。

 普段なら子供たちが自由気ままに遊んでいるはずの公園には誰も寄り付かず、友親と涅巴だけの静かな空間が広がっていた。

 

 余りに静かな事に耐えかねたのか友親が口を開く。


 「なぁ、いい加減聞かないのかよ、オレと奴らの関係についてとか。」


 「話す義理はない、だろ?」


 「確かにそう言ったけどな…」


 二人の空間を破る様に一つの着信がくる。


 「…ヤツらからだ。」


 涅巴はうんと頷くと電話に出る様に促す。


 友親は若干不安がりながらも電話に出た。


 『…よう、久しぶりだ。』


 その声に友親は息を飲んだ。その声は若いが芯のある通った声だ。


 『約束どうり、家族は預からせてもらった。』

 

 顔色がみるみる悪くなっていく。


 「…どうすれば解放してくれる?」


 『そうだな…オトモダチを連れて高倉病院にこいよ。話はそれからだ。』


 そこで電話は切れてしまったようだ。


 友親は思い詰めた表情をとった後、はっとしたように誰かに電話をかけはじめた。


 「くっそ、でねぇ…」


 「親御さんか?」


 「あぁ、お袋にかけた。でなかったけどな…。」


 「妹がいるんだっけ、多分それと一緒に連れ去られたって話だろうよ。」


 「どうすれば…」


 ブツブツと貧乏ゆすりをしながらベンチに座り込んだ。


 さて、どうするべきか。

 まず一ツ目に、要求どうり友親と共に高倉病院にカチコムこと。だが奴らは多分単なる不良ってわけじゃないだろう。クスリや大人数の構成員を持っていることから、反社と繋がっているのは明確だ。

 次に、警察を頼ること。だが友親が反社と繋がっていることがバレる上に、奴らがそれを黙って見ているはずがない。友親の家族が危険に晒されてしまうだろう。

 最後に、街の外までおびき寄せてアレでぶっ潰すこと。多分無理だ。奴らもアレを使える奴がいるかもしれないし、まずおびき寄せること自体が至難の技だ。


 ここまでを踏まえた上で選べる選択肢は一つだけだろう。


 「高倉病院にカチこむぞ。」


 「な…」


 驚いたような顔でこちらを見てくる。


 「涅巴…お前正気か?自殺行為だぞ。」


 「どの道この選択しかねぇしな、それに俺はすごく機嫌がいいんだ。」


 「機嫌?」


 「あぁ、そうとも機嫌がいい!なんたって友親がさっきから名前で読んでくれてるしな!」


 さらに驚いたような顔で見てくる。それには呆れも混ざっているようだ。


 「そんなことで…」


 「だってな、昨日までは俺の名前を呼んでくれなかったのに今日は呼んでくれてるんだ。」

「つまりそれは友親が俺のことを友だちって認めてくれた訳だろ?」


 そしてはっきりと力強く言った。


 「友だちを助けるのが友だちってもんだ。だから悩んでる暇なんて無いんだよ。」


 雨雲は晴れ始め、雲の間から光が差し込み暗くなったあたりを照らしだす。


 「だから行こうぜ、助けに二人で!」


 今の友親にもはや不安は無い、この能天気で曇りのない瞳を見てそんなものは弾け飛んだ。


 「あぁもうどうにでもなれだ。行こうか涅巴。」


 「あいよ!友親!」

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