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命の神  作者: oto
一部 一章 "三日月は昇る"
15/34

15 "闘争心"

 「やばい、囲まれた。」


 気づいた頃にはもう遅い、前も後ろも完全に包囲されてしまっている。


 「…山岡。」


 山岡?この一番がたいの良い男がそれか。

 

 山岡と呼ばれた男は他のニヤニヤと笑っている奴らとは違い、明らかに顔にしわを寄せ真っ赤になっている。


 「仲間から逃げたガキを見つけたと報告があったから来たが、とんだやつが隣にいやがったな、なぁ?倣城。」


 「まて、俺は裏切ったわけじゃ」


 「にしては親しげに話してたよなぁ、なんだ?またお友達に戻ったりでもしてんのか?」


 相手は友親の話を聞く気は無いようだな。これはあれだ二人仲良くフルボッコドラム缶詰コース。


 「なぁ、今からでも仲良く出来ませんかね?俺もクスリ飲まして拉致してきたことは糞と一緒に水に流しますから。」


 「こっちの仲間殺しておいてよく言うよなぁ!安心しろよてめえは殺して豚のエサにしてやる。」


 安心できねーし、てか俺も一人も殺してないし、冤罪だし。


 とは言っても相手は怒りが頂点に達しているようで、こちらの言うことなど聞く耳を持たないだろう。それにあの死体の状態なら近くにいたはずの涅巴が真っ先に疑われるのは当然のことだ。


 「これはにげるしかねぇ!」


 しかし、回り込まれて(元からそこにいた)しまった!


 「逃げんじゃねぇ!」


 涅巴の頬に突っ込んだ先にいた男の拳がめり込む、たった一撃で涅巴はよれよれとその場に座り込んでしまった。


 「いってぇ…」


 手応えの無さと座り込んだ涅巴を見て男はほくそ笑んでいる。これはこんな男に仲間は殺されたのかという朝笑う気持ちも含まれているのかもしれない。


 「うぐっ」


 友親は胸ぐらを掴まれて壁に押し付けられ、身動きの取れない状態になっている。


 「てめぇは馬鹿なのか?俺らに逆らったらどうなるか知ってるはずだよなぁ?」


 続けて首締められ呼吸ができない状態にされ、今にも意識が飛びそうだ。


 「てめぇの母ちゃんも妹もみーんな殺すっていったはずだよなぁ?」


 顔が青くなり、体中が痙攣しだす。


 「なんでてめぇは裏切ってんだよ、あぁそうだな、てめぇは最初から家族のことなんてどうでもよかったんだな。」


 「ほら、さっさと死ねよ。」


 そこで完全に意識がなくなり…、


 唐突に起こる衝撃、それは山岡の左頬に起こった攻撃によるものだ。


 それは誰にもよるものか、それは一番近く目の前にいた男のものに他ならない。


 「ガァは…」


 山岡の手が首から離れる。それと同時にまた起こる衝撃。今度は山岡の腹にまっすぐと力が加わった。


 「ちけぇし口臭えんだよ。」


 「くそ…がぁ…」


 友親の攻撃により山岡はその場に倒れ込む。


 胸ぐらを掴まれた事により極限まで接近した状態で、最大級の力を加えた右フックが炸裂。

 続いて腹に無理やり左ストレートを決め込み、距離をとった。


 それだけでこの大男をおとしたのだ。


 一歩攻撃が遅れれば脊椎をおられたり、首を締められたことによる窒息が起こる可能性もあった危険な行動だ。


 「さて、次は誰が…おっと…」


 くらりと目眩がする。先程窒息寸前まで追い込められたことによるものだろう。


 「野郎、殺してやる!」


 立ち眩みをしていたことをみてチャンスだと思ったのか、他の男が殴りかかってくる。


 「おせぇよノロマ!!」


 右ストレートを右にかがみながら避け、すぐさま脇腹めがけてパンチを食らわす。


 「ぐぁ…」


 悲痛、だが乾ききったような声しか出ず、そのまま横転する。


 「よし、折れたな。」


 さも当然かのように相手の骨を折ったことを告げ、後ろから向かってくる者の顔面に振り返りながら遠心力をつけ左スマッシュを打ち込む。


 スマッシュといっても無理やり近づけた友親の我流なのだが、突進してくる馬鹿に一撃食らわせるだけなら多少大振りでもクリーンヒットするのだ。


 「やっぱ久しぶりに殴ると痛てぇな。ん?」


 前後から二人つづ襲いかかってくる。


 友親にいまあるのは高揚感、人を殴り倒したときの快感と拳に残る衝撃と痛み、それらを総じて楽しんでいるのだ。


 先程まであれだけ緊張と焦りがにじみてていた青年がここまで笑っている。


 これは、


 単純に、


 「男の子といえば喧嘩だよなぁ。」


 そういう抑えられていた思想が出てきているだけだ。


 四方に分かれた相手、それ等の一番弱そうなやつ。それだけを重点的に、


 「ぶちのめす…、」


 左斜後方、その一点だけを集中して狙う。


 タイミングは数秒、チャンスは一度きり。


 その縛られた危機的状況下でやるほうが圧倒的に、


 「燃えるんだよなぁこれがぁ!!」


 成功、左斜後方の相手に向かって大きく踏み出し、顔面を掴んてそのまま地面に叩きつけた。


 さながら獲物を捕まえた猛禽類のように。


 他の三人の男はぶつかり合い、一人は川に落ちていった。


 「じゃあ…次だ」


 先程抑えつけた男の背を足でグリグリと押しつぶす。


 「ぐっ、あぁぁ…」


 男から漏れ出る苦悶の声、今の友親はまさに獲物をいたぶる捕食者だ。


 「舐めてんじゃ…舐めてんじゃねぇぞゴラァ!!」


 奥にいた男が懐からナイフを取り出し突進してくる。


 「猪かよ。」


 ひらりと躱して後頭部に肘打ちを入れる。かなり弱い一撃だ。


 それを挑発と受け取ったのか、ナイフを振り回しながらの突進。


 「こいつ使うか。」


 念の為持ってきておいた金属バット、それを構え、相手めがけて……ぶん投げた。


 「がぁっ」


 とっさの出来事に反応できなかったのか、ナイフを手から離してしまう。


 それが運の尽き、尻もちをついた男めがけて走り込み、ドロップキックを顔面にぶつける。

 

 「いってぇ、でも意外と楽しいな!」


 この争いは彼にとって遊びでしかない、今まで抑圧されていた闘争心が解放され、その身体を支配する。


 敵を見つけは殴る、蹴る、いたぶる、相手がどんな獲物を持って来ようが関係なくぶっ飛ばす。


 「アハハハハハハ!!!」


 どれだけ拳が痛くなろうとも笑い続ける。もはや痛みなどの気にせずにいる。なにせ久しぶり快楽に溺れているのだから。


 その戦いはこの抑圧された世界で一番自由なものだった。

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