ー君との出会いー
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この……車は…快速……
イヤホン越しに聞こえてくる電車のアナウンス、それが彼の目を覚まさせる。
眠ってしまっていたようだ、大方長旅の疲れによるものだろう。
重いまぶたを擦りながらあたりを見渡す。
時刻は朝方、ちらほらとスーツを着た者たちが見える。
(よかった寝過ごしてはいないみたいだ。)
安心した彼はもう一度寝ようとするのだが…
違和感に気づいた、隣に誰かいるのだ。
電車の中なのだから普通だろうと皆は言うだろう、だが今日は休日、まだ空席はいくつもある。
わざわざ彼の隣に座る意味は無い。寝ている訳でもない様だ、意味がわからない、ただ彼に意図的くっついてていることはわかる。
(…怖くなってきた。)
明らかにさっきよりも近づいて来ている。
彼は此奴がこの世のものであることを願いながらそっとソレの顔を見た。
人だ、そして華奢なワンピースを着た女性、可愛らしい顔を持っている。
そして視線に気づいた女は言った。野太い声で、
「あら坊や♡、気付いちゃった?私の"ココ"もおっきなお城が築かれちゃった♡」
指を指した場所は女性には絶対にない場所、
彼はどんな幽霊よりも怖い女性、否、オトコの娘に出会ったのだった。
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地獄、君たちはそれを見たことがあるだろうか?
俺はある、これだ、これ以外の何が地獄といえようか。
助けてくれと今にも大声を上げようとするが、声が引きつって出てこない。
(これが、世の中の痴漢を受けている子たちの痛みか…)
世の中の痴漢どもを駆逐すべしと考えつつ、ここから脱出する方法も考える。
さてどうするか、声は出せない誰もこちらを見ていない、いや違う、皆が顔を背けている。
ここまで人は他人行儀かと、皆に失望仕掛けていたとき…
背筋が凍った、この痴漢によるものではない。なんだか嫌な予感がする。
実際先程から背筋が凍るようなことはあった、尻を揉まれたり足を撫でられたり、
だがこれは違う、明らかに明確な殺意がここにある。
これはこの痴漢魔も感じているようで窓の方向をじっと見ている。
小さな駅のホームが見えてくる、たしか目的地の一つ前の駅だ。
そして隣にのレーンにも電車が走っている様だ。
丁度駅で電車同士がすれ違うと思われる。
得体の知れない感覚、跳ね上がる心拍、
電車がホームに入る時に"何か"が起こるだろう。
もうすれ違う、その時、痴漢魔が手を握ってきた。
「大丈夫、見たくなかったら目をつぶりなさい」
本当だったら美少女に言われたかった。
そして"それ"は起きた。
いかにも出勤途中のホームに立つ女、その後ろに立つフードを被った黒い服の男。
どんっ
音はなかった、だか聞こえたような気がした。
女が空中に投げ出され電車とぶつかる寸前、男と目が合った、
合ってしまった、黒い服の男と、目が合ってしまった。
黒い、吸い込まれそうな目をしていた。
そして大きな音、「どん」ではない、破裂するような、転がるような音。
その一瞬、自分たちの前だけに広がったその光景は彼の目の表裏に深く刻まれた。
彼とは違い、それを幸にも見なかった人たちは言った。
「わ、なんか凄い音したね。」
彼はその人々を羨ましく思った。
痴漢、ダメ、絶対!