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第八幕

 【夜の支配者】デイオを倒した侍太郎。リコちゃんを無事街へと送り届けた後、ナーロッパ大陸の平和の為、旅を続ける。


外は朝日が燦々と輝いており、優しいそよ風が草花を撫でる。散歩が趣味の侍太郎にとって、心身のリフレッシュになりそうな、そんな風景だった。


 「…………ぬぅん」


 しかし、石畳で綺麗に整備さてた道の真ん中で侍太郎は立ち止まってしまう。否、立ち止まる事しか出来なかった。


 何故なら彼の周りを無数の改造バイクが取り囲んでいたのだ。折角の景観を台無しにするかの如く、アクセルを吹かした音とラッパの音が鳴り響く。


 「お? 何だお前? お? お?」


 「コラ! やんのかテメェコラ! コラコラ!」


 「チンピラ! チンチン! チンチンピラピラ!」


 ボンタンと長ランを身にまとい、奇抜なヘアスタイルをしている柄も頭も悪い集団、その内の一人がバイクから降りてきて侍太郎にメンチを切る。


 「…………拙者、幾らナーロッパ大陸の民とはいえ、悪党まで救うつもりは一切ござらん。悪い事は言わん、今すぐこの場から立ち去るでござる」


「てめぇコラ! 俺達を盗賊か何かと勘違いしてるだろコラ! 俺達は吸血鬼暴走族チーム【虎鵜燃麗(こうもり)】だコラ! 夜露死苦ッ!」


その掛け声を合図に他のメンバーもぞろぞろと降りてきて侍太郎を囲む。ざっと五十人程はいるだろうか、奇抜な格好に注目が行きがちだが、見え隠れしている牙やその語尾は紛れも無く吸血鬼のものだった。


 「ぬぅん……吸血鬼か。差し詰め、デイオの敵討ちといった所でござるな」


 相手が吸血鬼と分かった侍太郎は、拳を構えて戦闘態勢に入る。そう、彼は先の戦いで刀と着物を失ってしまったのだ。


 つまり彼は今、褌一枚。ほぼ全裸のすっぽんぽん太郎であった。


 「チンチンチンピラ! 敵討ち? 馬鹿なのはお前の格好だけにしろだピラ! 俺達は自分のチーム以外の存在などどうでも良いピラ! 他はチンカスだチンピラ!」


 「そうだコラ! 俺達はデイオを倒したお前をボコボコにして、あいつが支配していた街を俺達の拠点にするためにやってきたんだコラ!」


 そう言って各々が気持ちの悪く甲高い笑い声を上げる吸血鬼達、そんな彼らに侍太郎は歯を食いしばる。ようやく輝かしい希望の朝日が昇ったあの街を、リコちゃんを、今一度このような下衆な夜に侵略されるわけにはいかなかった。


 「貴様らのような輩、つま先一歩ですら街に入らせん! 貴様らの浅はかな野望、拙者が打ち砕いてみせよう!」


 「なんだとコラ! お前ら! 全員でこの褌侍を集団暴行(リンチ)にしてやるぞコラ!!」


 「チン! ウンチにしてやるチンチン!!」


 吸血鬼達が己の血で釘バットを生成し、皆一斉に侍太郎へ襲い掛かる。


 「チンチン!! 脳漿(のうしょう)ぶちまけて去ねやー!!」


 「ぬぅん!!!!!!!!」


 一番槍のチンチンヤンキーがバットを振り下ろそうとしていた矢先、侍太郎の拳が入る。


 「ギャー!!!!! チンチンー!!!!!!」


 勢いそのままに吹き飛ばされたチンチンは、遥か上空まで飛んでいき姿が消える。圧倒的腕力を目の前に他のヤンキー吸血鬼達の勢いも鳴りを潜めた。


 「……どうした? 早くかかってくるでござる」


 一撃で力の差を見せつけた侍太郎。吸血鬼達の視点で見れば、まるで鬼神のような、そんな凄みを侍太郎から感じた。


 「く、くそ!? お前ら! ひよってんじゃねぇぞコラ! やっちまうぞコラ!!」


 自らにも発破をかけるようにコラコラヤンキーは声を荒げる。再び吸血鬼達がバットを構え突撃してきた。


 「ぬぅんぬぅん! ぬぅんぬぅん!! ぬぅんぬぅんぬぅんぬぅん!!!!」


 そんな輩を侍太郎は拳で薙ぎ倒していく。一撃一撃に全身全霊を込めて。凄まじい轟音を轟かせて。


 侍太郎は正義の侍。その対極である吸血鬼になど一切の情をかけるつもりはない。しかし、同族の死すらも軽薄に、ぞんざいに扱う彼らの言動が、彼の正義の炎に油を注いだのだ!


 「ぬぬぬん! ぬぬぬぬぬぬん!! ぬーぬん!!!! ぬーぬぬぬん!!!!!」


 「ぎゃぁあああああああ!!!」


 「いってぇえええええええ!! ひぎぃいいいいいいい!!!!!!」


 「おッ!? おッ!? お゛ッ!? おほおおおおッ!!!!!!!!!!」


 次々と吸血鬼を成敗していく侍太郎。気が付けばあれだけ景観を損ねていた輩達の数も両手で数えられるほどまで減っていた。


 「ちくしょー! あいつ強いコラ!! このままじゃあ俺達全滅だコラ!!!!」


 予想外の強さに焦るコラ吸血鬼。ここは一度身を引くべきか、はたまた玉砕覚悟で突撃するか。果たして――。




 「――おいテメェ、今逃げようって思ってただろう? あん?」


 コラヤンキーの背後から突如聞こえてきた声。背後に立っていたのは彼より一回り身体が大きく、一回りリーゼントも大きい人物であった。


 「あ、族長! ちわっす!!!!! 自分は決してそんなこと思ってないです!! コラ!!!!」


 「テメェ嘘付くんじゃねぇぞ!! テメェの顔にそう書いてあるんだよ!!! あん!?」


 「コラ!?」


 突如現れた族長と呼ばれるヤンキーがコラヤンのリーゼントを掴み、片手で持ち上げ侍太郎目掛け投げつけた。


 「ぬぅん!!!!!!」


 「コラぁああああああああ!!!!!!!」


 拳一閃。コラヤンは絶叫と共に離散していく。黒い霧が晴れた後、侍太郎は族長なる人物を睨みつけた。


 「……貴様が親玉でござるな?」


 「あん? そうだよ。俺が【虎鵜燃麗(こうもり)】の頭やってる【炎陣暴走(フルスロットル)】のアアンだよ。ああん? 夜露死苦ッ!」


 高らかに自らの【称号】と名前を叫ぶアアン。叫び声と共に彼のモヒカンの先端から炎が噴射された。


 拳を構える侍太郎とポケットに手を突っ込み堂々と立つアアン。草木を撫でていた筈のそよ風が両者の間を一度横切り、侍太郎の褌とアアンのモヒカンの火柱を揺らした。

 

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