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第五幕

 「侍だ……! ほんとに、ほんとに来てくれたんだ!!」


 絶体絶命の危機に現れた侍太郎を見て、リコちゃんは歓喜の声をあげる。彼女の声に優しい微笑みで返した侍太郎は、眼前に立つデイオに白刃が如き視線をぶつける。


「ほう、まさか本当に侍とやらが来るとは……。わざわざ異国の地で骨を埋める為に来たんだろう? いやぁ感心感心」


そんな視線に臆することなく、デイオが煽る。


「否、拙者は骨を埋めるつもりで来た訳ではござらん。約束を果たしに来たのでござる」


侍太郎は着物の袖から1枚の紙を取りだし、デイオに突き出した。


『お侍さんへ。私の名前は【向日葵 莉子(ひまわり りこ)】です。十一歳です。私は今ナーロッパ大陸にお父さんとお母さんと妹と弟と犬のジョセフィーヌと暮らしてます。街の皆は優しいですが、いつも悲しい顔をしています。吸血鬼に襲われて血を抜かれて殺されるからです。このお手紙を読んだお侍さん。どうか吸血鬼を倒してください。街の皆に希望の明日を届けてください』


 「これって、ウチが書いたお手紙じゃん!」


 侍太郎の取り出した紙にリコちゃんが反応を示す。少々荒い字で書かれた文章であったが紙がへこむ程力強い執筆跡は間違いなく彼女が書いた手紙であった。


 「拙者、侍の侍太郎。異国の地の民を護らんとするリコちゃんとの約束を果たすべく、デイオ! 貴様を打ち倒す!」


 「ふん、面白い……! ならばこのデイオ、吸血鬼として貴様ら人間がどう抗おうが敵わない、生物としての圧倒的な力の差を見せつけてやろう!!」


 デイオは血を再び凝固させ始め、血みどろしい大剣を錬成させ構える。殺伐とした空気が辺りに漂い、これから始まる死闘の空気にリコちゃんは思わず固唾を飲んだ。


 「ぬぅん!!!」


 そんな死闘の口火を切ったのは侍太郎だ。両者の剣がぶつかり合い、凄まじい衝撃音が響き渡る。


 「ぬぅん! ぬぅんぬぅん!!!」


 侍太郎は臆することなく、次から次へと攻撃を浴びせていく。デイオはその攻撃を防ぐ一方で、ジリジリと後退せざるを得ないでいる。


 「凄い……! あのデイオが追い詰められてるなんて……! このまま押せば侍太郎が勝てる!」


 「ぬぅんぬぅぬん!! ぬぅぬん!!!」


 猛攻を続ける侍太郎に希望を見出すリコちゃん。しかし、防戦一方のデイオは冷汗一つかかず、それどころか不敵な笑みすら浮かべていた。


 「ほう、これは予想以上のパワーよ。ならば! これならどうだ!!」


 「ぬぅん?」


 デイオが両目を思い切り見開く。すると彼の瞳孔に血が集まっていき不気味に煌めく。


 「死ね! 死線はまるで(ブラッド・デス)レーザービーム!!!」


 デイオの両目から物凄い速度で発せられたレーザービーム。瞳孔より小さく血を圧縮させたことにより繰り出されたソレは常人の反射神経なら回避不可能。ましてや不意を突かれた至近距離からの一撃、流石の侍太郎でも避けることは出来ないであろう。


 「ぬぬーぬぬぅんッ!!!」


 しかし、侍太郎は驚異的な反射神経で刀を使い、レーザービームの軌道を逸らした。軌道がズレたビームはそのまま館を貫通し、流星の如く夜空へ消えた。


 「な、なにっ!? このデイオの死線はまるで(ブラッド・デス)レーザービームを見切るとは……!」


 「ぬぅん!!!」


 「うげぇえええ!!!」


 閃光一閃。侍太郎の刃がデイオの上半身を切りつける。切り口から血飛沫を噴出させながらデイオは倒れた。


 「ぬぅん! これにて一件落着!」


 侍太郎は刀に付いた血を払い除け、鞘に納める。


 デイオの瞳が一瞬光った際に次なる攻撃を予測出来た察知能力、そして実際に身体を反応させられる反射神経。幾つもの死線を潜り抜けた経験値とビームに耐えられる強度を持った刀、それが侍太郎の勝因だったのだ。


 「勝った……! 本当にあのデイオに勝っちゃったんだ! やったぁ!!」


 侍太郎の勝利に歓喜するリコちゃん。侍太郎はそんな彼女に安堵の笑みを零し、彼女の拘束を解こうと歩を進める。


 そんな時だ。


 「う、うげぇ……! このデイオが蛙の小便よりしょっぱい一太刀を受けるとは……!」


 倒した筈のデイオがよろよろと起き始める。その気配を察知した侍太郎は瞬時に振り返り、もう一度葬らんと刀を振り下ろした。


 「ぬ、ぬぅん……!?」


 先程よりも力を込めた渾身の一撃、ソレをデイオは両手でしっかりと受け止めたのだ


 「……人間離れした肉体(パワー)俊敏さ(アジリティー)、そしてこのデイオを斬り倒す程の刀。侍太郎、貴様のことは素直に称賛してやろう」


 「ぬぬぬぬぅん……!」


 侍太郎は刀を引き抜こうと力を入れるがピクリとも動かない。これが先程まで致命傷を負っていた者の力なのか? まるでエアコンがガンガン効いた部屋に迷い込んでしまったような、そんな嫌な悪寒が走る。


 「最大限の賛辞として! このデイオの真の力を見せてやろう! くらえ!ウニィイイイイ!!!」


 「ぬぅん!?」


 デイオが叫ぶと彼の両手から冷気のような物が発生される。見る見るうちに両手が氷になっていき、デイオが握っていた刀身が凍り付いていく。


 「ウニィイイイイ!! 砕け散れッ!!!」


 そしてデイオが両手を高く上げると、刀身は見るも無残に砕け散ってしまった。唖然とする侍太郎に霰状になった自身の刀が降り注ぐ。


 「ウニィイイイイ!! このデイオが只の吸血鬼だと思っていたのか間抜けがぁ! 【称号持ち】の吸血鬼は血の操作に加えそれぞれの固有能力を持ち合わせているのだ!!」


 デイオは氷のツブテを生成し、侍太郎に投げつける。咄嗟に避けた侍太郎だったが、それは囮、一瞬で彼の背後に回ったデイオは肩を掴み、逃げられぬよう爪を思い切り食い込ませた。


 「ぬ、ぬぅん!!」


 デイオから離れようとする侍太郎であったが、彼が食い込ませた爪は釣り針のような返しが施されており抗おうとするたびに余計食い込んでしまう。


 「そして【夜の支配者】の能力は凍結! 侍太郎、今から貴様に夜の凍てつく寒さを味わせてやろう!!」


 「ぬ、ぬぬぬぬぅ……! ぬ、ん…………」


 首元から全身へと氷に浸食されていく侍太郎。身体を動かそうとも力が入らない。彼の心の動力源、正義の灯も、極寒の夜の寒さの前に熱を失っていった。


 「侍太郎! 負けちゃやだ! 頑張って! 侍太郎――え?」


 リコちゃんの懸命な声援も空しく、侍太郎は負けてしまった。


憧れだった侍は、自身の目の前で氷像と化してしまったのだ。


 

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