現実は甘くない
「……ねぇ、フローライト。私にはあれが恐ろしく大きなプリンに見えるのだけど、一体何なのかしら?」
「えぇ、私の目にも大きなプリンが見えております、お嬢様。おかしいですね……私の身長より高さがあるプリンですか」
「いくら甘いものに目が無いとはいえ、あんなものは食べられないわね。どこのだれが作ったのかしら」
「うちのシェフ以外にこの場所にこんなものを作れる人間は居ませんね」
庭の真ん中に巨大な皿が置いてあり、その上には巨大なプリンが乗っている。
どう見てもプリンだ。
フローライトの身長は180cmを超えるけれど、恐らくその身長を越えている。
「あんなもの、食べきれるのかしら……」
「お嬢様。頑張って食べましょう」
「私が!?」
「それ以外に誰がいらっしゃるんですか?」
彼女は絶望の面持ちで自ら専属の執事を見た。
その顔には、とても分かりやすく『信じられない』と書いてある。
「わ……分かったわよ、食べればいいんでしょ」
渋々プリンの方へ歩き出す。
近づけば近づくほど大きくなっていくそれは、確かにフローライトの身長を少し超えていた。
何故か都合よく傍に置いてあったスプーンを手に取ると、お嬢様――フランはプリンに手を伸ばす。
「いくわよ……」
「陰ながら応援しております」
「一緒に食べてよ」
「嫌でございます」
他愛もない話をしながらプリンを口に入れる。
とろける柔らかな触感、滑らかな口当たり、甘く程よい香り。
これならいけそうだ。
暫く食べ進めるうち、段々とお腹がいっぱいになってくる。
少しは耐えていたフランも、そろそろ音を上げる頃になった。
「ねぇ……残しちゃ駄目かしら」
「小分けにもせずに口を付けたのはお嬢様で御座います。頑張って食べて下さい」
「どうしてよ……なんでこうなったの」
「うちのシェフが元凶で御座います」
「いくらなんでも多過ぎよ! もう食べられないわ!」
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「もう食べられないわ!」
「……どうなさったんですか、お嬢様」
「あれ、フローライト……? もしかして、今のは夢だったのかしら?」
「何か食べ物の夢でもご覧になりましたか。食べきれないほどの何かを?」
フランは寝ぼけた頭で一生懸命思考した。
最終的に、口から出た言葉は「プリンが……」であった。
「プリンが食べきれないほど夢に出てきたのですか。いくら好きでも、多すぎるのも問題ですね」
「そうなのよ……貴方より大きなプリンだったのよ」
「なんですかそれは」
喋りながら身支度を整え、寝ぼけ眼を擦りつつ食堂へ向かう。
食事が出されていき、軽めのメニューを食べ終わる頃。
「お嬢様! 今日は特別に特製のデザート作りましたぜ」
主厨房の責任者たるシェフが持ってきたのは、大きめのお皿に溢れんばかりの――。
「プリンじゃない! もう嫌ぁ!!!」