冒険者として
「扉です…!皆さん、扉がありました!」
ミカさんが困惑したような声で叫んだ。
私は大剣から手を離した。
しかし、この先に何があるか分からない以上、警戒はまだ解けない。
その場所は開けていたため、全員が横一列に並び扉の前に立つ。
扉は鉄製で、明らかに人工的に造られた物だった。
「隊長、鍵が開きました!」
探検隊の一人が鍵を開けると、ミカさんは頷いて扉に手をかけた。
ぎいっ…と音が鳴り、扉が開かれると同時に、ミカさんのランプが扉の先を照らす。
「これは…」
そこには、大きな宝箱と、沢山の宝石があった。
「違う世界からやってきたんです」
「行くあてがないんです。どうか中に入れてください」
襲い来る怪物をぎりぎりで倒しつつようやくたどり着いた町で、門番にそう懇願することしか出来なかった。
誰でも良かった。
助けて欲しかった。
けれど、私のような、違う世界からやって来たと話す怪しい人間なんて、当然誰も手を差し延べてはくれなかった。
記憶が混乱しているのだろうと思われて中に入れて貰えただけでも、怪しい者だと勘違いされて投獄を免れただけでも、私はラッキーな方だったのだ。
そして私は、命からがらたどり着いたその町で、この世界での生き方を学んだ。
身元の分からない私を雇ってくれる場所なんてあるはずがない。
この世界の戸籍すらない私が一人で出来る仕事なんて、たかが知れていた。
身元不明でも就くことができる職業。
かつ、この世界を探索する事が許される職業。
それは、『冒険者』だ。
私は、選ばなければならなかった。
『冒険者』として命懸けで怪物と戦いながら帰る方法を探すか。
それとも、他の職業に就いて、この世界で生きていくか。
それとも、このまま何もせず、餓えて死ぬか。
私は『冒険者』として生きる道を選んだ。
死にたくなかったから。
私は、元の世界に帰りたかった。