最初の記憶
やがて、少し開けた空間に来た。
「全員、止まって下さい」
私の前を歩いていたミカさんの声が洞窟に響く。
また怪物だろうか…と私は背中に背負った大剣に手をかける。
この世界に来てから、ずっと私を支えてくれた大切な相棒だ。
この大剣がなければ、私はとっくの昔に死んでいたのだから。
「(ここは、どこ?)」
気が付くと、私は草原の中に一人で佇んでいた。
人、人を探さないと…。
私はしばらく立ち尽くした後、なんとか歩き出した。
「あれ?これ何…?」
手には大きな大剣が握られていた。
ぐる…。
何かの唸り声がした。
目の前にいたのは、私の居た世界では到底ありえないような、牙の鋭い大きな兎。
「(え、うそ。私、死ぬの…?こんなわけわかんないとこで…?)」
私がどれだけ怯えても、兎は待ってはくれない。
相手にとって、私はただの『補食対象』なのだから。
はっと、手に持っていた大剣に目をやる。
「(これは、やるしかない…)」
兎はこちらに向かって来る。
考えている暇なんてなかった。
「死なないためには、やるしかないんだ…!」
私は覚悟を決めて、向かって来る兎を目掛け、大剣を振り下ろした。
兎の体に刃が刺さる感覚が手に伝わってくる。
そして、赤い血を吹き出しながら、兎はゆっくりと地面に倒れた。
これが、私がこの世界にやって来てからの最初の記憶だ。