勇者の行方
「やった、倒せた…」
「凄いですね!利子さん!」
勇者との特訓のおかげで、私は強い怪物でも一人で仕留められるくらいには強くなっていた。
ただ、あの半年間の地獄のような特訓の時は、毎日本気で勇者を殺したくなったものだ。
そもそも、今回雇われたのだって『探検隊の護衛』として、だった。
「助かりました。私は戦うとなればからきしなので」
「いいえ。先に進みましょう」
あの勇者。そういえば『助かった』なんて一度も言ってくれなかったな。
『よくやった』とか、上から目線な言葉は何回も言われたけれど…。
ふと、戦いの後で故郷に帰った勇者の事を思い出す。
四人兄弟の長男だった勇者は、戦いが終わった後、故郷で農家を継ぐと言っていた。
あいつ、元気にしているだろうか。
魔王を倒した後、故郷に帰る勇者を見送りに行ってやった。
前日に他の仲間達とは別れを済ませたようで、見送りに来ていたのは私一人だけだった。
「あんた、これからどうするんだ」
「どうするって、私のやることなんて変わらない。元の世界に帰る方法を探すだけ」
「ふうん、そうか。それじゃあ、また会えたらよろしくな」
「…また会えたらね」
それが最後の会話だった。
あれ以来、勇者には一度も会っていない。