勇者と私
この異世界に来てからの私は、ただ帰ることばかり考えていた。
それは、魔王の幹部を倒してドラゴンの町を救ったからといって、変わることはなかった。
苦しいトレーニングの末にA級冒険者になったのだって、恐ろしい怪物の潜む危険なダンジョンに入るのだって、全ては帰る方法を探すため。
いざという時お金が必要になるかもしれないと思って、高額で危険な依頼も進んで受けていた。
ある日突然異世界にやってきた娘がひたすらそんな事を続けていたから、私はそれなりに目立っていたんだろう。
だからきっと、あの勇者は私に目をつけたのだ。
「勇者?」
「そうだ。あんたは確か、元の世界に帰る方法を探してんだろ?」
「そうだけど、だから何?」
「俺と仲間達は勇者として、半年後に魔王を倒す旅に出る。もしかしたら、魔王を倒せば元の世界に帰れるかもしれないだろ?」
「私、ただの冒険者だよ?魔王の手下を倒したのだって、本当に何とか倒したって状態だった。勇者のパーティーなんか入れるわけないじゃん」
「なら、俺があんたを鍛えてやる。この半年間で勇者のパーティーに入れるくらい、強くしてやる」
ただし、鍛えるとなれば、俺は甘くないけどな。
いずれ勇者として魔王を倒すことになる少年は、そう言って不適な笑みを浮かべていた。