ベーイ・ブレィ・ドゥー
三回目の動画アップ。
今回は前回、前々回の失敗から学習し、録画配信である。万が一の事が起こっても編集で何とかなるから見ている者は安心だ。
和風のゆったりした音楽が流れている。斜め上から、かやぶき屋根の古民家が映し出され、アップになっていく。
画像が移動。庭でチョウチョウをヨタヨタと追っているネルちゃん。生まれたモノは仕方ない。マスコットとしてこき使ってやろう。カワイイは高評価。そういう大人の意図が見え見えだった。
カメラは移動し続ける。台所裏の窓……が焦げている。焦げを見つめるイオタさんの後ろ姿。耳が横に寝ていて寂しげだ。
そして画面が変わって……今回は畳の間だ。
もう火を使う動画は懲りたらしい。大きく方向転換だ。
「さて、今回より、火を使わない動画配信に変更いたした。ご安心めされよ」
イオタさんのバストショットから始まった。
「今回より配信するのは、いわゆるお子様のオモチャにござる。お子様のオモチャならば、少々乱雑に扱っても事故は起きぬであろうし、変な生き物も生まれぬであろうというお達しにござる。下っ端として、上からのお達しには従わねばならぬ。宮仕えの辛いところ」
なんか、不満があるのだろうか、イオタさんの言葉の端々に険が含まれていた。
「さて今回取り扱うのはこちら、ベーイ・ブレィ・ドゥーと申す、いわば独楽にござる。とくとご覧あれ」
イオタさんが取り出したのは、現代風にアレンジ再生されたベイゴマだ。
「名前が付いておって、……なんだこれ? そうそうドラゴン……『かいざぁどらごん』にござる」
中央にドラゴンの意匠。当たると痛そうな稲妻形の縁取り。虹色のホログラム。ずっしりと来る手応え。なんか強そう。
「歴代最強とされておる。何度か回してみたが、確かに強い。なんか腹が立つくらいに強い」
冒頭より、イオタさんの機嫌が悪い。
「そして、ベーイ・ブレィ・ドゥーは2者による対戦ゲームにござる。かいざぁどらごんを使うのは、ナレーター氏」
『えー、ただいまご紹介にあずかりました、ナレーターです。今回、どうしても対戦相手が必要と言うことで、わたしが出しゃばることになりました。わたしが使用するベーイがカイザァドラゴンです』
声だけの出演だ。相変わらず涼しげなハンサム声だった。
『で、イオタさんは何をお使いですか? わたし、まだ聞かされていませんが?』
ちょっとだけ、ちょっとだけ不安要素が顔を出した模様です。
「最強のベーイに正面からぶつかってはいけないのでござる。対抗するには、斜めの戦法をとるが定石」
イオタさんが悪い笑みを浮かべた。これは余程自信をもてるベーイに違いない。
「ところでナレーター氏よ」
『なんですか? イオタさん』
「強いベーイを使って何が面白い?」
『楽して勝てるから、ですかね?』
「そのような力に奢れる愚かな者に、拙者が天誅を加えるために選んだのはこれ!」
イオタが取り出したのは……標準的なベーイにしては、直径が大きい?
「トラィピーオにござる!」
それは大径の羽が付いたベーイ。
「この羽が生み出す上昇気流により、ベーイは地に押さえつけられ、滅多なことでは倒されぬ。加えて、巨大な直径が生み出す遠心力! そこから繰り出されるパンチ力! 最強のベーイの牙城を崩すのはトラィピーオにござる! いざ勝負ッ!」
イオタさんがカイザァドラゴンを先にシュート。
『あ、ずるい!』
ご存じの方も多いと思われるが、先にシュートしたベーイが耐久力的に不利とされる。
ナレーター氏は黒子に徹しているので、カメラの前には出てきません。それを利用した戦術である!
そして、満を持してトラィピーオをシュート!
「ゆけ! トラィピーオ!」
結果から言おう。
ナレーター氏の圧勝であった。
知ってる人は最初から知っている結末にござる。
次回、トラィグール編に続く。
結果から言おう。
トラィグール編は、企画中止となった。
トラィピーオ編の惨憺たる戦歴(イオタさんが泣きの再戦を3回やった。大変見苦しかった)に、視聴者から大いにツッコミ及び非難が入り、メッセージは大喜利と化した。SNS上での大喜利は、終わりのコンテンツを意味するとされる。
盛大にイキったくせに、用意したベーイの正体がクソザコベーイだった。こうなっては恥ずかしくて続編が作れない。
和風のゆったりした音楽が流れている。斜め上から、かやぶき屋根の古民家が映し出され、アップになっていく。
画像が移動。庭に生えている青菜を美味しそうに啄むネルちゃん。マスコットとして定着している。この部分、そこそこ視聴率が高かった。
カメラは移動し続ける。台所裏の焦げた壁を映す。カメラマンはしつこい性格の人らしい。
そして画面が変わって……今回は野外だ。
山の中のどこか。周囲に太い木がたくさん生えている。場所は坂道の途中で、平らになった所。後方に土剥き出しの崖。ずいぶん前に崩れたのだろう。崖の所々に草が生えている。
映し出されたのは、オフロードバイク。それも電動スポーツタイプだ。すっごい細っいの!
電動って事はバッテリーだ。二酸化炭素を出さない。ただし充電する先の発電所の熱や二酸化炭素排出率並びにリチウム電池の廃棄後の環境への影響等々を当方は関知しない。
オフバイクの向こうに立つ、勇ましい姿はイオタさん。
ピチッとフィットしたツナギを着用。白地にアカのラインがかっこいい。ウエスト両脇部分に黒が入ってるので細く見える。お尻からは安定の尻尾。
今回、イオタさんはバイクにチャレンジするのだ。
「このばいく、電動にござる。ここがばってりぃで、かように取り外しができる」
イオタさんは自信満々、手慣れた動作でバッテリーを外す。
「りちぅむ電池と申して、その、なんだ、充電式の凄い電池にござる」
リチウム電池の説明ができないのはご愛敬。
「しかも、それを違法に改造。電池の圧は3倍。電気の流通経路もなんだかんだで太くなっておる」
『明らかに違法改造ですが、日本国憲法は人間向けの法律であり、ヌシに対する縛りはありませんので問題なしです』
ナレーションとテロップが入る。
イオタさんが位置に着く。カメラは背後からだ。
細い腰と、張り出したお尻の立体コントラスト曲線美がなんともげふんげふんである。
「では参る」
すっとシートに跨るイオタさん。お尻が逆ハートになっていて、中央の生地を割って黒い尻尾がゆらゆら揺れている。
『イオタさんはヘルメットを被ってませんが、日本国憲法は人間向けの法律であり、ヌシに対する縛りはありません。よって合法です』
またナレーションとテロップが入った。よい子は真似しちゃいけないぞ!
スタンドを跳ね上げた。
「そりゃっ!」
かけ声も勇ましくウイリーでスタート。暴れる鉄馬を前傾姿勢で押さえ込む。こいつ、電動のくせに、パワーは侮れねぇ!
……あれだ、イオタさん、以前から馬に乗りたがっていた。有る意味、願いが叶って舞い上がっているのだ。
道無き林道を颯爽と駈けるイオタさん。後を追うカメラ(バイクの速度に付いていっているの草)。
張り出す根っこも何のその! スタンドの上に立って、股の下のバイクを右に左に振り回す。後輪を滑らせ、二輪ドリフトでコーナーをクリア。緩い坂道をパワー任せに駆け上がっていく。やればできる子じゃん!
道が開けた。
イオタさんの前に崖が現れた! 崖は戦う気満々だ!
本日のメインイベントである!
道は途中で途切れている。途切れた先に、下を流れる清流が蛇行している。道は川を挟んだ向こう側に有る。
ここを越えるには、川を越えねばならない。
そのためには、まず崖を登り、頂上部を走り、遙か下の流れをパスし、向こう側の崖を下る。という手順を踏む必要がある。
「はっ!」
気合い一閃! イオタさんは崖に挑む!
垂直に見える崖だが、その実はある程度の斜角が付いていて、垂直じゃない。
表面に凸凹が少しでもあれば、ブロックタイヤが掴んでくれる。
――テクが要るが!――
イオタは体をバイクに寝かせるように、横から見れば、垂直にして体重を極端に前方へ移動。自分の膝とバイクのサスペションを使って昇っていく! 昇っていく!
ここまでノーミス! マーベラス!
ネコは50年生きればネコ又になるという。江戸時代のお侍さんも500も生きればバイクに位乗れるだろう。
……実際、自転車に乗るところから始め、加速とヌシの力を使ってまで努力した結果、驚きの短期間でウィッシュボード3連を一跨ぎできるまでに成長。もともと、運動神経が良い方だ。一度コツを掴んだら後は早かった。今ではエアターンまでこなす腕前を誇る。
その慢心がいけなかった。
崖の頂上まであと僅か。最後の瘤を越え――
『まくれたぁー!』
ナレーションの人が叫ぶ!
後方へひっくり返ったイオタさんは、お腹にバイクを乗せたまま、崖をズゾゾゾっと滑り落ちていく!
下は清流。ドボン確実ッ!
何回かバウンドするも、バイクを抱え込んだまま。このままではイオタさんはバイクの下敷きだ。
「とうっ!」
イオタさんは何回目かのバウンドを利用して、バイクから分離ッ!
空中で体を捻り、足から川に着水! 盛大に水しぶきを上げる。
腰辺りまでの深さだったのが幸い。流される事もなく――。
ドゴォッ!
イオタさんの肩口に落下してきたバイクが直撃!
バイクもろとも、もんどり打って水中へ没する。
『えーっと、あのバイクは、バッテリー駆動でしたよね。リチウム電池の』
ナレーションの人の声が震えていた。
ボシュッ! ボボン!
オレンジ色のまぶしい光。リチウム電池が発火、爆発した。
止め絵、そして流れるGteWild。画面がフェードアウトしていく。
ややあって……
「酷い目にあったでござる」
濡れ鼠ならぬ濡れネコのイオタさんがぼやく姿を映し出して、エンディングテーマが流れる。そして今度こそブラックアウト。ENDの文字が下から上に流れていく。
続いて「よい子は真似できるものなら真似てみな!」の挑発的な文字が、その後を追いかけるように流れていった。
夜のとばりが降りる頃。外は雨が降っていた。
囲炉裏の火がちろちろと揺れている。
ネルちゃんが、座布団の上でリンゴを囓ってる。
「寒いでござるな」
なにやら外で用事をしていたのだろう、肩と髪を濡らしたイオタが入ってきた。
『火に当たって温もってください』
香箱座りをする虎サイズのミウラ。顎を床に着けてだらりとしている。
「さむさむ」
呪文のように唱えながら、パッパと着物を脱いでいくイオタさん。囲炉裏口に上がった時点で素っ裸になっている。
「おおー」
バフンとミウラの背中に体を預けた。
『なに嬉しい事してくれてるんですか? 火に当たらなくて良いんですか? それとも甘えたいんですか?』
「火に当たるより、ミウラの毛皮の方がぬくいでござる」
イオタは毛皮に顔を擦りつけモフモフを楽しんでいる。
『ではもっと暖めてあげましょう』
ミウラはごろりと横回転。イオタを抱き込むようにして腹の下に敷く。
「むー、重いでござる」
イオタは悪態を付きながら、ミウラの喉元の柔毛に顔を埋める。
そのまま2人は動かないでいた。
ネルちゃんもイオタ達をチラ見しただけで、残りのリンゴに取り付いた。いつもの事だと関心が薄い。
「なあ、ミウラよ」
『なんです、イオタの旦那?』
枝の爆ぜる音と、ネルちゃんの咀嚼音、そして雨音だけしか聞こえてこない。
「前にミウラが言っていた、もう1人の某らの事でござるがな……」
『はい、そういえばそんなこと言った記憶がございますね。どうしました?』
イオタは下からミウラの首に両腕を回した。
「あやつらも巡り会って、結婚していてほしいと思うたまでよ」
『……きっと巡り会って、結婚していますよ。子供だって生まれていることでしょう』
ミウラは上から前脚を回し、イオタの首を抱きかかえた。
『女の子なら……』
澪らはチラとネルちゃんを見る。
『女の子ならネル』
「良い名にござる」
火にくべた枝の尻から出た樹液が火に当たり、ジュウと音を立てた。
『男の子ならエラン』
「それはやめよ」
イオタはミウラの肩を強く抱き寄せた
その後もイオタさんとミウラは、こんな緩い感じでずっと一緒に生きていきます。
―― 結 ――
これにて、お終い。
長い間、お付き合い有り難うございました。
イオタの旦那とミウラの2匹。こいつら走るわー。
また何処かで設定変えて書くかも?(微)です。
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↓ 設定変えて書き直してます。
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