お料理シリーズ2 天ぷら
和風のゆったりした音楽が流れている。斜め上から、かやぶき屋根の古民家が映し出され、アップになっていく。
画像が移動。庭でチョウチョウをヨタヨタと追っているネルちゃん。
カメラは移動し続ける。台所裏の窓から、なにやら作業をしているらしきイオタさんを覗き見る構図。
ここまでが録画再生。これよりライブである。
「本日は青菜の天ぷらを揚げるでござるよ。天ぷらは得意中の得意にござる。天ぷら以外作らぬので、みな安心して見ておるがよい」
ものっごそ自信満々のイオタさんだ。胸を張ってる。
「使用する野菜は、ヨモギ、菊菜、大根菜、あと、かき揚げも作ろうと思うておるので、タマネギとにんじんも少々。洗って汚れを落とした後、水気をよく拭き取る」
水洗いした青菜を布巾に包み、よく水を切る。
「効率よく調理を進めるには、二つの仕事を同時に行うことに尽きるでござる。ではまず、油を温める準備から」
イオタさんは、七輪に火を入れ、うちわでパタパタ扇ぎだした。竈を使うと火加減が難しい。安全のため、揚げ物は、ある程度火加減を調整しやすい七輪を使うのだ。
風の通りをよくするため、小さくあけられた窓の下へ持って行く。
「五徳を乗せて火から遠ざけ、っと。小さな火で天ぷら油の入った鍋を温めていく。その間に、タネの用意でござる」
今回もライブなので、チャット欄がにぎわっている。
こんどはだいじょうぶでしょうね? 今日はどんな生物を作るんですか? 天ぷらは塩派ですか、汁派ですか? といった平凡なチャットが流れていく。
「用意したた天ぷら粉に、こうやってこうやって、衣をまぶして、次はヨモギで、こやってこうやって、おっと粉が足りない! 粉は…何所でござったかな?」
ゴソゴソと調理台の下をまさぐるイオタさん。
「あったあった。水と粉を足して、次は大根菜にござる。大根菜は複雑な構造をしておるので、念入りに粉を付けていく」
丹念に粉をまぶし、余計な粉を叩き取ってトレイに並べていく。
「手が汚れたついでなので、かき揚げの用意も致しておこう」
『イオタさん! イオタさん!』
ここでナレーターさんが割って入ってきた。前回のように慌てている。いや、前回より声がうわずっていた!
「なんでござるかな?」
イオタさんがカメラ目線になる。
『後ろ! 天ぷら油が!』
「なん?」
イオタが振り返る。カメラも、問題のブツを映し出す。
七輪にかけた鍋の上で、小さな火が踊っている!
「おわーっ!」
ボッ!
加熱しすぎの油に引火した。火はあっという間に柱のように燃え上がり、天井に届く勢い。風の流れで、炎の先が窓から外へ出ている。窓がなかったら天井に火が移っていただろう。
ちなみに、先に異変に気づいたカメラマンのミウラは手出しを控えている。なぜなら、ヌシであるミウラが写り込むのを防ぐためだ。ミウラが小さくなれることは絶対秘としなければならない。
よって、前回も今回も、一手遅れたのだ。
話は戻る――
慌てたイオタさんが、水瓶を怪力で持ち上げた。
『だめだ! イオタさん! 油に水はダメだ!』
若い男の声がカットイン。
おちついちて! おちけつ! 消火器消火器! 天ぷら粉による粉塵爆発! とチャットでも大騒ぎ。
画像が斜め向いて、地面を映し、ブラックアウトした。
『布で! 大きな布に水かけて、火を包み込んで、酸欠にするんだ!』
「ぬおーっ!」
がっしゃんどっしゃん、ばたばた!
黒い画面に音声だけが流れる。
なにがあった! イオタさん逃げてー! 酸欠知ってるヌシ ――チャットも大混乱だ。
『脱いだ服はダメ! いやそうは言ってらんない!』
「油が流れたぁー!」
『うおぉぉーっ! もはやこれまで! 雷撃!』
破裂音、そしていっさいの音声が途絶えた。
ライブ配信も終了したようだ。いや、機材が壊れて強制的に終了なったのだ。
シイッターにて……
2回続けて放送事故、だの、山火事は報告されてないから無事、だの、期待を裏切らないのがヌシ、だの、「#イオタちゃんネル」が史上空前の賑わいを見せ、最終的に大喜利と化して終息した。
シィッターの中の人は、さらなるサーバー強化に乗り出したとか。
『えー、反省会を開きたいと思います。被告人、前へ』
「はい」
耳が力なく萎れ、尻尾がダランと下に落ちているイオタさん。さすがに反省しているようだ。
『えー、前回は謎の生物錬成。今回は危うく火事。注意散漫にも程があります』
「面目ない。されど、これらは不可抗力で――」
『言い訳しない! どんなに努力しても、結果はアレです!』
ミウラが指す場所。壁が黒焦げになっている。
油をうっちゃらかし、広がった火によって焦げた跡だ。いまだに天ぷら油の香ばしい匂いが漂っている。
『土壁だから良かったものの、木でできた建材だったら、まるっと家一軒消失でしたよ! それに機材のほとんどがおシャカです』
「それはミウラが雷撃を――」
『人のせいにしない!』
ミウラが消火のためにはなった電撃は、撮影用機材に致命傷を与えたのだ。
撮影用カメラはもとより、照明、集音機、配電盤、果てはパソコンまで逝ってしまった。……幸いなことに、後日、パソコンからデーターを引き抜くことができたが。
現在、公的な館は停電状態である。
『代わりの機材はミウラ神社に用意してもらうとして、イオタの旦那には、教育的指導が必要です。今回はわたしが上ですからね!』
「おいそれは職権乱用――」
イオタさんは押し倒された。
上になると言っても、イオタさんの腕にミウラの頭を乗せる。いわゆる腕枕のことである。
そこから寝技にはいることは無い。腰を振ることもない。無いったら無い! いいか、無いんだぞ! と何度も念押ししておく。
こうして夜は更けていく。
次回、最終回となります。




