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会見終了


 艦砲射撃艦隊全滅事件。


 ザワザワがうるさい。あの一件、誰もがヌシの関与したものだと思っている。教科書にも載っている。それを追認しただけだ。


「馬鹿でかい砲弾を撃ち込まれて、庭先に植えておいたツツジが土ごと捲れ返ったのでな。仕置きをした」

 こともなげに3歳児イオタちゃんが言う。


「仕置き? 反撃の事ですね? それにしては残酷でありませんか?」

 アレジは肩をすくめ、太い眉を寄せた。


「仕置きにござる。ヌシは人を子猫ほどにも見ておらぬ。あの艦隊がミウラのヌシの住まいするイズの地を砲撃した。それは、東京市街を焼夷弾で焼いた爆撃機をミウラのヌシが撃ち落とした事への報復でござろう?」

「物の見方によります。戦争ですから」


「報復でござろう?」

「……おそらく。戦争中に攻撃されて、報復してはいけませんか?」


「戦争は人間同士がやっておればよい。拙者らヌシに関係はない」

「でしたら――」

「なれど、貴殿の家の壁や塀が壊され、庭に穴を空けられたら怒りはしないかな? イエスかノーで答えていただきたい」

「……イエス」


「ならば、拙者の行動は正当なもの。庭を砲弾で荒らされてから報復したのだからな」

「それにしても残酷だと思いませんか?」

「ふむ……」

 それを言うなら無差別爆撃は残酷の範疇に入らないのかと。でもそれは、あえて言わない。


「ちょっと失礼する。この姿では前が見にくい」


 文机から顔だけチョコンと出しているイオタ3歳児。立ち上がってフンスと気合いを入れる。

 イオタの全身が陽炎に覆われ、身長が伸びる。あああ! という残念がる声があちらこちらから上がる中、元通りのハイティーンイオタさんが姿を現した。


「さらに――」

 着物が変化した。


 鉄鋼脚絆、大袖、腹には牛革の腹巻きコルセット風。最も目に付くところは、コルセットに締め上げられ、強調されたパイパイである。


「かような武装で乗り込んだところ、水兵達はにこにこ顔で斬り殺されに来おったぞ。まるで女子を初めて見た10代の若者のようにござった」


「あああああ!」

 アレッジは、頭髪を大きな手で掻きむしった。

「あ、あ、あの馬鹿共(ヤンキー)がー!」

 アメリカ人だもんね。仕方ないよね。


「そうそう、艦橋に押し入ったときでござる。扉を開けたら、両手を挙げて歓迎されてでござるよ。一番の偉いさんらしき男が、それはもうにこにこ顔で抱きついてきおった。顔が近かった。せくはら、でござるかな? 身の危険を感じた。だから斬った」

 アメリカ人だもんね。仕方ないよね。(注:イオタさんの私見です)


「……私の話は以上です」

 ヘアスタイルがクシャクシャになったアレッジは、マイクを手放した。


 その後の質問は、イオタにとってたわいない内容だった。人にとっては大事なのかもしれないが、イオタとミウラが想定していた最重点設定事項は終わったようだ。


 次、またもや外国籍の記者だ。 

 その記者は、何を思ったか、いきなり母国語をしゃべり出した。

「おまちください! 今会見は日本語のみとさせていただいております!」

 マイクを握った宮司が割ってはいる。記者の演説にも似た喋かけを強制的に中断させた。

「ああ、申し訳ありません」

 外国人記者は、照れたのか頬を赤く染め、侘びの言葉を口にした。

「かまわぬ」

 イオタさんはにっこり笑いながら、片手をあげ、記者を制した。制した?

「あー、」

 そこからイオタさんは、先ほど記者が喋った外国語をまんま真似して喋り出した。発音も正確だ。

 さらにいくつか文章を追加で綴った。

「――と、このように――」

 イオタさんの言葉が日本語に戻った。


「拙者、その方の母国語を喋れるのでござる。その方の言葉だけでなく、英語、独語、仏蘭西語、露西亜語葡萄牙語、阿蘭陀語も喋れる。ちなみに中国語は習得途中にござるが、悪口だけは習得済みにござる。外国語を習うに当たって、まず口喧嘩の方法から入ると習得が早くなるのでござるよ」

 そう言ったら、外国人記者は黙った。うつむいてマイクを次の記者に渡した。

「解ればよろしい。後日、貴殿の母国語に詳しい者が、全部訳して天下にさらけ出してくれるでござろう」

 イオタさんは笑ってなかった。

 

 難しい質問はここまでだった。

 以下、どうでもいい質問が続く。

「ミウラのヌシとの関係は?」

「上司と部下の関係にござる」

 

「好みの男性像は?」

「拙者、女ではござらぬ」

 

「お住まいは?」

「探ったらミウラのヌシに殺されるので気をつけるでござるよ。こないだも監視衛星とやらを撃ち落としおった」

 

「今後どの様な活動をなさいますか?」

「まだ考えがまとまっておらぬ」

 

「芸能界に興味はありませんか?」

「拙者、歌も踊りもできぬでござるよ。しかし、何らかの発信の場を設けたいと思ておる。ふわっとでござるがな」

 

 マイクを持った宮司が前に出てきた。

「さて、会見もたけなわでございますが、そろそろお時間が参りました。先の質問を最後として、会見を終了させていただきます。皆様、ご苦労様でございました」

 終了の挨拶だ。前もって決められた時間が過ぎたのだ。


「最後に一つだけ! もう一つ質問を!」

 食い下がるのは、次に質問権が回ってくるハズだったワイドショーの司会者だ(元俳優)。


 これを無視してイオタが立ち上がる。

「前もって決められたこと。無事帰りたくば、諦められよ」


 そして、イオタは柳眉をきりりと吊り上げた。

「これは貴殿らの体を気遣っての事にござる。もはや限界にござる」

 怒っていられるのか?


 空気を読んで、ざわついていた会場が静まりかえる。


「全員起立してイオタのヌシ様をお見送りください!」

 宮司の号令がかかる。

 全員、素早く立ち上がって――


 見事に転けたーッ! 隣の人にぶつかって将棋倒し!


 正座で2時間ッ! 足が痺れて体の自由が利かぬわッ!


「だから、体を気遣ったのでござるよ」

 阿鼻叫喚の地獄絵図。


 イオタのヌシは、悪戯が成功した子供みたいな笑顔を浮かべ、しずしずと退席した。

 これをテレビ(国営)で見ていたミウラは腹を抱えて笑ったという。

 あと某SNSのサーバーが3回目のダウンを迎えた。

 

 

 

「あのあと、もう一度記者会見を開けとミウラ神社につめかける者多数という話にござる」

『あっはっはっ! もう二度と開きませんよ! 旦那が開きたいというのならご協力いたしますが?』

「ごめん被る!」

 イオタは機嫌の悪そうな声を出す。


『ミウラ神社はホクホクですってね』

「気に入らぬわ!」

『参拝客が増えるわ、聖地だとかぬかす若者が増えるわ、3歳児イオタちゃん人型お守りが飛ぶように売れているとか! 過去最大の利益を上げ、さらに更新し続けているようです』


「あやつら、調子にのりおって! おみくじの余白にまで某の似顔絵を入れる始末!」

 大凶、とプリントされたイオタちゃんお神籤をクシャクシャに丸めてゴミ籠へポイ捨てするイオタ。


 神社のポスターは全てイオタの似顔絵入りに取り替えられ、イオタが手を付けずにおいていたはずの湯飲みが御神体扱いになっていた。

 イオタがポテチを買っていたコンビニは人がひっきりなしに訪れ、コンソメ味は製造が追いつかず、一時期出荷を取りやめたほどだ。

 挙げ句の果てに、中央主祭神であるミウラを左脇によけて、まん中にイオタを持ってきたりもした。


『大盛況です。この状況にオワリのヌシ様はご満悦でございます。お褒めにあずかりました。そしてイオタさんに伝言です』

「何でござるかな?」

『もっとやれ』

 イオタさんが刀を握った。


 八卦の呼吸をして、オワリのヌシを斬りたい欲求を落ち着かせた。


「で、ミウラよ!」

『何でございますか?』

「次、何をするのでござるかな?」


『そうですね。変にメディアとなれ合うのも嫌ですから……』

「嫌だから?」

 イオタが先をうながした。


『ヨウツーベ配信なんかどうです? イオタちゃん寝る、なんてね!』

「ようつぅべ、が何なのか解らぬがロクでもないことだけは解ったでござる!」


『ヨウツゥーバーを馬鹿にするな!』

「馬鹿にして欲しくなければ実力で通していただこう。丁度良い! 先ほどより憤懣の捌け口を探しておったところ!」

『いいでしょう! わたしが勝ったらイオタの旦那はヨウツゥーバーです!』

「ミウラが負けたらなんとする!」


『ハッ! もしわたしが負けたら裸になって逆立ちしてからイオタさんに跪いて許しを請い、全身マッサージをもう良い止めよと、いわれるまでしてさしあげ、足をなめて上になって情けなく泣き叫びながら腰を振って惨めに発射してくれましょうぞ!』

「言ったな!」


 ヌシ同士による一大決戦が行われた。

 体格的にミウラ有利と思われたが、あっさり敗北。

 イオタさんが勝利した!

 

 

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