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現代


 高度成長期を過ぎ、米国発バブル崩壊を経験し、なってはいけない人が3人ばかり総理大臣になり、どつかれながら引きずり下ろされ、なんやかんやでなんとかなってるようでなってない現代日本。


 とある冬の夕暮れ時。


「ただいま戻ったでござる」

『お帰りなさい』


 伊豆半島の隠れ家。その玄関先に変装したイオタがいた。

 今様のファッションに身を包んでいる。頭頂の耳はフードで隠し、変装の定番サングラス。不繊布のマスク。大きめのダウン。尻尾を隠すためのロングスカート。

 誰が何所から見ても寒がりな女の子である。


「残念ながら、ミウラの家はなかった。町の地図も違っていたし、町名すら違っていたでござる」

『そうですか、ハァ』

 ミウラはがっくりと肩を落とした。


『でも、まあ、予想は付いていましたし、旦那の方もダメでしたから、逆に諦めがつきました』

 先ほどよりは背筋が伸びたミウラであった。


 イオタさんが何をしてきたかというと――、ミウラの家を探しに出たのだ。


 ここは前々世の世ではない。とは理解している。

 だけど、ここまでそっくりな世界だと、前々世の自分が生きていないだろうか、いなくとも家くらい残ってないかとイオタに探しに出てもらったのだ。


 実は江戸時代において、同様に伊織田家を探しに出たのだが、やはり無かった。

 それ以前に町割りが記憶と違っていて、どうにもならなかった。ちなみに桜田門はあったが半蔵門は全く違う名前で存在していた。(=小太郎門)


 ちなみに、イオタさんの変装小道具はどうしたのかというと――


 家康公と出会う前から、ミウラは隠れ里の人々を保護してきた。

 保護するにあたり、簡単な組織を作っていた。地域によりいくつかの里の代表たる、いわば筆頭の里を決め、そこの長に連絡網の配備を任せていた。いわゆる、学級連絡網みたいな? とりまとめを依頼していた。


 そういったリーダー的な里の長が、やはりイキった。

 とあるリーダーの1人が、自分()を神社にした。ミウラ神社と名付けた。追従し、神社化した家は数軒だけであり、それも現代になるまでにイロイロと淘汰され、2軒だけになった。


 ミウラの本拠、三浦半島の付け根の北、畏れ多くも鶴岡八幡宮のあるはずであった場所に1社。これが主神社となる。かの家康公が何度も滞在し、首脳達と政を錬ったとされる、曰く付きの神社である。


 伊豆半島のどこだったかに残り1社。立場は分社である。でもこっちの方が大きい。商売が上手かった。


 あと、箱根にイオタ神社というのがこっそり建っていて、地元民に密かに信仰されている。パワースポットとして知る人ぞ知る神社である。


 戦争の後、ヌシ達は表だった行動を控えているが、あの巨体である。目立つ。ゆえに、週末に会いに行ける神様(ヌシ)として間違った人気が出ている。


 話が長くなったが、イオタは過去キリシタン騒動で因縁深い伊豆ミウラ神社の神主と渡りを付けた。

 この神社の神官達は狂信的なまでにイオタとミウラを信奉している。よって、「しばらくは」秘密が守れるであろうという甘い見通しを元に、黙っていてもらう代わりに、なにかとヌシらしいことをしておだて、使用人のように使っていたのだ。


 お忍びで出かける際の拠点ともなっている。


 宮司のお孫さん(巫女頭:27歳)の見立てた女子服コニクロをまとってのお出かけなのである。

 一度、見さえすればヌシの能力で作り出すことができる。だが、ミウラの前で着替えたとき、ミウラに押し倒され、うんぬんかんぬん(注1)それが思いの外、うんうんかんぬんだったので、何着か神社に申しつけて買わせた。もちろん、費用は神社持ちだ。

 神社は経費としてあげられるし、税金ないからしかたないよね。

(注1.センセーショナルな行為ではありません。古式柔道です。いいですか? センセーショナルな行為ではないのですよ。いいですか!?)


「これ、お土産のポテチにござる」

『あ! 海苔塩だー! 有り難う御座います!』


「ミウラは海苔塩が好きにござるな。どれ、某はこれでござる!」

『イオタさんはポリポリ、コンソメ味ですねポリポリ』


「海苔塩もいける口にござるが、どちらかを選べと言えばコンソメ味にござるポリポリ。コーラも買ってきたでござるよ」

 収納から2人分のコーラを取り出す。1.5Lボトル。ノンシュガーではない方。


「ぜろかろりぃ、とかが体によいと聞くが、某らは健康とは無縁のヌシにござる。不摂生を楽しもうではないか!」

『ぐびぐび、ぶはーゲブッ! ザマアみやがれ人間共! ゲーップ!』

「ヌシの勝利に乾杯ケプッ! このゲップな。ヌシにゲップさせるコーラってヌシの体にも悪いのではないか?」

『核兵器飲んでも大丈夫だったんですよ? たかがコーラのゲーフゥ! 10Lや20L!』

「でござるな! 核兵器の爆心地に比べれゲフッば、たかが炭酸クプッ何ほどのものでもない!」


 隠れ家の一つに、こっそりと電線を引き、冷蔵庫やレンジ、ホームごたつ(ネコの必需品)どころかテレビやパソコン、WI-FIすら稼働させている。全部経費はミウラ神社持ち。

 こちとらご神体ですからね。神社の収入源ですから問題ないよね。


『あ、また性懲りもなく!』

 何かに気づいたのか、ミウラが表へ飛び出し、巨大化した。

 遙か上空を見上げる。


集約電影弾(ブリッツァードライブ)! また無駄な衛星を落としてしまった』


 ミウラが放った細い弾丸は、成層圏を貫き衛星軌道へ届く。人工の衛星を貫き、機能を停止。デブリと化した。


「またにござるか? ここん所、間隔が短いな?」

『監視衛星ですね。上空も縄張りの一つと明記させたのですが、どうしても、バレないだろうと甘いことを考える者が後を絶たないようで。それとも衛星って安くなったのかな?』

 地上から衛星の狙撃である。

 ミウラはどうやってか、衛星軌道上まで感覚を伸ばしているのだ。


「覗きは嫌われるでござるよ」

『都市迷惑条例違反で、3万円以下の罰金です』


 各ヌシの居住区上空は衛星の配置、通過禁止である。だのに、何所とは言わないが違反する大型組織がある。違反なので問答無用で撃ち落としているが。文句があるならリングに上がれ!


「宴会の続きにござる」

 イオタさんはこたつに足を突っ込んでいた。


『お! ですがもうこんな時間。深夜ですよ』

「むー。ならばこのカップ麺を最後に……ってか、某らヌシは健康に気をつけなくても良かったでござる」

 ポットからお湯をカップに注ぐ。


『でしたね! ではわたしもカップ麺を。なんすかこれ? 濃厚豚骨醤油こってり背脂マシマシ後のせチャーシュー天ぷらですってぇー? おまけに麺はラード練り込み。なんて冒涜的なラーメンなんでしょう! 最高じゃないですか!』

「麺をすすった残り汁に、これを入れるまでが夜食にござる」

 イオタさんが取り出したのは、ただのの塩むすび。カップラーメンの残り汁におにぎりを投入してかき混ぜ、おじやとして喰らう。冒涜的なまでにうまい!


「よし、三分経った。ズルズルっ! 熱っ! 熱っ! ネコ舌を忘れておった! 迂闊でござる!」

『ヌシの特性を軽々越えてくるネコ舌って何ですかね? ふーふー! あちっ!』


「こういうときは冷蔵庫の氷を入れて!」

『旦那、氷、好きですね?』


「冷蔵庫にござるよ! 入れておくだけで冷えるのでござるよ! 人類はとうとうかような高みまで昇るに至ったか。それ、どぼどぼ! ズルズル。うん、冷えすぎ!」

『そりゃそんなけ入れれば』


「どれ、ミウラにも入れてしんぜよう。どばどばどば!」

『あーっ! 自分が入れすぎたからって! 倍は入ってるじゃないですか! わたしは熱いのが自然と冷めていくのが好きなのに!』

 体に電気を走らせるミウラ。ネコ舌のくせに冷たいラーメンは許せないらしい。


「わるかった! これをやろう。小倉餡とバターを挟んだ食パンを油で揚げた揚げ菓子でござるよ!」

『なんちゅう体に悪い物を食わせる気ですか! 頂きます。あむ! うまうま!』


「某はこのカチコチンに冷凍されたカップアイスを頂こう。ガブリ! うぐっ! 歯が! ヌシの歯でも通らぬ硬度とは!」

『ああ、そのお高いけど美味しいアイスね。それも堅いですが、あずきバーはもっと堅いですよ。ヌシといえど歯が折れますから、ご注意ください』


「なんと、人の手は不可侵とされるヌシの体に通る攻撃力とは! 伝説の魔剣にござるか?」

『たぶん、魔剣と打ち合っても勝てますよ。うまうま! っとおお! 体が冷えてきた。そういや今は冬でした。ちょっと温もりましょう』


 温もると言って、こたつに潜るミウラ。


「ちょっ! ミウラ! なにをす……ちょっ! そこはッ!(注2)」

 (注2.「そこ」とは足の裏の事です。センセーショナルな行為ではありません。たぶん足裏ツボ押しです。いいですか? センセーショナルな行為ではないのですよ。いいですか!)



 ……そういえば、ナリソコナイって、この時代どうしてるんだろう?


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