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ミウラ屋敷

「どういう事でござるかな?」

『へい』


 大きな体をしたミウラは小さくなって返事をしていた。返事をしていただけで説明をしようとしない。


「ここがお主の家である事は判った。で、この女性(にょしょう)は何でござるかな?」

 開け放たれた縁側にイオタは胡座を掻いて座っていた。ミウラは庭に居る状態。

 で、問題の女性は、おどおどしてイオタの後ろで控えている。


「それも五人も!」

『だって、これには訳が!』

「だってもヘチマもありません!」

 どこから取りだしたのか、手にした扇子をバチリと床にたたきつけるイオタさん。

 ミウラは耳を垂れて項垂れる。先ほどからイオタさん檄オコ状態。ミウラの反論を聞く耳持たぬマンになっていた。


「あ、あの、恐れ多くもイオタのヌシ様……」

 見かねた女性の一人が、思い切って声をかけてきた。どうやらイオタはヌシらしい。ヌシの恐ろしい怒りを向けられて命の危機を迎えること覚悟の声かけであった。

 イオタはクルリと振り返った。

「何でござるかな?」

 イオタは笑っていた。

「ひぃっ!」

 イオタは若い女性とお話しできて嬉しかっただけだ。だが、笑顔である事を深読みした女性は、顔を青くし口をわななかせた。


「怖がることはない。素直に申してみよ」

 だが、女性は息を荒くするだけで、話そうとしない。

 横並びで固まっている女性達も、お互いの手を取り合って震えている。


「うーむ、某をヌシと解って怯えておるか。仕方ない、どれ、某は怒っておらぬよ、事情次第でお里に帰してやろうと考えておる。どうせミウラに攫われていやらしいことをされておるのだろう?」

 いやらしいこと、すなわち性的にスケベなこと。羨ましい……、もとい、酷い仕打ちでござる。イオタが考えてることは大体そんな感じだった。


 女性は恐れて何も言えないでいる。イオタもイオタで、イオタらしくなく女性に不親切だ。

 若い女性となれば、イオタが食いつかないはずないのだが……。

 前世のイセカイにも美女はいた。デイトナさんとか。

 背が高く、目がぱっちりしていて睫が長い。手足が長くてウエストが細くてメリハリのある体。オッパイッパイ! まあるいヒップ。ボッキュバーンである。

 それが美人! それが正義ッ!(*イオタさんの個人的な感想です) イオタさんの性癖突き刺さりまくり! ……だった。


 で、ミウラ屋敷に集う、人身御供にされた美女達。

 皆一様に背が低くて一重まぶた。瓜実の下ぶくれ。細い目。低い鼻というか団子鼻。手足が短くて寸胴体型。オッパイナイナイ。痩せこけた尻。ストーンストーンストーンのミックヅャガーである。

 それがこの世界の美女!


 価値観の違いも甚だしい! 

 性的な意味で食指が動かない。触手があろうと動かない。

 ので、何とも思わない。引き留めようとも思わない。一緒に暮らしたいとも思わない。 


 逆に言えばイオタさん、あんた背が高すぎ! この世界の男子よりおっきい(とはいっても21世紀の日本男子平均より低いのだが)。目が大きすぎ! 二重って変! 胸が大きいし、腰が細いし、お尻おっき! おっきおっき!


 上から見下ろされるし、目がギョロギョロしているし、よく見れば牙生えてるし(*犬歯)で怖い! 妖怪ネコ耳女である。


 もといして、女達が怖がっているのが見て取れる。懐に入るのは無理だろうし、下手に嘗められても後々困る。どうしよう。こうしよう。


「ヌシとして命じる。お前ら、如何様な経過でここに居るのか? 教えろ!」

「はいっ!」

 命令されたほうが気持ちが楽だ。女達は全て話した。


「ミウラのヌシ様が、若くて美しい女の生け贄を求められまして。わたし達は各村々より集められた人身御供でございます!」

 そんなこったろうと思っていた。


「ミウラぁ?」

 語尾が上がった。イオタがミウラの目を覗く。

 ミウラは目を反らせて合わせようとしない。


「ミウラぁー!」

「はいっ! けして性的な目的で収集したわけではなく! 身の回りの世話とか、体を洗ってもらうとか、家の掃除とかしてもらうお女中のつもりで募集したつもりでしたのに、なんか勘違いされちゃって。今に至るというわけで。イオタのヌシならお分かりでしょう? 性的な意味がなさないことに!」

「うん、まあ」

 言葉に出せないが、ぶっちゃけ不細工だし(*イオタさんの個人的な感想です)。


「ならば、えーっと、ミウラのヌシ様……」

 人目があるので、取り敢えずミウラを敬っておいた。


「この子達は即刻、親元に帰してやろう。ほら、ヌシ様の元で修行したことになってるし、巫女さん的な? 今後の繋がりというか『責任』というか? ホラ」

『え、ええ、そうですね! それがいい! 1年の修行も終わって年季明けです! もう間もなく収穫祭ですから、それに合わせて各村へお返しするという事で」

「うむ、それがよかろう」

 まあ、この辺を落としどころにしよう。


 ミウラはかくはずのない汗を前足で拭った。

 女性達の間に歓声が走る。家に帰れる!

 それを吉祥にしたのか、女性の代表が口を開いた。

「あ、あのー、失礼ついでに無知な手前共にお教えくだされ」

「なんでござるかな? 遠慮せずに聞くがよい」

「今日初めてイオタのヌシ様とお会い致しました。ですがミウラのヌシ様とは昔からの御昵懇のご様子。是非ともイオタのヌシ様とミウラのヌシ様のご関係をお教えください!」

『「あー……」』


 まさか一切合切を教えるわけにはいかない。今後、ヌシとしてやりずらい。たとえ全てを話しても理解できないだろうし。

”どうする?” ”お任せください”

 イオタとミウラの間で意思の疎通が成った。まるでテレパシーのように。


『話をしたと思うておったが。そうか、無かったか。イオタはアレだ。人の言葉に最適なのが無いので説明しづらいな。そうだな、我の眷属と言えば一番近いかのう? ほら、背が小さいだろう? ネコだろう? ヌシになって10年も経っておらぬし。ま、そういう事だ。解ったな?』

「は、はぁ……あっ! 解りました!」

 ポッと頬を赤らめるお女中。そういう事かと納得した。


「そういうことでしたら、手前共はお邪魔虫という事で」

『いや違うぞ!』

 否定するミウラ。


”なんで否定する?”

 イオタから念話が届いた。


”超生命体であるヌシなのに夫婦って概念が可笑しいでしょ?” 

”そういえばそうか?”

 とういう意思の疎通が見られた。


『下世話な詮索に怒りを覚える。ヌシとして命ずる! この事、書き記すことはもとより、親兄弟夫婦にも話すことあいならぬ。命を違えば親兄弟、いや、村ごと、いっそミウラ半島ごと雷で焼き滅ぼしてくれようぞ!』

 ミウラは毛を逆立て、イカ耳で、やんのかステップで、女達を脅した。


「申し訳ございませぬ!」

「お、恐れ多いことで!」

「仰せのままに!」

 一斉にひれ伏した。


”イオタさん、ここで出番です。泣いた赤鬼作戦です”

”泣いた赤鬼云々は知らぬが、言いたいとは理解した。任せよ”

”あ、しまった。泣いた赤鬼発刊は二.二六事件の前の年でした!”

 そういうアイコンタクトが二人の間でなされた。ほとんどテレパシー。


「コホン、ミウラのヌシよ。人などを相手にそう怒ってもしがないこと。どうせ理解は出来まいて。某の顔を立て、許してやってもらえぬか?」

『うーむ、イオタのヌシがそう言うのなら。よかろう。許す』

「ミウラのヌシもこうおっしゃっておる。約束さえ守れば、お咎めはない。安心致せ。さ、そうと決まれば家へ帰る準備だ。親御さん方も喜んでくれるであろう」

 イオタはなるべく優しい眼差しで女達をかばってやった。


「有り難う御座います、イオタのヌシ様!」

「有り難き幸せ!」

「ありがとうございます!」

 

 

 そう言うわけで、収穫祭のお祭り(秋祭り)当日。

 やはり一悶着有った。

 

 

 

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