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徳川家康


 徳川家康氏、爆誕秘話にござる。


『家が康し。この場合、『家』とは国家でもあり国民でもある。イオタのヌシが授けた名前。よくよく吟味してアレせよ』

「ははーっ! 肝に銘じて!」


【通行を許可してくれ、ミウラ! 東照権現様の願いを叶えさせてやってくれ!】

【仕方ないですね。ふふふふ、今度わたしが上になりますよ。二段ベッドの】

 頷き合うネコ2匹。


 尻を降ろしていた背を丸めていたミウラ。猫背をしゃきっと伸ばす。

『ならば、ミウラのヌシの名のもと、ハコネの通過を許可する。但し、騒ぐと殺すぞ』


「あっ! あああっ! 有り難き幸せ! このご恩、徳川家康、一生忘れませぬ!」

「徳川ヒデタダ、このご恩、末代まで受け継がせまする!」


『その代わり、かならず太平の世を作れ! 諸外国に負けぬ強い国を作れ!』

「ははーッ! 肝に銘じまして!」

 ミウラさん、どんどん調子が出てきました。


『ヒデタダよ、その方の名な、ヌシ的に見て縁起が悪いのだ。よって良い名を与えよう。フウスイ的な。家康を信じ、助け、共に進む。その意味を込め「信康」を送ろう』

 どんどん、歴史が作られていく! あと、ミウラの趣味ッ!


「徳川信康! 有り難き幸せ!」

『康の字を継ぐは信康のみ。後の子は家を継ぐがいい。例えば、「家光」とか?』

 歴史の創作が止まらないッ! 


『サガミ、イズ、ムサシ、カズサ、シモフサ、アワ、山間部はヌシの物。それ以外は好きに使え。それぞれのヌシに話を付けておく。ウエノのヌシにも声だけはかけておく。後は家康次第』

「あ、有り難う御座いまする!」

 家康にとって望外の配慮だ。


「家康殿、ミウラのヌシに気に入られたようでござるな。されば、某からも一言。スミダ川河口、ヒビヤ入り江の近くにエド家が居を構えておる。エド城だそうな。それを接収して改築、居城とするがよい。エド家と言っても小さい組織。当主は、まだ話ができる(ほう)にござる。金を握らせるか、端役にでも取り立てやれば文句は言わぬ性格をしておる。なに、ぐずったら押しつぶせば良いだけのこと。できるでござろうな?」

【イオタさん、私情が入ってます!】


「ははっ! ヒビヤ入り江近くのエド家にございまするな!」

 家康と信康は一言も聞き漏らすまいと、必死だ。


「エド家の当主、タロウジロウ殿によろしくとイオタが言っていたと伝えておくれ。あと美少年遊びはほどほどにとな」

「は、はぁ?」

 どういう関係だろう? と家康は首を捻った。

 

「それと、近在にカンダ山という小さな山がある。それを砕いてヒビヤの入り江を埋めて土地を広げるでござる。それだけでずいぶん住みやすい土地に変わるはずにござる」

「よろしいので?」

 ヌシは山に住む。山を崩して良いのかと聞いているのだ。


「ヌシの居らぬ山にござる。遠慮は無用。どんどん行くでござる。こんなところでござるかな?」

「何から何まで有り難う御座います」

「いやいや、たまには遊びに来るがよい。家康殿なら歓迎するでござるよ」


 神君家康公にして伊織田家の主にして将来の東照大権現に笑顔で感謝され、舞い上がるイオタさん。ハレの姿を母上に見せたかった!


『そうそう……家康君、こんな言葉を知っているか? 上下水道、天領制、司法、行政、立法』

「は、はぁ、いえ、全然解りません」

『ふむ。信康君は?』

「未熟者故、申し訳ありませぬ!」


 親子で平伏。ハコネ峠通過の許可が出て、一安心してからのクエスチョン。虚を突かれた。


『上下水道とは――』

 ミウラは嬉しそうに解説した。あの家康公を出し抜けて鼻を高くしている。

 家康公は未知の知識に目を丸くしている。興味津々たる光を丸くなった目に宿して。


 ――釣れた――


『話はここまで』

 下水の解説をざっと話して終わった。家康はもっと聞きたそうだ。これでお終いかと悔しさがにじみ出ている。


『エドにて落ち着かれたら、本拠地、ミウラの地を尋ねられよ。そこにわたしと懇意にしているムラがある。ヌシの知恵をいくつか授けよう。そうそう、その際は信康君と行政、もとい……政の重鎮を3人連れてくるがいい。その者達と共に我が教えを受けられよ』

 チャンスは残こされたぞ家康公!


「重ね重ねのご厚意、感謝の言葉も御座いません」

『ただし、わたしやヌシの知恵と他言は無用。家康と側近共の知恵とせよ。そこへは挨拶にでも行くと称しておくがいいだろう』

「ははーっ!」

 家康公と信康君、平身低頭しっぱなし。


 あ、家康君、目がウルウルしている。

 ぶっちゃけ、死を覚悟しての白装束。信任を得るための跡取り息子同伴であった。人生何度も博打を打ってきたが、今日この日の博打は分が悪すぎると覚悟していた。


 文字通り、人生最大にして最凶の賭であった。運だとか力だとか一切通じない。

 ぶつけるのは誠心誠意とヒノモトを引っ張る心意気だけ。

 通行の許可を得たとしても、未知の大地で一から開墾。苦労も山積み。

 それが賽を振ってみれば、大当たりどころか、予想を超えるヌシの財宝付き。


「ありがたい……まこと、ありがたい……」

 ポタリポタリと滴が岩肌に落ちる。


「父上……」

 そんな父の背中に手を置き、優しくトントンする信康君。


『モノはついでだ。家康の陣中見舞いでもしておこう。わたしの姿を部下共に見せれば、家康公の株も上がろう』

 

 家康、信康親子は無事、彼らの陣に戻れた。

 結果を伝えると、大歓声に包まれた。名前の変更も伝えた。

 会見の成功に意気も上がる!


 そして、ミウラが姿を現す。


 ふわりと音も立てず、徳川の陣の先端に降り立った。

 たちまち平野部に満ちる緊張感と圧迫感。ヌシの力は伊達じゃない。


 ミナモト軍改め徳川軍一同、膝を付き頭を下げる。万の頭が一斉に下がったのだ、とんでもない音を伴っていた。


 イオタが、ミウラより飛び降り、軍勢の前に立つ。

「家康殿の信念にこのイオタとミウラ、心を打たれた。家康の顔を立て、ハコネ峠の通過を許可する事を申しつけるでご殿ざる」

 イオタの宣言は、イズの支配者、ミウラのヌシの公的な言質となる。


 万の歓声が上がった。安堵、歓喜、様々だ。

『その前に……』

 ミウラが口を開く。


 何事か?

『ちょっと鉄砲撃ってくんない?』



 ミウラの一言で歓声が消えた。

 

 

 

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