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エド家


 キュウシュウは知らん。しかし、キナイでは鉄砲の生産をミナモト家が独占している。


『よし! セッツのミナモト家に人を送れ。当主の人となり、経歴、有力な部下、個人的なことを調べて参れ』

「はっ! ……命に替えて」

 ちょっとサスケの歯切れが悪い。


 ミウラに対し感じる恩義は天井知らずのサスケである。忠誠を疑ったりはしない。どちらかというとスケジュールが苦しいな、的な逡巡であった。目が泳いだのは計算していたためだ。


 忍びの者(ミウラとイオタの決めつけ)にしては、サスケは表情が豊かである。

 冷害の被害も尾を引いているし、人のやりくりが厳しいのかな? とイオタとミウラは念話を交わした。


 まず、イオタが口火を切る。

「そういえば、カイの金にも限りがあると思うが、その後どうでござるかな?」

「はい、まだ産出いたしますが、長老衆の中には金の匂いが薄くなったと申す者もチラホラ」


 カイの金山で、ヤマシの仕事は、サスケの代だけなら何とかなるだろう。しかしその後が苦しくなる。まだ目新しい鉱山の目処が付いていないようだ。この業界、ライバルも多いらしい。


「ミウラのヌシ、なにか言いたそうでござるな?」

 イオタは、さりげなく棒読みでミウラに話題を振った。


『ふむ、サスケよ、エチゴの沖合に浮かぶ佐渡島を知っているか?』

「はい? 知っております」


『あそこ、金の埋蔵量がハンパないのだ。上手く掘れば80トン……だからえーっと、2万1千貫程? 掘り出せる』

「なんですと!」


『ニホンが平和になれば、掘り出せるな。あとキュウシュウはサツマの北東部にも未採掘の金鉱がある。これがまた洒落にならん埋蔵量だ。サドの何倍だろうか? 知らんけど』

 三菱さんごめんなさい。と、謝っている。ミウラが。


『ついでだ。イワミ銀山な、あれ、銀を掘り尽くしても、まだ胴が大量に残っているぞ』

「なななな!」

 サスケの顔から血の気が引いた。足が震えている。そんなことで険しい山道を帰れるのか?


『どれもこれも、平和にならねば掘るに掘られぬ(ボソリ)。他に何かあるか? 無い? ならば世間に動きがあればいつでも顔を出すことを許す。下がって良い』


 はっ! とかけ声一つ。サスケはバックジャンプして、崖下に消えていった。由緒正しきニンジャの作法である。崖下でもんどり打って転がる音の後に悲鳴が聞こえたが、ニンジャがそんな無様な真似をするわけがない。


 それでも何かあったら、たとえば足の骨の折れる音とか、助けを求める声が聞こえてきたりした場合を想定して、イオタとミウラはしばらくの間、耳を澄ませて気配を探っていた。


「行ったようでござるな」

『ええ、イキましたね』

 鳥の声が遠くから聞こえるだけの静かな時間。


『さて暇になったことですし、辺りに人気もなくなったことですし、久しぶりにセッセッセッでもしましょうか?』

「ヨイヨイヨイでござるな。よし、いっちょやるか! ミウラよ、先に行かせてやる」


『いえいえ、今度こそイオタの旦那を先にイカセてあげますよ! 我がフィンガーテクニック見せてくれましょう!』


 せっせっせっ《名》とは、女児の遊戯の一つである。


 こうして夜は更けていく。



 

 ヌシの世界が落ち着いた。代わりに人の世界が動き出す。やはりフジのお山の噴火と続く大地震が起因となり、歴史が動き出したのだ。所詮、人など自然という掌の上に乗る者。掌を動かせば転がるしかないのだ。

 

 さて、この時代。江戸の地にエドという地名が存在している。元々はエノツと呼ばれていた地名である。

 スミダ川の河口つまり江に作られた(みなと)からエノツと呼ばれ、それが何らかの革新的変革がありエドとなった。たぶん、ドは戸という出口入口をさす言葉でありこれが河口を指す言葉でもあるので、イキったサムライが言葉遊びでエドと呼称し、え? 貴族っぽくね? 俺らイケてんじゃね? ちぇけらっちょ! て感じで喜んでいたのが始まりだろう。しらんけど。


 さて、そのエドを根拠地とするサムライ集団がいた。ずばりエド家である。


 この者達、普通のサムライとちょいとばかり毛色が違っていた。

 そもそも、エド家の成り立ちは、河川を利用した運送業を営んでいた商家が武装し、イキり、大きくなったという家である。

 ご多分に漏れず血の気の多い若者を多数抱えているが、もめ事や押し通したい事案が発生すると、物理でガンとぶっ込む手法以外に、敵対構成員個人を暴力以外の手段で攻める、といった搦め手もよく使う家である。

 エド家が取る搦め手は多様で、4つの戦術を所持している。

 具体的に言うと、食わせる、呑ませる、握らせる、抱かせるの4つだ。


 さて、このエド家。運送業や商業を行っているだけあって、各地の情報の入手も速い。

 たとえば、西の大家ミナモト家が、手を付けられないほどに巨大化。すぐそこのスルガにまで進出したという情報をイオタ達と時期を同じくして入手している。


 そして、エド家やエド家の知り合いらの総力を会わせても、太刀打ちできない程、ミナモト家が巨大化していることも知っている。

 さらに、ミナモト家が東を伺っていることもサムライの勘が知らせてくれている。

 


 見た目、現代の我らの感覚で砦にしか見えないエド城にて。ちなみに、エド城は生意気にもチヨダに建っている。


「まずいんじゃねぇか?」

 エド城家の当主、エド・タロウジロウが、城の奥まった部屋で眉間に皺を寄せていた。エド家を支える重鎮達も無い頭を絞っている。


「ミナモト家が諍いの絶えねぇキナイを離れ、本拠をナゴヤかツシマ辺りに移すと聞きやしたが? ここまでまだ遠いんじゃねっすか?」

 家老が疑問を口にした。


「ばーかーやーろーおー! ツシマ取ったら、海運業の目は東へ向かうだろーが!」

「あ、そっか! ミカワ、トウトウミ、サガミの港を1人が押さえたら大もうけできやすもんね!」


「だーろー? 連中、人数に任せて、押し込んでくるぜ! ……だからどうしようか! って話なんだよ!」


 ウンウンと唸るエド家首脳部。


 ミナモト家は、万単位の数で押してくるだろう。それを迎え撃ったところで多勢に無勢。じゃ、どうする? めんどくさいんで迎え撃つか? いや多勢に無勢だろ? じゃどうする? めんどくさいんで迎え撃つか?

 何度も同じ所をクルクル回るだけの会議が続く。会議は煮詰まってきた。ロクでもない煮詰まり方だ。


「はい! 休憩休憩!」

 当主がパンパンと手を叩いて、会議の中断を申告した。

「俺たちゃ馬鹿だから、顰めっ面会わせて考えても何も出てきやしねぇ。気分換えて行こー!」


 各自、便所へ行ったり体を伸ばしたり、水を飲みに行ったりしている。当主は愛妾を呼んだ。

 ごろりと寝転んで背筋を伸ばす。背中と肩を女に揉んでもらっている。この女、顔はまあまあだが、オッパイが大きい。そして按摩が上手い。


「あーあ、仮に迎え撃つにしても何所でやるね?」

「むっちゃ狭いところがいいですね。遮蔽物があって、奇襲ができるところ」

 重鎮の1人が話し相手になった。


「たとえば?」

 当主は鼻くそをほじっている。


「たとえば、ハコネ峠とかどうっすか?」

「順当だなー……まてよ? ハコネ峠?!」

 ガバリと身を起こす当主。慌てた女が尻餅をついた。


「おいおいおい! ミウラのヌシを利用するって法はどうだ?!」

「え、ヌシっすか? それヤバくね? だってミウラのヌシってサムライ嫌いで有名っすよ!」

「いや、有りかも!」


 休憩から戻ってきた家老が話に割ってはいる。

「聞くところによると、ミウラのヌシはイオタのヌシという女のヌシと一緒に動いているって話だぜ!」


「なるほど!」

「何年か前に隠里の女を奉公に出させていたらしいぜ」

 例の悪評がここでの伏線になるとは!


 当主はニヤリと笑い、愛妾を抱き寄せて胸に手を伸ばした。ぱいぱいおっきおっき。

「こういう事か?」

「へい、おそらく。やってみる価値はあるかと」

 下卑た笑いを口元に浮かべるエド家家中の者達。


「領土中の美女を集めよう! ぐふふ! 一生に一度はやってみたかったんあだ、俺!」

「ならば親方様(注・お館、お屋形ではない)、この地に来ております美女踊りの一座をお手配なされては?」

「おお! イズモのオクニか!」

「はい! オクニでございます。先日城下の興行を見に行きましたが、これがもう、むっちゃスケベ! 股間がゾクゾクするような美人でございまして! もう一度近くでお目にかかりたい、と思わぬ男はおりません!」


 ゲヘヘヘ! と下卑た笑い声が奥の間から聞こえてくる。


「よしよし! 銭で横面叩いて呼んでこい!」

 へい! あっしが呼んで参ります! と気の利いたサムライが走っていった。


「でもって、イオタのヌシの方も? 見た目怖いけど女ですぜ?」

「若い女らしいな! 美少年! ぶつけてみるか? 俺んとこの美姫丸だすぜ!」


「主殿の美姫丸っすか! すげぇ! だったら美少年持ちの連中に声かけて5,6人ばかり都合つけましょうや!」

「ばかやろう! みみっちこと言ってねぇで美女美少年2,30人位ぇ用意しろ!」

「合点承知の助! で、交渉の条件は何にしやす?」

「ミナモト軍を襲撃してもらえれば上々。悪くても通行を防いでもらう!」

「上手くいきそう!」

「くくくく、国中の美少年と美女の競演か……。酒もありったけ出せ! 今から心躍るぜ!」

「公私混同も甚だしいっすね!」

「ちげーねー! がはははは!」


 勢いよく悪巧みが進む。もう失敗が2千ルクス下で見ているような悪巧みが進むのであった。 

 

 

 

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