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情勢


 さて、エチゴ、オワリ、両ヌシからの侵攻も落ち着き、イオタとミウラの領土もボウソウ半島まで伸びた。


 懸念された冷害も、最初の2年が特に厳しかったが、後はなんとか我慢できる冷害で納まった。かなりの数の餓死者が出たのだろうが、誰も集計を取ってないのでバックリとした感覚でしか判らない。冷害はサムライ達の勢力にも大きな影響を与えたようだ。

 冷たい夏の影響は、カンサイ・キナイにまで及んだが、被害状況はカントウにまで聞こえてこない。

 ここ近年は気候も落ち着きを取り戻し、その他の地域で大きな動きもなく平穏な日々が続いた。

 


 久しぶりに……サスケ達の報告に動きがあった

「ミナモトの棟梁家がキョウの公家と諍いを起こしました」

 公的な隠れ家でサスケの報告を聞いている。


「イズミ、セッツ、カワチの各地で、公家の武装勢力と戦となり、ミナモト家は公家の武装勢力を悉く平定。一大武装集団となり、本拠をセッツの国に移し、巨大な城を建設されました」

「お公家さんでござるか? 戦う力を持っておったのでござるのな?」

 濡れ縁に腰掛け、腕を組んで小首をかしげるイオタさん。


『どんな政治形態になっていたんだろう? 字面からするとヘイケ衆が公家の武を担当していたように見受けられるが?』

 腹を付けて庭に寝そべるミウラ。首だけ立てている。


「よくご存じで。公家と都を守るサムライがヘイケ衆にございます。もともとミナモト衆は外の国を平定するためのサムライにございました。外に利を求めていったミナモトばかりが強くなっていきまして、力の付いたミナモトに疑いを持たれた公家の方々と、長年難しい間柄になっておられました」


 イオタとミウラの前に出ても、尊敬の念は絶えずとも、必要以上に恐縮することのないサスケである。あれから何年か経ち、年も取り、夫となり、父となり、風格が出てきた。一言で言えば、大きな組の若頭さん?


「帝は居られるのかな? この調子だと命のやりとりになりそうでござるが?」

「ミカドでございますね? おられますよ。チュウ国方面のサムライ達に号令をかけて、ミナモトと正面からぶつかる動きを見せておりますが、サカイ港をヘイケより奪い取ったミナモトに手をこまねいている始末」

 サカイなどの港は一大経済拠点だ。ここを押さえるということは、金や物資の流れを手中に収めるという意味を持つ。つまりミナモト家は、戦略上、優位に立ったということだ。


『エチゼンやカガなどのホクリク勢やシコク勢の動きは?』

「ホクリク勢は動けません。エッチュウ、エチゴ勢がミナモト側ですので牽制されております。ですが、ミナモト家がミヤコへ主力を移そうものなら、すぐにでも背後より侵入をかける様相です。一方、シコク勢はミカドのお言葉を頭から無視し、互いに争っているのが現状にございます。さらに、キュウシュウは遠すぎますし、セトウチを使うにはチュウゴク勢と一戦を覚悟せねばなりません」


 セトウチとハカタの海の覇権を巡って、チュウゴク勢とキュウシュウ勢の争いが絶えぬらしい。利権大好きなサムライ達は、帝の命より目先の一銭を大事にする。

 チュウゴク勢は現状維持に凝り固まった保守主義だ。


「シコクとキュウシュウは脱落でござるか。ミナモト家一人勝ちにござるな!」

 元々侍だったイオタは、こういう話が好きだ。


「そりゃ勝って当たり前でございますよ。ミナモト家は各地の港を押さえていますから。サカイはもとよりイセ、ミカワまで。この国は、至る山野にヌシ様がお住まいでございますから、海や川を使った運送に頼らざるをえませんで。港を押さえた者が銭を制する作りになっております。ミナモト家はニホン1の大金持ちでございますよ」


『思ったより貨幣経済が発達しているのかな? サスケよ、金や銀の動きはどうか?』

「はい、それもミナモト家に集中しつつあります。カイの金山、銀山は迂回されてますがミナモト家の所有も同然です。その他主立った鉱山も、直接間接にミナモト家の物となりつつあります。イワミの国のイワミ銀山だけでございましょうか? ミナモト家の息がかかっていないのは」


『港という物流を押さえ、金銀という銭を押さえ。無敵だな。こりゃ行っちゃうかも』

「む?」

 イオタが何かに気づいたようだ。


「サスケよ」

「はい!」

「イセやミカワの港を押さえていると言うことは、イセ、ミカワの平野部はミナモト家に押さえられておるのでござるかな?」

「その通りにございます。最近では第2の拠点をナゴヤに移されております。ナガシマは恐ろしいまでの物量集積地となっております」


『あれ? ここ一向宗って存在しないの? それとも討伐済み?』

「イッコウシュウ……でございますか? さて、とんと聞き覚えがございませんが……」

『はい! 自由への戦いは終了っと。平和だから良し!』

 ミウラの口調が突然崩れたので、不思議な表情を浮かべるサスケであるが、報告の続きを優先した。


「ミナモト家の手はさらに東へ延びており、昨今ではスルガにまで進出を遂げておられます」

「東海道の西半分を押さえたでござるか!」

『思ったより動いていたな』


 スルガは、不承不承ながらお隣さんだ。


「それと、今戦いで、タネガシマという新兵器を使われまして――」

『種子島だと!?』

 サスケの口から今世紀最大のパワーワードが飛び出した。


「サスケ! それはテッポウとも言わぬか?」

 ミウラとイオタが同時に身を乗り出した。


「は、あはい。鉄の砲で鉄砲です。タネガ島の地で異国の者が伝えたので、隠語的にタネガシマと呼ばれるのでございます」


 イオタとミウラは顔を見合わせた。

 先ほどミウラが、思っていたより動いていたなと言ったが、予想より遙かに上回る速さで人の世が動いているようだ。いや、イオタとミウラの思っていた年代より、ずっと年代が進んでいる世界だった。


『やりやがったな!』

「異人が来たか!」


 ここでサスケがお恐れながらと下から出てきた。どうもヌシ二柱に聞いておきたいことがあるようだ。


「先ほどからお話に上がっております、てつぽうですが、アレってそんなに重要なのでしょうか?」

「ほう? というのは?」

 イオタは単純な興味で聞き返した。サスケは鉄砲を下に見ているようだ。


「てつぽうって、音がデカイだけでございましょう? 馬や足軽が驚いて動かなくなる効果は認めますが、それも何回か経験すれば慣れてしまうのでは? 煙が酷く出るので撃った場所も丸わかりですし。鉄の玉が飛び出す仕掛けでしょうが、射程が矢より短いです。あと火薬を使いますので雨の日や風の日に使えません。戦は天気を選びませんし。お値段の方も異様に高い。それに連射が利きません」

 だのに、なんで使うんでしょうね? とサスケは綴った。


『よく調べたな』

「鉄砲は戦を根本から変える画期的な兵器にござる」


 イオタさんちの伊尾田家は、鉄砲足軽出の町同心。鉄砲を馬鹿にされて黙ってられない。

 腕を組み、目を軽く瞑って話し始めた。


「まず、音は慣れてしまえばさほど効果無しと認めよう。射程も短いと認めよう。天候に左右されやすいとも認めよう。価格もお高いと認めよう。しかるに!」

 イオタさんがクワワっと目を見開いた。サスケはその迫力に渡押し負け、尻餅をついてしまった。


「鉄砲を百丁ばかり揃え、一斉射撃を行うと想定しよう。さすれば、同数の矢では止められなかった騎馬の突撃を止めることができる。胴鎧を貫通させる威力を持つ。射程の短さは敵を引きつけることで補うことができる」

『ストッピングパワーですね』


「天候に関しては、火薬の取り扱いを工夫すれば土砂降りの中でも使えるでござろう。連射速度は、二段三段の構えとすれば解決できる」

『鉄砲を一射手あたり3丁以上用意する。射手は固定しておいて、後方で鉄砲の整備と玉込めをする係を付ければ連射は可能だ。金持ちでなければ使えぬ技だがね』


「それに矢は難しい。素人に矢をまともに撃たせるどころか、走り回る敵に当てるまでの腕前を身に付けさせるに、どれほどの年月がかかろう。2年や3年ではモノにならんぞ。それに身体的な適性を求められる。対して鉄砲はどうでござろう? そこいらの食いっぱぐれを呼び集め、3日ばかり弄らせれば誰でも一人前に育つでござるよ。つまり、大量に準備できる足軽が扱える飛び道具にござる」


『補足させてもらおう。城攻めにも有効だ。城に向かって絶え間なく連射していれば、城側から人が出てこられない。顔も覗かせられない。つまり反撃ができない。その間に攻城側は、安全にじっくり門を破壊できる。これに防衛側が対処するには、門の造りを鉄砲対策した構造に変えるしかない。表門と搦め手門を同時に工事しなければならないが、その間無防備になるし、金もかかる』


「な、なるほど。御慧眼、恐れ入ります」

 サスケはそれを理解できるだけの頭を持っていた。持っていたから、鉄砲の驚異を想像できるのだ。今の言葉に忖度は含まれていない。


『これからの戦いは、人だけでなく資金力が重要だ。一騎当千を百人集めるより、鉄砲を百丁買える金。言い換えれば、ニホンで最も金持ちのサムライが最も強い』

「そう言う意味では、ミナモト家が最大勢力なのでござるかな?」

『そうですね。ミナモト家がキナイとチュウゴクを掌握すれば、天下に王手飛車取りがかかる。そうなるとキュウシュウとシコクは頭数だけで制圧できるでしょう。西ニホンを取った時点でニホンの王となるでしょうね』


「お恐れながら、ミウラのヌシ様」

 サスケが口を挟む。


「まだ広大な東ニホンが残っておりますが?」

『ああ、それは問題にもならない。西ニホンを取ったら兵力は20万や30万は出せる様になるだろう? 王はそんな数を揃えるだけで良い。だれが20万の軍あいてに戦おうというのだ? サスケが20万の軍勢相手に戦うというなら、1国を授けてやろう。どうだ?』


「とっ! とんでもない! とんでもございません! 20万相手にだなんて、勘弁してくださいよ!」

 両手をブンブン振って受け取り拒否をするサスケ。必死の形相が面白い。


「はっはっはっ! そう言うことでござる。ミナモト家もそれを眼中に入れた行動を取っておるのやもしれぬな。気づいておればでござるがな」

 イオタはサスケの顔を見ておもしろがる。


「では、てつぽう関係で一つ情報を……」

 サスケが何の気無しに話しだした。


「ミナモトの現棟梁はてつぽうを手になさるなり、サカイで作らされました。すぐに大量生産に成功。今、全国でてつぽうを作っている所はセッツとカワチだけ。ミナモト家が独占しております」


 再び顔を見合わせるネコ2匹。

『やりやがったな』

「意欲満々にござる」


 何のことやらと不思議がるサスケであった。 


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