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カントウ平野進出

 ハコネのヤマシの村にて。


『と言うわけで、土砂崩れだとかで大型重機が必要な現場があれば知らせを入れるように』

「ジュウキって何ですか」

『汁気と書いてジュウキと読む』

「???」


 こういった高度なボケのやりとりがあった後、取り急ぎハコネ衆が困っている現場に入った。


「ここは村への一本道にございます」

 案内はゴエモンと名乗る男。魔剣襲撃組の1人だった男だ。一枚刃の高下駄でどんな足場でもヒョイヒョイと超えていく。ちなみに、武器が仕込み杖の(タイプ)だ。


「切り立った崖の中腹を通る狭い道ですので侍の攻撃から守るに安き場所ですが、こうなってはそれも裏目にございます。普通の村人や商人達の出入りが叶いません」


「見事に山道を塞いでござる」

『山の隘路に崖崩れですね。道を埋めた土砂が川ま入ってしまって、ダム化してますな』

 ミウラが言ったとおり、片側が切り立った崖で、もう片側が川へ続く崖。道を塞いだ土砂が、川にまで落ち、水の流れをせき止め、池みたいなってる。


「早急になんとかせねば」

『ええ、道よりも川が詰まってるのが一大事。一雨降ればダムが決壊して下流域が大惨事です』

「我らのために何とかしていただけるので?」

 ゴエモンが目を見開いている。ヌシが人のために働いてくれるなんて聞いたことがない。


「いや、それは違う。某らは単に己の力を試したいだけ。いわば試し切りにござる」

『そうそう、こんな場所でなければ全力を出せないだろう。その方らにしても一石二鳥でいいじゃないか』

「なるほど、そう言うことでございましたか」

 根が素直なゴエモンは納得した。


 まずは、とばかりに道を塞いだ土砂に向け、巨体を生かしてミウラが猫パンチ。

 そこそこの量が川へと落ちていく。


『道の方はいけそうですね』

 連続猫パンチでどうにか開通。後は人力に任せよう。


 次は川へ大量に落ち込んだ土砂。


『どうすれば?』

「吹き飛ばしてみるか?」

 腕を組んで小首をかしげるイオタさん。乱暴な提案だ。


『まぁ、やってみましょう。これ位だと何が良いかな? とりま熱雷砲(タービュランサー)!』

 放たれた野太いビームが土砂に突き刺さる。穴をうがち、反対側へと貫通した。


『なぎ払え!』

 ミウラはビームを縦方向へ動かす。


 ドッカンバッカンと派手な音を立て、有害なイオン臭を振りまき、土砂は取り払われた。

 終われば川の流れがスムーズになっていた。

 ずっと遠くまで土砂が均一に吹き飛んだのと、着弾場所が熱と衝撃波で広がったのと、岩が溶けてセメントの代わりになったのが良かったようだ。


「こんなものでござるかな?」

『では、試し切りも終えたところで、わたし達はボウソウ半島へ向かいましょう』

「ゴエモンとやら、案内ご苦労!」

 イオタとミウラは虹の輪を潜り、ボウソウ半島へ向かった。


 残されたゴエモンは、先ほどから声が出ないでいる。イオタ達を見送るのに礼すら尽くしていない。それだけぼうっとしていた。意識が飛んでいたとも言える。


 なにあれ?


 ミウラが放った青白くて熱くて鼓膜が破れるほどの一撃。まさにヌシの技。

 繰り返すがゴエモンは、魔剣でイオタ達を襲撃した一員である。


「俺ら、あんなの相手に勝つつもりでいたんだよな」

 尻の青さと無計画さに、今更ながら冷や汗が出てきた。

 

 

 さて、イオタを背に跨らせ、グフグフ言ってるミウラは、サガミの地をひた走り、シモフサへと到着した。

 途中、平野部の人達は滅多に見ないヌシを目にし、驚いていた。

 

「さっき飛び越えたのがアラ川。左手がムサシ。前方がシモフサにござるな?」

『いやもうほっとんど平地でございましたね。こんなただっ広い原野ってニホンにあったんだ……』


 ミウラは生前関西地方の盆地に住んでいたから、平野を見ること自体が珍しかった。イセカイでは体が小さいネコだったので平野部の広さが視覚的に体感できなかったのだ。

 

「ミウラ! あそこの小山、ヌシの気配がするでござるよ!」

『じゃ、ちょっと挨拶しに行きましょうか?』

 ギュンと方向転換。ちょっとした山へ向かう。


『ええっと、ヌシの気配はっと、見つけた!』

 タタタンと軽快にステップを踏み、名も知らぬヌシの眼前にふわりと舞い降りた。

 足音を立てなかったのが不味かったのだろうか?

 鹿とトカゲを足してお饅頭で割ったようなヌシは、腰を抜かして震えていた。ミウラより一回り大きいというのに。


「あー、この山のヌシにござるかな?」

『へ、へい!』

 ビビっている。


「某、ミウラのヌシの配下のヌシ、イオタと申す者。ここにいるのはサガミの支配者、ミウラのヌシにござる」

『へ、へい!』

 名も知らぬヌシは、ミウラより一回りも大きい体をなんとかして一回り小さくしようと努力していた。


『ただいまご紹介にあずかりましたミウラです。少々物をたずねるが……』

『へ、へい!』


『シモフサへの道はこのままでよかろうか?』

『へ、へい!』


「なにか変わったことはござらぬか?」

『へ、へい!』


『感謝する。ではまた機会があったら』

『へ、へい! この地はミウラ様の物と思ってください。どうか命ばかりは!』


 ミウラは踵を返し、東へと進んだ。

 名も無きヌシはズルズルと腰からへたっていった。

 気で判る。あのミウラとか言う小さいヌシ、とんでもなく強い。「よく生き延びることができたなクラス」のヌシだ。ああ怖かった!

 

「なにやらずいぶんと奥ゆかしいヌシ殿でござったな?」

『平和を愛するヌシならウエルカム、大歓迎でございます。あ、またヌシの気配! 次行きましょう!』


 こんな感じで、途中のヌシ達を脅したりカツアゲしたりしながらシモフサの地へと入っていくイオタとミウラであった。

 

 

 

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