イオタとミウラのヌシとは
「ぬぉりぃやぁー!」
イオタが吠えた。
「イオタのヌシの覇道剣稲妻三段返しが来るぞーッ!」
「だから、それを広めるな! 恥ずかしい!」
鬼のような勢いで突っ込んでいく。鋒矢の陣形が先頭から崩れていくった。
『雷回廊!』
「ぐあぁー!」
サムライ達の陣に、何十もの落雷がボコボコと突き刺さる。ノッシノッシとミウラが歩いていく。
「貴殿は何処の御家中にござるかな?」
イオタは立派な鎧兜を着けた武者の胸ぐらを掴んで揺さぶった。
「ツ、ツカモト家……」
鎧武者はボコボコに殴られ、兜の飾りが何処かへ吹き飛んでいた。
「それで、相手は何処の家でござるかな?」
「タチカワ家です……」
「場所は? ふんふん。わかった。ご苦労!」
イオタは鎧武者を放り投げた。運が良ければ生き残るだろう。散々無体を働いてるであろうから、運が残ってるかどうかは怪しいが。
「ミウラよ、ツカモト組とタチカワ組を潰しておこう」
『ええ。大きな家が無くなれば小さな家同士が争って自滅してくれます。わたし達の手間が省けて助かりますね』
「サムライと称しておるが、某の知るサムライではない。ヤクザの組にござる」
『広域指定暴力団ツカモト組とタチカワ組ですね。では帰りましょうか!』
その日、ツカモト、タチカワ両家または両組の城が崩壊した。
数日後。
イオタとミウラが向かい合って座っていた。
『ムサシのヌシ様にお目通りする前に、わたしなりの推測を聞いていただきたい』
ここはイズ半島山中のどこか。本拠地と設定された日本家屋である。
『イオタの旦那もお気づきでしょうが、昨今、地震が多いようです。大きいのだけでも数回。小さいのは数えるのも面倒なくらい』
「ふむふむ」
悪巧みや政治的な話し合いはこの屋敷ですることにしている。いわゆる仕事場だ。
『旦那が顕現なさるまで、わたし事ミウラは、体の小さい下ヌシでした。力も弱かったです。ですが、旦那が顕現なされてから、上ヌシに匹敵する戦闘力を手に入れました。これはムサシのヌシ様が仰っていたとうり、旦那とわたしの2人が合わさって1人の大ヌシであるからです』
「ふむふむ」
頷くイオタ。解ってるんだろうか?
『イオタさんが顕現したから、であることは事実でしょうが、そもそも論として、イオタさんがこのニホンになぜ転生顕現されたのでしょうか? 私たち2人がそろったのには理由があるはずです』
「ミウラが先に転生したからではなかろうか?」
『いえ、わたしの転生も、そもそも論です。わたしが転生したからイオタの旦那も続いて転生した。それは必然であります。では、なぜ我らが転生したのか。しかも、わたしの説ですと、わたし達はデッドコピーであるにもかかわらず大きなの魂持ちです。この地が、そうまでして大きな魂である我らを呼び寄せた、かつ呼び寄せる力があった。わたしは、呼び寄せたりヌシを作ったりする「力」が何であるのかを論じたいのです』
「ミウラよ、難し言い回しはするな。素直に言え」
『はい。この地にヌシをヌシたらしめんとする、かつ、ヌシを作り出したエネルギーが存在するのではなかろうかと思う所存で』
イオタは腕を組んで首をかしげる。その首が元へ戻るまで、ミウラは待った。
「……地震か? 地の力がヌシの力か?」
『おそらく。ここは地中深くで渦巻くとんでもないエネルギーがぶつかり合い消しあう南海トラフという場所、のたぶん近所。大エネルギーが発散する場所でもあります。これ、わたしの持つふわっとした未来知識ですが』
「うむ、ミウラは賢者である。日の本の未来は賢者が握っていると言って過言ではないと信じておる!」
『有り難う御座います。して、そのエネルギーを使って、ヌシが生まれる。ヌシが生まれるとエネルギーが欠乏する。そして、いま、わたしとイオタの旦那という2人合わせて大ヌシが生まれた』
「とんでもない力が使われたようでござるな。某の知る知識や常識では、ヌシなんて神と同じでござるよ」
『大地より力があふれ出る。力を補充したヌシ達。有り余る力をもてあまし、凶暴化する。あり得る話でございましょう?』
「うむ、十を幾ばくか過ぎた男の子は皆、血をたぎらせ暴挙に出る――」
『みんながそうだとは限りません。イオタさんの個人の感想です』
「――心という情熱をもてあまし、後先考えずバカなことをするものだ。この年代の者達は。それが、ヌシにも当てはまると言うことでござるな?」
『だいたい合ってます。すごいね! イオタさんにかかれば難題も屁みたいなモンに変わってしまう』
「よせよせ、褒めるな! 照れるでござる!」
また、地震が起きた。推定震度は4。大きいのが続く。
さらに数日後。
イオタとミウラは怪我を治したムサシのヌシの前に出ていた。
『イオタちゃんがこの世界、ニホンに顕現して、もう1年と半分ほどが過ぎたのう。月日が経つのは早いのう』
『そうですね』
「おっと!」
また地面が揺れた。今日のは小さいが、エチゴのヌシと一戦やらかしてからこっち、ほぼ毎日揺れている
『富士山が噴火したら嫌だなー』
「はっはっはっ! フジのお山は噴火などしないでござるよ!」
『いんや。いつだったか儂がまだ嘴の黄色いガキだったことは大噴火も大噴火! 噴火の石だとか溶岩だとかが積もり積もって、フジのお山が一回りも二回りも大きくなったんじゃからの』
「なんと、では! この地震はフジのお山の大爆発の前兆でござるかな!?」
『それはどうじゃろ? 最後に噴火したのは、うーむ、いまから千年ばかり前じゃったかの? フジの山を割って噴火したのう』
「やばいでござる!」
『安心おし、イオタちゃん。あの時はびっくりしたが、あれから千年、全く噴火しておらん。大丈夫じゃて』
「なら安心にござる」
『ほっほっほっ! たまに山頂の火口から白い煙が上るだけじゃ。安心せい』
「安心できんでござる!」
『おっと!』
また揺れた。今度は大きい。ミウラはイオタを庇うように前脚を伸ばし、そこに掴ませた。
『ムサシのヌシ様。お考えを先に!』
『うむ』
ムサシのヌシは語った。
『この地震を起こす原因。それは地の底にたゆたう強大な力じゃ。溶けた大地じゃ。この大いなる力は同時に高熱を持っておる。それが生み出す力が我らヌシの大元となっておるのじゃ』
ドヤ顔のムサシのヌシ。
一切の感情を表情筋から消し去ったイオタとミウラ。
「『それ知ってます』」
『あれ?』




