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白銀化

 ハコネのヌシは逆上していた。

『サスケ! 人間どもッ! ミウラを呼び寄せたな!』


「違うでござるよ」

 イオタは、冷たい声を出しながら馬鹿にしたように笑う。

 ミウラも口を笑いの形に吊り上げた。

『人間共をかばう気は毛頭ないが、ハコネのヌシ殿は頭が弱そうなので教えてやろう。匂いを辿った』


 人と変わらぬ大きさをした、ちいさなイオタなら目立たない。サスケ達の匂いを辿り、この場所を見つけた。イオタが居る場所ならミウラの空間転移が使える。ミウラもここへやってきた。そんなカラクリだった。


「分かりそうなものでござるがな。某ならまずヌシを疑うが?」

 イオタはチラリと銀製の人形達を見た。


『イオタさん、バカ相手に理論だった話は通じない。これを人の間で無駄と呼んで蔑んでいるのだよ』

 ミウラも横目で確認。すぐ視線をハコネのヌシに向ける。


「そうか。バカなら仕方ないな」

 二人してハコネを貶す言葉が止まらない。


『だまれっ! だまれだまれだまれ! ワシはバカではない! 大体からして、おヌシらは何しにここへ来た!』

 ハコネが怒り散らかしている。。


「人の、もとい、ヌシの命を狙っておいて、なにキレてるのでござるかな? キレる立場はこちらでござるよ」

『逆ギレと言うんです。ですが、バカの精神状態など、些細なことだ。わたし達は、覇権主義を推し進めているオワリのヌシやエチゴのヌシ対策でハコネのヌシ、あなたと共闘できるからと思っていたのだが……、イオタさん、これは諦めた方がいい』

「某もあ奴と組むのは御免でござる。我らと正義が違う。あとバカだ」

 ネコ2匹からの攻めがきつい。これでもかと挑発する。


『だまれだまれ! ワシを馬鹿にするな! 死にたいかおヌシ共ッ!』

 ボウボウと煙を吐き出すハコネのヌシ。前傾姿勢を取り、今にも飛びかからんとしている。


「そんなことより、某、気になる点がござる。ミウラよ、あの金属製の人型は何でござるかな?」

 イオタは、イキるハコネをそんなこと扱いした。見向きもしない。

 遠巻きにして見守るサスケ達は、ハラハラし通しだ。


『イオタさん、わたしにおままごとの趣味があると思いますか?』

「思わぬ。ならば、そうそう、ハコネのヌシよ――」

 ここでようやくハコネと向き合うイオタ。


「――これは何の遊びにござるかな? ピカピカの銀でござるか? 某の頭では理解できぬ」

 肩をすぼめるイオタ。


 ハコネは、口元を歪めた。自分の恐ろしさと強さを認識させる良い機会だと思った。新しく得た能力を使うときが来たと思ったのかもしれない。


『これはワシがやった。ワシの能力「白銀」だ。ワシの吐き出す煙に触れた物は、草でも木でも人でも、何でも銀に変わってしまう』


 確かに。草や木も銀色だ。鏡のように周りの景色が歪んで映り込んでいる。

 そう言えば先ほどから、ハコネは盛んに煙を吐き出してる。煙は空気より重いのか、地面に澱む。


「むっ?」

 イオタが変化に気づいた。袴と袖の一部が銀に変色しているのだ。

 銀色が染みのように広がっていく。


「まずい! このままでは!」

『イオタさん、パージして。えーっと、イオタさんの服は創造の能力で作り上げたモノなので、任意で消せるでしょ?』

「えっと、こうか!?」


 細袖と袴が消えた。銀化していた部分だけが残り、ボトリと重い音を立てて転がった。

 イオタさんは白のオブリャとおパンチュ姿である。


「助かった!」

『でかした! ハコネのヌシ!』 

 イオタとミウラは素直に風上へ移動した。歩いて。


『逃げるか! ミウラのヌシめ! 卑怯者!』

 ハコネが叫ぶも地団駄を踏むも、イオタとミウラは風上から動かない。当然だ。


『ふむ、なぜハコネのヌシは白銀化しないのだ? 白銀化と言っているが、あれは銀というより鏡面? ふん、……時間かな?』

 ミウラが何やら思考に耽っている。難問であろうと解決の糸口を掴んだら、何が何でも解き明かしてしまう悪い癖がある。


「ミウラよ、早く帰ろう」

『まあ、いい。たいした奴じゃない。さっさと終わらせて帰るとしよう』

 ミウラの眼前に青白い雷光が現れた。


 目を血走らせたハコネは、ドタドタと走って来るが足が遅い。致命的な遅さだ


「お待ちください! ミウラのヌシ様!」

 雷光の前に両手を広げて立ちふさがる人。サスケだ!

「ハコネのヌシ様に万が一のことがあると、みんなが元に戻れません!」

 泣きそうな顔。後がない者の顔。その顔は泥と汗と垢で汚れている。


 ハコネのヌシが、走るのをやめた。口が笑いの形に裂ける。

『どうする、ミウラのヌシよ。この者はそう言っておるぞ。ワシを殺したら白銀化は解けぬ。この世の終わりまでこのままだ。そのうち、盗賊がやってきて銀の体を削って持ち帰るぞ。イヒヒヒ! さあ、どうする?』

 村人達は人質だ。


「こうやって、この者共の裏で糸を引いておったか。この者共は、だから必死であったか」

 ミウラは目を一旦斜め上に向けて……、すぐハコネに戻した。


『質問に答えていただきたい。人質にするからには元へ戻せるのだろう?』

『あ、当たり前だろう!』

 どもったし、後半のトーンが上がった。


『ほう? ならば見せてもらおうか。元に戻す力とやらを。……そこの草で良いからやってみて』

『ふん! 断る! なぜ見せねばならぬ?』

『石を割ることは人にも出来る。だが、ヌシであっても元には戻せない。わたしは疑っている。この目で見るまで信用できぬな』


 ハコネは前足で地を思い切り叩いた。

『だからっ! なんでっ! 見せねばならぬ!』

『単なる興味だ。是非とも見せて欲しい。このように下から出れば教えてくれるか?』

 髭と尻尾を下に下げた。

 ぜんぜん下から出ていない。


「なあ、ミウラ。ひょっとして、こやつ、元に戻せぬのでは?」

「まさか! ハコネのヌシ様!」

 サスケが叫ぶ!


『人は黙っていろ!』

『もういい、茶番は終わりだ。ハコネのヌシよ。戻せなくとも良い。おまえを殺すことになんら影響は無い。鋼雷砲(バーニングイグニツシヨン)!』

 ドンと空気を割る音がした。


 ハコネの右横に着弾。土や岩を飛ばし、大きな穴が空いた。


『え? あ』

 ハコネはまったく反応ができていない。

 むしろサスケ達人の反応が良かった。人離れした跳躍力を見せ、破壊の範囲から飛び退いていた。


『これが、サガミのヌシを殺したわたしの能力。勝てると思うか?』

 またミウラの前に青い光球が出現。先ほどより一回りは大きい。


『さて、元に戻せぬと言うならもう興味は無い。死ね』

 光球が稲光を纏い始めた。


『ひいい!』

 ハコネがおののいた。腰が引けている。風下にしか使えない白銀の煙なんかでミウラのヌシに勝てない。自称大ヌシの自分と違い、ミウラのヌシは正式な大ヌシだ!

 こいつら怒ってる! だめだ、死ぬ! 


『まてよ? ヌシにも戻せないとなると、それはそれで使い道があるな』

 ミウラは光球から幾分、力を抜いた。


『ヌシでも戻せぬ能力が白銀なら、これから戦うヌシに使える。ならば、ハコネのヌシよ、もう一度聞く。それ、元に戻せるか? ハイかイイエで答えろ』


 助かった。

 ハコネは、安堵した。あからさまに緊張が全身から抜けた。


『あ、ああ、あああ戻せないッ。白銀は一度使うとワシにも戻せないんじゃッ!』

 歓喜のオーラを纏い、ハコネは喜んだ。ミウラのヌシという強力な上ヌシと手が組める!


『よかった。よかった。……念を押すが、助かりたいが為の嘘じゃないだろうね?』

『本当じゃ!』

「嘘だ!」

 ヌシの咆吼にも負けぬ叫び。サスケがハコネの前に飛び出した。まだミウラは光球を仕舞ってないというのに。


「嘘だ嘘だ嘘だ! 嘘だ! 嘘だと言ってくれ! ハコネのヌシ様ぁーっ!」

 サスケだけではない。サイゾウ達も、武器を持たぬ村人達も、ハコネを囲んで名々叫んでいる。


『ほおぉー。嘘だと?』

『うるさい! 人間共! 本当じゃ! ミウラのヌシよ! 誰にも元に戻すことはできぬ! 必殺の技じゃ! 信じてくれ!』

『だと言ってるぞ、サスケ君。わたしはヌシだ。人よりヌシを信じるがね』

「うわぁぁあああああーぁっ! ハナーっ!」

 両手の爪で顔を掻きむしるサスケ。血が流れる。


『信じてくれたか、ミウラのヌシ様!』

『ああ。こうしないと真実は引き出せないからな。ありがとう。これはほんの感謝の気持ちだ。受け取ってくれ、。鋼雷砲(バーニングイグニツシヨン)

 ボチュン!


 ハコネの顔面から入り、尻尾を吹き飛ばして飛び出していく鋼雷砲(バーニングイグニツシヨン)。銀の彫像と化した人を避け、岩肌に食い込み爆発した。

 ハコネは、安心したまま死んでいった。


『これだから! バカは!』

「一件落着にござるな」

 小豆色の細袖に濃紺の袴姿のイオタが、音を立てて納刀した。


『あ、イオタさん、いつの間に服を? こほん! さ、帰ろう』

 クルリと背を向けるミウラ。


 イオタはサスケ達の方を見たまま動こうとしない。

「なあ、ミウラのヌシよ。昔、某が『石化』されたとき、ディ……そうそう、ディーノ殿に直していただいた。あれ、おヌシ横で見ておったろう? ミウラ程の者ならば、見ただけで治し方を会得しておろう?」


 石化なら治せる?! ならば白銀化も!

 村人達は、万に一つの期待に頬を赤らめ、ミウラを凝視した。


『石化解除ですか? 毒と形状変化の複合技ですからね。残念ながら、わたしの技術じゃ無理です』

「ああー、やっぱ駄目かー」


 村人達ががっくりと肩を落とした。一度期待させてから落とされる。心に受けたダメージは大きい。

 拳を打ち付ける者、嘆く者、後悔する者、共通して泣き叫んでいた。最後の希望が、今ついえた。

 我らは何をしたというのか? 悪い事をしたのか? 生きてることが罪なのか?

 終わりだ。終わりだ。終わりだ。終わりだ……


「では、ミウラの技をもってしても『白銀化』を治せぬか?」


 ミウラは上を向いて下を向いて、今は斜め上に視線を置いている。

 そして一言。

『出来るよ』

 

 

 

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