ヌシ殺しの刀
『カイの? ヌシ様が? 殺された? マジで?』
情報源はムサシ様。信用できるヌシ様だ。
『どうやって?』
「そりゃぁヌシ殺しの剣ででござろう?」
『殺して死ぬようなヌシではないかと……手口を知りたい』
「ヌシは首を落とさぬ限り、だいたい生きられる。あの高さの首を落とすには……転がした?」
『それです!』
「どうやって?」
『それです!』
腕を組んで首を捻るネコ2匹。
『それには、どうやって儂がカイのヌシの死を知ったか。そのネタを開示せねばなるまい』
『その通りでございますが、それでよろしいので?』
「ムサシのヌシ様よ、それではヌシ様の能力を知らせることとなります。我らは疑ったりしておりません。お控えくだされよ」
各のヌシが持つ能力は、初見でこそ充分な威力を発揮する。平和な時代ならともかく、物騒な風が吹きつつあるこの時代に、手の内は開かさぬ方がよい。そう言うことだ。
『イオタちゃんらが漏らすのかのう? 漏らさぬじゃろ? うんうん。儂はのう、話をしたヌシや人の気配を追えるのじゃ。エチゴに帰った商人の気配なんかも追えるのじゃよ? 凄いじゃろ?』
「それは便利でござるな!」
『あーうーうん。凄いっすね』
ミウラの歯切れが悪かった。
「それでは某らのことも追えると言うことにござるな? これはどうして! ムサシのヌシ様は恐ろしいお方でござるな」
ミウラの不安を言い当てるイオタ。おそらく、隠れ家なんかもバレている。どこでナニを致したか、何所で誰に小細工したかもお見通しだろう。
『その能力を開示した相手は、ムサシのヌシ様に先手で攻撃できなくなりますね。なるほど、知らせることが攻撃である。さすがムサシのヌシ様。ところで……』
ミウラのターン。
『まさか、ムサシのヌシ様ともあろうお方が、我らの秘め事を公言したり、1人悦に入ったりとか、変質者のまねごとはいたしませんよね?』
ムサシは横一本線になってる目を僅かばかり開いた。視線は斜め上方向にはずれている。
「はっはっはっ、ミウラよ、まさか古神とも呼ばれ、各地のヌシから崇め奉られ尊敬の念を一心に受けるムサシのヌシ様ともあろうお方が、よもやよもや、かような卑劣漢呼ばわり、かつ、バカにされた目を一生向けられるような下卑た行いなどするはずがなかろう? 疑うことすら不敬でござるよ」
『おほおほおほ! も、もちろんじゃともさ! これからは、……じゃなくて、前から一切やっておらんよ。ホントじゃよ』
『やっぱ、やってんだ』
「でばがめでござる」
『それはともかく!』
ムサシは。気迫で誤魔化しに入った。
『ずっと追っておったカイのヌシの気配が、シナノの浅い領域でぷっつりと途絶えたのじゃ。途絶える直前じゃった。カイのヌシから念話が入った……』
カイは、ムサシの能力に気づいていたのだろう。
ムサシは薄く目を開いた。覗く瞳は水晶のよう。
『戦神と称されたカイのヌシが、最後に残した言葉はたった1つ。「刀」じゃ』
『やはりヌシ殺しの剣!』
「カイのヌシ様も、さぞや無念でござったろう」
3柱のヌシから出る、正体不明の波動により、土煙が同心円状に舞い上がる。
ムサシが、片目を開いた。真面目な光で澄んだ眼だった。
『カイのヌシほどの大ヌシですら、殺された。ヌシ殺しの剣を所持するサムライは、大ヌシに匹敵する、いや、大ヌシを凌駕する力を持っておるということじゃ。カイに有力なヌシは居なくなった。サムライ達が進出して来るであろう。おヌシらも気をつけよ!』
イオタとミウラは頭の中に地図を描いた。
イオタとミウラの予期せぬ努力の甲斐あって、イズ半島とサガミが一つの国になった。γの字に似ている。
カイの国とはタンザワ山地でくっついている。国境線はそこそこ長い。
『やべぇんじゃね?』
『イオタちゃんとミウラのヌシ、気をつけよ。なんとなくそっちに向かう気がするでの』
『ほほう、それまたどうして?』
『儂は、ずーっと何もしとらん。安全なヌシとされておる。それに儂の領土って、山より平野が圧倒的に多いじゃろう? 危険な橋を渡って大ヌシを倒しても利が少ないじゃろ? ならば、平地でイキっとる同族のサムライと戦をする方がよほど理にかなっておる』
「うーむ、持たない者は無敵にござる!」
『奪う物がありませんからね!』
『じゃろ? 領土に何もこだわりも持たぬから、危なくなりそうだなと思うたらすぐ逃げる。だから相手にされない。相手になるのは殺して利のある相手だけ。ここら辺じゃと、スルガかサガミ。スルガは大ヌシとして有名。サガミは代替わり。儂がヌシ殺し剣を所持するサムライなら、サガミのミウラを狙うがのう』
イズ半島の秘密の家にて。
仕事を終えたイオタとミウラは、順次ここに集まった。
「こちらは済んだでござるよ」
『わたしの方も抜かりありません』
何をしていたのかというと、2人手分けして隠れ村の住民に、へんな刀を持った見たことのないサムライがやってきたら、知らせるようにと触れ回ってきたのだ。
『祭壇で祈れば、こちらに警報が届くことになっています』
「器用でござるな?」
『前世での魔法の応用です。イオタさんとテレパシー、もとい、念話通信を開設できましたから、その応用でもあります』
「まずは一安心。ビクビクしなくてもすむ。どれ、中へ入ってヨモギ茶でも飲もう。主人である某が淹れて進ぜよう」
『ご相伴にあずかります』
虎の大きさにまで縮むミウラ。まん丸な目が可愛い。
『やっぱ、綺麗な嫁さんの淹れる茶は別格ですからね』
「はっはっはっ! ……某が主人で、ミウラが嫁にござるよ」
『何をおっしゃる子猫ちゃん。わたしには”禁則事項です”で、旦那は”自主規制”です。生物学的にどちらが夫でどちらがヨメかは周知の事実!』
「表に出ろ!」
『よろしい。では戦争だ。文字通り雌雄を決して――おや?』
叩きに備え巨大化したミウラであるが、斜め上に視線を送り、台詞を途中で止めた。
「どうしたミウラ? 怖じ気づいたか?」
『好戦的な侵入者発見です!』




