カイのヌシ
戦神とも呼称されるカイのヌシ。彼は強い。
ヌシの世界に上下関係はない。主従もない。ただ、たまさかに、何らかの原因・理由で力を付けたヌシが、暴力的になり、他のヌシの領土を脅かすことがある。大概の結末は弱い者の死だ。
基本、ヌシは他のヌシに興味がない。よって、隣の領土のヌシが殺されたとしても、さほど関心を持たない。力あるヌシにも同じく関心を持たない。尊大かつ、強い自尊心を持つ者ばかりなので、侵略者には容赦ない。騒がしいのにも容赦ない。温和しい動植物だけを領土に住まわしている。そんな感覚だ。
カイシは昔から強い。この世に降臨したときから強かった。気に要らん振る舞いをするヌシは容赦なく叩き殺す。反面、頼られれば力や知恵を貸す。
要は親分肌なのだ。
そんな性格もあってか、カイの国にはカイを慕う下ヌシばかりが少数棲んでいた。……カイとそりが合わないヌシは皆殺されたとも言う。
生き残った下ヌシ達は、カイの頼みなら快く引き受けてくれる。『ちょと、そこのサムライ共をシメてきてくれないか』などと頼もうものなら、気の利いた下ヌシであれば、壊滅させてきてくれる。
そんなカイが、ヌシ殺しの剣を知ったのはずいぶんと前だ。なんだそれは、と大変興味を引かれた。下ヌシに対してシナノの国の様子も見てきて欲しい旨頼んだ。
おやすいご用と半分のヌシがシナノに入った。それが、帰ってこなかった。どうもサムライ共に殺されたらしい。
第二弾を投入した。今度は策を講じた。シナノの国と接するラインに沿って、一斉に侵入させた。北と南から挟み込むように侵入させた。本拠地だけでも掴む算段だ。
帰ってきたのはたった一柱。
とある朝早く、大怪我を負って帰ってきた。全部刀傷だ。ヌシを切り刻める刀。すなわちヌシ殺しの剣。このヌシは、カイの元へ辿り着いたら死んでしまった。
「昨夕。フジ。まだ居る」と言葉を残して。
このヌシは南から侵入させたヌシだ。ならば、ヌシ殺しの剣は最南端にある。剣を所持したサムライはまだそこにいる!
カイの行動は早かった。ミウラも俊足だが、その足を遙かに超える速度でタンザワ山地に突入した。
臭う! ヌシの血の匂いだ。ヌシは消えても血の匂いだけは残る。
カイは血の後をたどり、フジの見える場所までやってきた。
森の中にぽっかり空いた広場。
サムライの集団がそこにいた! 数は20人あまり。サムライにしてはみすぼらしい姿。全員が帯刀しており、輪になって腰を下ろしていた。
頭がくらむほど濃い血の匂い。現場はここだ!
『キサマらかーッ!』
カイは吠えた!
沈着冷静なカイが怒りにその身を染めた!
『ガァー!』
サムライ共の固まりに、爆炎の柱が立した。吹き飛ぶサムライ達。
カイは、サムライ達の中心に地響きを立て降り立った!
サムライのほとんどは転がったままだが、中には爆炎を避け、刀を抜いている者もいる。カイと戦うつもりらしい。
その態度が余計な怒りを生んだ。
『おろか共め――』
痛みが走る。後ろ足だ!
首を捻ると、足から3カ所、血が出ている。刀を振り切ったサムライが3人。素早く散開し、木々の中へ姿を消した。
輪になっていたサムライは囮。この場から移動しなかったのは罠。ヌシ殺しの剣を持つ者は、姿を見せない。
『小賢しいわっ!』
もう一度、爆炎の炎を召還した。サムライ共に己が力を見せつけるように。カイの正面にきついのを一発! 体を捻り、左右に一発ずつ。倒れていた侍の体は吹き飛び、かろうじて立っていた囮のサムライも吹き飛んだ。
『これで、邪魔者は居なくなったな!』
カイは、サムライの気配を探った。
見つけた。
というか、いるわいるわ。……何人いるのだ?
森から、木々の間から、ワラワラと人が顔を出す。手に手に、武器を持って。
森や山や岩場は、ヌシの独壇場。人は平地でこそ、集団の力を発揮する。
『片腹痛いわ!』
巨大な前脚で、地を叩く! 地面が陥没し、ヒビが入った!
次の瞬間、目にもとまらぬ速度で、正面の森に飛び込む。爆発を正面に展開しながら。
人など森ごと吹き飛ばしてくれる!
「後ろは爆発しない! 後ろへ回れ!」
人の声が飛ぶ。ほんとに小賢しい。確かに、カイの攻撃は後方が緩い。カイが放つ「天変地異」の能力は前面に集中している。一方向にしか向かないが、巨大な攻撃力が弱点を補って余りある。どれくらいの攻撃力かというと……。
『ガアァーッ!』
森が一直線に吹き飛んでいく。衝撃波は向こう正面の湖を二つに割り、山の麓にぶつかり、土煙を高く上げた。
人間共め! さすがに怯んだだろう。
『見たか! おろか者めが! ぬっ!』
また、後ろ足に痛みが走る。刀で斬りつけられた。油断していたからだ。今度は深かった!
『ぐうぅ!』
たまらず、足を折り、喉の奥を鳴らした。ミウラのヌシが魔剣と呼んだ意味が分かった。だが、この程度!
『カイのヌシに怪我させたこと、褒めてやろう』
まだまだ、余裕だ。たかが人。何人集まろうと、ヌシの敵ではない。
カイはぐるりと見渡した。さて、剣の持ち主は何所にいる?
森の木はまだ残っている。大きな岩も転がっている。その障害物の間から、人の顔が覗く、覗く、覗く。
魔剣を持つ者は3人。だが、大勢が散開している。誰が持っているのか分からない。
大技を撃っても殺せるのは数人だろう。効率が非情に悪い
なるほど、人数を繰り出してきたか。考えたな……。
ヌシ殺しの剣という武器を手に入れたからこその戦法だ。
『笑止』
カイは、獰猛な顔で舌を一舐め。最も密集している地点に飛び込んでいった。
またまた、サガミの平野部を時速500キロオーバーで突っ走る巨大ネコが1匹。背中に乗るイオタの尻尾が風圧でなびいている。
イオタとミウラはムサシのヌシに呼ばれていた。
「嫌な予感がするでござる。どうせ魔剣のことでござろう」
『あの後、カイの虎じゃなくてカイのヌシ様が「探りを入れる」なんて、時代劇っぽいことおっしゃってましたが、その調査結果じゃないんですかね?』
「その辺での話でござろうな。にしても、恐れていたカイのヌシ様が案外話の通じるお方で助かったでござるよ」
『ほんとっすね。これでエチゴのヌシ様との間に強力無比な壁ができました。注意を払う相手が3柱から2柱に減りましたから、気持ちの上で楽になりました』
「で、ござるな。危ないヌシは、カイのヌシ様が片付けてくださる。有り難い話にござる」
『カイのヌシ様は絶対神話! おっと、ムサシのヌシ様です。なんだろ? ずいぶん下に降りられてきてますね?』
ムサシのヌシは、山を登ったところすぐに座っていた。
『おお、ミウラのヌシ、イオタちゃん! 大変じゃ!』
「まだちゃん付けでござるか? どうされた?」
『カイのヌシ様が殺されたんじゃ!』
「『え?』」




